エンジンの シリンダーハウジング へのFRP適用
FRPの最大の弱点の一つである耐熱性。
この弱点を承知の上でエンジンの シリンダー ハウジングへの適用に関する研究が発表されました。
Fraunhofer ICT のプレスリリースで掲載されていた写真を以下に添付します(Image copy right by Fraunhofer ICT)。
Fraunhofer ICT は 住友ベークライト株式会社の高性能樹脂部門であるSBHPPのGFRPを用いて、シリンダーハウジングのコンセプト部品を発表しています。
Fraunhofer ICT : http://www.fraunhofer.de/en.html
住友ベークライト株式会社 : http://www.sumibe.co.jp/
SBHPP : http://www.sbhpp.com/index.php/ja/
本内容についてはSBHPPでも発表されていますが、より詳しく書かれていたFraunhofer ICTの記事をベースに内容をご紹介します。
この Fraunhofer ICT の研究開発責任者がとても興味深いことを言っています。
「エンジン部品をプラスチックで置き換えようという動きは1980年代からあった。
しかし当時は 形を作る という所にこだわりすぎたゆえに、結局小さな部品しか適用できず、
自動車メーカーの業界からプラスチック製のエンジン部品は淘汰されてしまった。」
日本におけるFRP業界の現状を見た時、上記の内容と大きな相違がないということを強く感じます。
形が目に見える「成形加工」にFRP業界の中での産業領域が注目しているという事実がそれを物語ってはいないでしょうか。
上記の反省を踏まえ、Fraunhoferのとった戦略は、
「現行エンジンの設計を注意深く調査し、金属との併用によってFRPを活用できる領域を見極めた。」
ということのようです。
つまり、単なる材料置換ではなく、
「部品の設計」
というところまで立ち返り、FRPを活用できる領域について慎重に見ているのです。
この戦略の結果、シリンダーハウジングを金属との併用によってFRPを適用できるという考えに至ったとのことです。
さらにこのFRPの適用によって得られた付加価値ということに関する考えがさらに興味深いです。
まずは一般的に思いつく観点が述べられています。、
– 現行素材であるアルミダイキャストと同等のコスト
– 設計、材料変更による20%の軽量化
材料、工程費用といったコスト、さらには軽量化効果です。
ここは誰でも思いつくことです。
感心したのはこの次の3点です。
– 熱伝導の低下による放射熱の減少
– エンジンオペレーションによる騒音の減少
– アルミニウムよりも長いライフサイクル
熱伝導といった物理特性、遮音性能という機能性、そしてライフサイクルという環境性能。
このような全体を俯瞰できる観点を持てるかどうかがFRP適用拡大には極めて重要です。
因みに今回用いられているのはSBHPPのGFRPはガラス繊維で強化された フェノール樹脂 マトリックス。
シミュレーションによるインジェクション成形最適化、と書かれているので短繊維のGFRPと考えられます。
シリンダーブロックが実際に作動する部分は金属にして、その外側をGFRPでカバリングする構造をとっており、異種材接合として高いノウハウを適用していると考えられます。
線膨張係数を注意深く調査し、熱により金属とGFRP間での剥離が起こらないよう設計していると推測されます。
ここまで見てくると非常に将来性が高いと考えられる技術ですが、
発表された中では明らかに欠落していると推測される部分があります。
それは、
「FRP材料特性を考慮した、形状設計」
を行っていない可能性が高いということです。
実際には行われているのかもしれませんが、プレスで発表されたエンジン外観をみると一般的な金属のエンジンと大きな差異は認められません。
エンジン設計が最適化されているという暗黙の前提や、
エンジン設計をできる技術者がいない、
もしくはプロトタイプだからそこまで検証していない、
といった背景があるのかもしれませんが明らかに形状設計に関する記述が欠落している印象です。
クライアントの方々だけではなく、FRP業界の方と話をしても、
「FRPへの材料置換による軽量化の恩恵」
という呪縛から解放されていないという印象です。
アプリケーションを想定した材料設計と形状設計。
この知見が浸透するまでにはまだ時間がかかるのかもしれません。