はじめてのFRP – 熱可塑性 マトリックス樹脂の 結晶性 / 非晶性
将来的には適用が拡大されると期待されている、 熱可塑性 樹脂をマトリックスとしたFRP。
成形速度の速さ、靭性の高さなどから産官学で様々な研究、開発が行われています。
そして、熱可塑性樹脂を用いるときに避けられない概念、それが「 結晶性 / 非晶性 」です。
今日の記事では熱可塑性樹脂の 結晶性 、 非晶性 の基本をご紹介してみたいと思います。
熱可塑性樹脂を概念的に説明するとどうなるでしょうか。
イメージとしては、温めると溶け、冷やすと再度かたくなるチョコレートに似ています。
もう少し化学的にいうと、主鎖という分子が長く連なる重合反応、付加反応が終わっている高分子であり、長い分子鎖が規則的な配列をしたり、絡み合ったりしている状態にあります。
主鎖が連なる重合反応、付加反応や主鎖からぶら下がる側鎖同士がつながる化学反応を加熱成形によって進める熱硬化性樹脂とはだいぶイメージが異なります。
熱硬化性樹脂はクッキーのようなイメージであり、一度焼いて固めてしまうと加熱をしても、もう二度とやわらかくなりません。
上述したように熱硬化性樹脂は主鎖だけではなく、反応性を持つ側鎖とよばれる主鎖にぶら下がった官能基(有機化合物の性質を決める特定の原子の集まり)が反応することで、3次元網の目構造を形成することも多いです。一般的なエポキシをマトリックスとした樹脂ではこのような反応が多数を占めます。
話を熱可塑性樹脂に戻します。
先述したとおり、熱可塑性樹脂は既に分子が長く連なった高分子が絡み合ったり、配列している状態ですので熱硬化性樹脂よりも変形に対する追従性が高く、耐衝撃性に優れるのが一般的です。
また、官能基による反応は終わっているので室温で放置しておいても副反応で付加反応や縮合反応といった硬化反応が進行する、活性な官能基が失活するといった問題はなく、抜群の材料保管安定性を有しています。
硬化反応抑制のために基本冷凍保存の熱硬化性樹脂とはここも異なります。
そして熱可塑性樹脂の最も特徴的な性質として、結晶性、非晶性というものがあります。
既に述べた主鎖にぶら下がる側鎖の分子が小さいものが結晶性、
逆に側鎖が「かさ高い(分子が大きい)」ものは非晶性となります。
以下説明の都合上、樹脂のことをより広域な意味である「高分子(分子が連なったもの)」と書かせていただきます。
結晶性高分子と非晶性高分子の差異は何でしょうか。
結晶性高分子は、
– ガラス転移温度、融点や結晶化温度が存在
– 透明性が劣る
– 結晶化に伴う体積変化が起こる
– 機械強度、疲労強度、耐薬品性が高い
– 摺動性に優れる
等
といった特徴があるのに対し、非晶性高分子は、
– 融点や結晶化温度は存在せず、ガラス転移温度のみ
– 透明性を有する
– 冷却固化時の容積変化が少ない
– クリープ性、耐光性、被塗装性、接着性に優れる
– 耐疲労特性が低い
– 耐衝撃性に優れる
等
といった特徴があります。
より詳細をご覧になりたい場合は、引用元である以下のURLをご覧ください。
http://www.koito-j.com/tigai.htm
ここで最も注目すべきは、融点や結晶化温度の有無です。
結晶性高分子も非晶性高分子も加熱することで溶融状態(いわゆる流動性のある状態)になりますが、その後冷却して固化するときに両者で大きな差が出ます。
少しだけ化学的な話をすると、溶融状態では長い分子である高分子が、
様々な方向を向いたランダム配列をとっている状態となります。
ここから固化させるために冷却を始めると、
結晶化高分子は運動エネルギーを失って規則的な配列をし、
「結晶構造」を形成します。
ところが、射出成形の時などに成形品を早く取り出したいために、急冷すると上記の結晶構造を形成するための規則配列が終わる前に主鎖の動きが鈍ってしまい「非晶部」が形成されます。
全体の中で結晶構造を形成できた部分(非晶部以外)の比率のことを、
「 結晶化度 」といいますが、この結晶化度によって固化後の物性や寸法が大きく変化してしまいます。
結晶化度が低いほど結晶性高分子であっても非晶性の性質が表面化してくることになります。
加えて成形温度設定においては、「ガラス転移温度」と「融点」を区別して考慮することが重要です。
例えば最近熱可塑性FRPとして注目されている「ポリアミド(ナイロン)」ですが、
ガラス転移温度は約50℃です。
ところが成形温度は250?300℃まで上げる必要があります。
これはポリアミドの融点(結晶融点)が230?270℃であることに由来しています。
当然冷却速度によって結晶化度が変化しますので、最適な冷却条件の設定というのもポイントとなります。
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂を成形する場合、
それは結晶性高分子なのか非晶性高分子なのかを理解し、
特に結晶性高分子の場合は成形温度はもちろん、冷却温度まで含めて慎重に検討することが重要であると考えます。