FRP戦略コラム – FRPのマトリックスは熱硬化性樹脂か熱可塑性樹脂か
FRP戦略コラムとして、FRP業界に参入を検討されている企業様向けにFRPに関する戦略を検討するにあたり、参考になると考えられる情報を不定期で掲載いたします。
今回のコラムのテーマは、
「FRPのマトリックスは熱硬化性樹脂か熱可塑性樹脂か」
です。
FRPを比較的大きな構造材として用いる場合、未硬化ではやわらかいという取扱い性の高さから、
熱硬化性樹脂をマトリックスとしたFRPがこれまで主流でした。
ところが最近は、FRPの成形速度を上げることで製造コストを下げ、より一般汎用的に使いたいという要望から、熱可塑性マトリックスのFRPが注目されています。
昨年の記事でもToyota MIRAIに熱可塑性マトリックスのCFRPを適用したという話をご紹介しました。
さて、テーマである熱可塑性樹脂か、熱硬化性樹脂か、というマトリックス選択に関する戦略ですが、
選択において最も重視すべき要素は、
FRP適用先のアプリケーション(製品や部品)に必要な耐熱性と外観性
だと考えます。
まず、耐熱性についてです。
熱硬化性樹脂は、分子が三次元架橋して非常に剛直な集合体となることで硬化するものです。
一方で熱可塑性樹脂というのは、直鎖上高分子の集合体であり、絡み合っているような状態です。
分子間力と熱による分子運動エネルギーの力が釣り合う温度である「ガラス転移温度」というものが、樹脂の耐熱指標としてよく用いられますが、がちがちに固まった熱硬化性樹脂よりも、絡み合っているだけの熱可塑性樹脂のほうが動きやすいのは事実です。
このため、熱可塑性樹脂よりも熱硬化性樹脂のほうが耐熱性が高いのです。
よって、高温に耐えなくてはいけないのに、熱可塑性樹脂をマトリックスとしたFRPを選ぶことは、
その後の様々な技術的ハードルが出てくることになります。
その一つが、加熱成形温度。
熱可塑性樹脂の中で最も耐熱性が高いといわれる樹脂の一つにPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)があります。
ガラス転移温度は143℃程度と、熱可塑性樹脂の中では抜群の耐熱性を誇りますが、
FRPの熱硬化性マトリックス樹脂としてよく用いられるエポキシ樹脂においては、
高耐熱タイプとなるとガラス転移温度は200℃を超えます。
そして、200℃を超えるガラス転移温度を持つエポキシ樹脂でも成形温度は180から200℃程度。
加熱すれば固まるので、型の温度も一定で問題ありません(オートクレーブ成形の場合は、脱型前に温度を下げます)。
ところが、143℃のガラス転移温度を有するPEEKを軟化させる温度については、143℃まで上げればやわらかくなるわけではなく、圧力をかけて変形させるには380℃以上に昇温しなくてはいけません。
当然脱型するためには400℃近くまで昇温させた後に冷却をする必要もあることから、設備(特に金型や冷却配管)にはとても負担がかかる工程となってしまいます。
この温度に加えて、問題となるのが圧力です。
オートクレーブ成形の場合、熱硬化性樹脂をマトリックスとしたFRPの場合は3気圧くらいが多いのですが、熱可塑性樹脂をマトリックスとしたFRPではを7気圧以上かけることが一般的です。さらに、プレス成形に至っては14気圧以上の圧力が必要です。
この様に、熱可塑性樹脂をマトリックスとする場合、高い成形温度と成形圧力が必要となることは認識しておく必要があります。
もう一つが外観です。
成形物の繊維堆積含有率(Vf)にもよりますが、熱硬化性樹脂をマトリックスとする場合、FRP成形体の表面は極めて綺麗です。
加熱中に一度粘度が下がって成形体の表面に樹脂がコーティングされるイメージになるため、金型の表面がそのまま転写されるイメージとなります。
それに対して、熱可塑性樹脂は表面に凹凸や結晶化による白濁といったものが残ることが多いです。
熱可塑性樹脂の場合、既に高分子となっているものを高温にして粘度を下げ、それに圧力をかけて成形します。
このため、冷却工程での冷却収縮などによって凹凸が出たり、結晶性樹脂であるPEEKなどは樹脂の結晶化によって白濁することがあります。
人の目に触れるような場所で使わない、塗装をするといったひと手間を加えることも検討することで、熱可塑性マトリックスのFRPの適用範囲がさらに広がるのかもしれません。
高速成型を狙って熱可塑性マトリックス樹脂をプリプレグとしたFRPを使おう、という考えだけではなく、
熱可塑、熱硬化の特性を理解した上でどちらを選択するのか、ということを考えるときの参考になれば幸いです。