プライマーレスの メタクリレート 系船体構造接着剤
FRPを構造材として用いる場合、FRPどうしに加え異種材について、ほぼ間違いなく必要となる接合技術。
この接合技術のコアの一つとして用いられるものに接着剤があります。
イギリスに本拠地のある樹脂コーティング材を得意とする化学メーカー、 SCOTT BADER は メタクリレート 系の船体向け構造接着剤 Crestabond® を発表しました。
SCOTT BRADER は DNV-GL という海洋適用製品の信頼性評価機関にて接着剤の認定取得することができたと発表しています。DNV-GL については以下のURLをご参照ください。
https://www.dnvgl.com/about/in-brief/our-organisation.html
せん断接着強度はもちろん、剥離強度、耐衝撃、圧縮強度、そして疲労特性についても評価した上での認定取得だったようです。
Crestabond® にはM1-30、M1-60という2つのグレードが用意されており、
前者は小型?中型サイズ、そして単純形状物の接着に、
後者は大型かつ複雑形状の接着に用いられるよう材料設計されれいます。
どちらの接着材も、接着材料そのものの物性は ASTM D638 の引張試験で16?20MPa程度、
弾性率で650?1000MPa程度、そして100%以上の破断伸びを示す様です。
硬化時間はM1-30の working time で25?35分、fixture time で60?80分、
そしてM1-60はそれぞれ70分と150?180分です。
M1-60がM1-30よりも working time が長いのは、大型のものには大量の接着材を塗布する必要がある、
そして複雑形状では接着剤の接着面全面への浸透に時間がかかるということが考慮されているためと考えます。
Crestabond® はFRPの船体製造を主目的として設計されており、アルミニウム、そして不飽和ポリエステルやエポキシをマトリックス樹脂としたガラス繊維強化プラスチック(GFRP)といった材料の接着に適しているとのことです。
今回の Crestabond® は接着剤としてはどのような位置にあるのでしょうか。
他社製品もご紹介しながら Crestabond® の技術ポイントを少し見てみたいと思います。
メタクリレート系接着剤でプライマーレス、かつ破断伸びが100%以上というのは決して真新しいものではなく、一例として日本にも支店のある「アイ・ティー・ダブリュー・インダストリー株式会社(元デブコン)」でも類似製品は販売されています。
http://www.itwppfjapan.com/plexus/etc/product.html
つまり製品のコンセプト自体が斬新というわけではないということがわかります。むしろ、後発という印象です。後発故、DNV-GLなどの公的機関の認定を取り既存品との差別化を図ろうという意図が透けて見えます。
ただしこのような類似品がすでにあるとしても、Crestabond® のポイントの一つはやはりプライマーを無くしたということです。
プライマーは接着剤の選択によっては必須の材料ですが、
表面に塗布する膜厚管理や換気設備の管理、
そして必要に応じてプライマー塗布後から接着までの時間管理など、
管理にとても手間がかかります。
さらには近年の有害物質に関する規制の増加も、作業中にどうしても
”プライマーが空気中に舞うために作業者が吸い込みやすい”
というプライマー使用状況故に、その材料が敬遠される一因となっています。
そんな状況下にあって、接着において管理が難しいプライマー塗布という工程を一つ削減できているということは大きいと思います。
もう一つのポイントは破断伸びが非常に高い(100%以上)ということ。
破断伸びが大きく弾性変形が可能であるということは、被接着体との線膨張の差や低周波の振動加振といった疲労ひずみの吸収につながり、結果として接着強度の信頼性向上に大きく寄与をします。
接着で注目しがちな高強度という点だけではなく、アプリケーションとして使用するにあたり発生する「ひずみ」をどう吸収するのか、というのも接着部分が含まれる構造部材設計思想において重要な点です。
実は接着の技術というのはFRPとは切っても切れない関係にあります。
FRP自体が強化繊維をマトリックス樹脂で ”接着している” ということを認識していただければわかりやすいのではないでしょうか。
つまりFRPを扱う方々が接着に関する理解を深めることはFRPの材料の基本を理解することにつながっていくのです。
FRPの構造設計、またはFRP業界参入において接着剤をご検討されている企業の方々の参考になれば幸いです。