PEKK 樹脂 Arkema での生産量拡大
熱可塑性樹脂の中でもずば抜けた物理特性、機械特性を有するスーパーエンプラの一つである、PEKK (Poly Ether Ketone Ketone)。
FRP や 3D プリンタ の需要拡大に備えて Arkema がフランスとアメリカで生産量を拡大するとのことです。
http://www.arkema.com/en/media/news/news-details/Arkema-expands-its-specialty-polymer-PEKK-production-capacities-in-France-and-the-United-States/?back=true
Arkema というのは2004年に、世界的なフランスの石油ガス会社である Total S.A. の化学部門から独立した企業です。
http://www.total.com/en/
Arkema の発表によると2016年の上半期までにフランスでの生産量を2倍に、
2018年下半期までにアメリカの Alabama に PEKK の量産工場を稼働させるとのことです。
タクトタイムの短さと、際立って高い耐衝撃性、そして化学薬品に対する安定性などから需要が高まっている熱可塑性FRPを象徴するようなニュースですね。
既に熱可塑性FRPの高耐熱製品として浸透している PEEK (Poly Ether Ether Ketone)と比較し、
PEKK はあまり一般的ではない印象です。
PEKK マトリックスのFRPがすでに製品化されている Cytec の以下の製品を例に PEKK のFRP特性を見ていきたいと思います。
https://www.cytec.com/sites/default/files/datasheets/PEKK_032012-02.pdf
PANの中弾性高強度繊維の一種である AS4D 12K で強化されたFRPの物性が載っています。
この物性を見た時に目を引いたのが0°圧縮(Compression)の強度の高さです。
熱硬化性の代表格であるエポキシマトリックスのFRPと比較し、
同等繊維であれば倍近くの強度が出ているのではないでしょうか。
熱可塑性樹脂が最終破壊に至る前に生じる初期破壊のトランスバースクラックに対する耐性を有する、
ということが裏付けられていると考えます。
ただし、その一方で面内せん断(In-plane shear)の低さには注意が必要です。
上記で例として示したエポキシマトリックスのFRPと比較すると半分程度の強度しかでていません。
ヤング率も非常に低く、せん断方向に対して変形しやすくかつ強度が低いということが確認できます。
そして、物理特性もまた特記すべきところがあります。
まず目につくのは熱可塑性樹脂としては非常に高いガラス転移温度(Tg)。
熱可塑性樹脂の中ではトップレベルの159℃という温度を示しています。
一般的な PEEK よりも10℃以上高いです。
それゆえある程度仕方ないのですが、成形温度と圧力も非常に高いです。
オートクレーブでの工程温度は376℃、成形圧力は7Kg/cm2以上。
やはりこの工程のむずかしさは特記すべきところだと思います。
バックフィルム、離型フィルムにポリイミドを使うなど、副資材の費用の高さと扱いにくさも考慮する必要があるでしょう。
それでも Arkema が PEKK の製造工場を拡大しようとしているのも事実。
FRPに限らず3D プリンタなど様々な領域での高耐熱熱可塑性樹脂の需要拡大が今まで以上に進んでいくのかもしれません。