熱可塑性FRPの continuous resistance welding に関する研究
FRP業界の研究動向として、熱可塑性FRPの熱溶着の一つである continuous resistance welding についてご紹介したいと思います。
この論文は Elsevier社出版の Composites part A に掲載されています。
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Composites Part A: Applied Science and Manufacturing
Volume 70, March 2015, Pages 16–26
Huajie Shia, Irene Fernandez Villegasa, Marc-André Octeaub, Harald E.N. Berseea, Ali Yousefpourb
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Continuous resistance welding というのは、2枚のFRP間に導電と導熱の役割を持たせるための金属メッシュを挟み、その両側に Block connector を取り付けて、その上を電源につながったローラーを正極・負極側を平行に転がすことでメッシュに電気を流し、この時に抵抗で発生する熱によって連続的に溶着をさせるというシステムです。
尚、今回の論文で使用されているのは E-glass と Polyphenylenesulfide ( PPS )のFRP、CETEX(R) GF/PPS ( Ten Cate 製)です。積層構成は[(0/90)]4sです。
上記の論文ではこの溶着システムのモデリングを「電気的なモデル」と「熱的モデル」の組み合わせで試みています。
具体的なパラメータとして、
– 入力電源効率
– Bloc connector の押し付け力
– 接触抵抗
– 熱媒体である金属メッシュの電気特性と抵抗率
– FRP、金属、電極などの熱伝導率
– 電極の移動速度
といったものを細かく考慮しています。
そして、論文の大まかな結論としては以下のことが述べられています。
1.層間、面内方向ともに、溶着温度は高い精度でシミュレーションにて予測ができた。
2.面内の温度分布は均一である一方、層間方向では端面付近で温度が高いという不均一性を確認した。
3.電極の押し付け荷重は、接触抵抗と熱伝導に大きな影響を与える。押し付け荷重を上げると、層間方向への熱伝導効率が上昇する。
4.溶着電圧と溶着スピード(ローラーの電極移動速度)は溶着温度に大きな影響を与える。電圧を上げる、もしくは溶着スピードを下げることで溶着温度は上がる。
5.Block connector の大きさは溶着パラメータに影響を与え、Block connector を大きくすれば溶着速度は上がるが高電圧が必要となる。
モデルの考え方、それを評価する実験の考え方など、とても丁寧に行われており質の高い研究であると感じました。
実験の組み立てや考察も非常に丁寧で非常に良い論文です。
熱可塑性FRPの熱溶着というのは、熱可塑性マトリックス樹脂の特性である、
「温めると軟化し、冷やすと固化する」
という性質を生かした接合技術の一つです。
今回の論文で紹介されている技術の最大の特徴は、
「大きなものの溶着を安定して実施することができる」
という所にあると思います。
FRP間に金属メッシュを入れ、不連続の Block connector を配列するという手間があるものの、
量産性はある技術ではないかと考えています。
溶着技術としてはこのような電気抵抗を応用するものだけでなく、
超音波、レーザーといったもので溶着する例もあります。
さて今回の論文で最も気になったのは、
「 continuous resistance welding によってどのくらいの接着強度が発現するのか」
というところです。
論文中で溶着しているのは二枚のFRP平板で、そのまま引張ればせん断強度を計測することができます。
室温だけでなく、高湿、高温、低温といったものも評価できるといいです。
欲を言えば、疲労強度を見てみたいです。
座屈する恐れがあるので圧縮を見るのは難しいですが、応力比を変えながら何水準か見れば設計指標となる、静的強度、疲労強度が把握できるでしょう。
熱可塑性FRPの適用をご検討の方々の参考になれば幸いです。