短繊維 FRPの解析
今日は Compositesworld という雑誌の一記事から、 短繊維 FRPの FEM ( Finite Element Method ) 解析 についてお話をご紹介してみたいと思います。
まず結論的な部分からお話をしますと、FRPの FEM解析 というのは極めて難しいです。
この主原因はずばり「 異方性 」です。
均質材である金属などでは無視できるこの異方性ゆえ、
さまざまな状況を模擬することが極めて難しくなってしまいます。
試験片などの平面基準のものであればメッシュを切る際に異方性の成分を入れてあげれば、
それなりに応力分布のや変形の概要を予想できるかもしれません。
ところが形状を持つようになるとソリッド要素ではメッシュをきる作業が大変なのはもちろん(FEM解析をやる方はこのメッシング作業が作業全体の8割以上を占めると言っているくらいです)、異方性を各メッシュごとにローカル座標にて定義した上で評価する必要があるため計算が膨大になると予想されます。
そのため、形状をもったFRP構造材の解析にはシェル要素を使うケースが多いようです。
そんな中、インジェクションで成形された短繊維強化のFRP構造部材の解析について Compositeworld という雑誌で紹介されていました。
http://cw.epubxp.com/i/517026-jun-2015
上記雑誌のp.10にある、
Understanding the influence of fiber orientation on structural analysis of fiber-filled parts
という記事です。
ここで紹介されているFRP解析の中で注目されているのは、
「FRP中の繊維配向」
です。
射出成形で形状を作られた構造部材であるためどうしても繊維に配向が出る。
この繊維配向の機械的な影響を調べるというのが今回紹介されている解析技術の要点といえます。
一例としてペン先のような5角形の形の解析結果が述べられています。
この形状について、インジェクション後の繊維配向により剛性に異方性がでているという計算結果がコンター図で示されています。
尚、Vf30%、繊維が0°配向、45°の場合の(Ex、Ey)[MPa]がそれぞれ(12,000, 4,000)、(6,000、6,000)という条件で計算されています。
さらに計算上のみで、0°方向引張、面内せん断(45°引張)、層間引張(90°引張)の結果も述べられており、破断前の塑性変形の様子なども模擬できています。
このような射出成形の短繊維FRP成形物の強度シミュレーションは、
– Autodesk Moldflow (Waltham, MA, US)
– Siemens PLM Software (Plano, TX, US)
– Dassault Systèmes (Vélizy-Villacoublay, France)
といったようなものがあるようです。
上で述べてきた繊維配向はもちろん、ウェルドラインの位置まで示すことが可能なソフトウェアもあるそうです。日進月歩のソフトウェア業界の技術に感心してしまいます。
このように非常に難しいFRPの解析ですが概要把握には力を発揮するレベルまで来ています。
しかし同時に盲点があるのも事実です。
上述したようにFRPの解析は「精度」という観点でまだ課題が多いのが現実です。
あくまで全体を把握するという参考ツールとして用いるのであれば問題ありませんが、
解析を盲目的に信じてしまい現実とかけ離れた解釈をしている、
というケースも珍しくありません。
FRPの解析の精度を上げるには、
実試験に合わせて解析における材料物性や境界条件、加えて拘束条件といったものを調整する、
という非常に時間と労力のかかる作業を続けるということが必要です。
PCやソフトウェアの性能が上がったことで、上記の基本姿勢を忘れてしまうことが多くなっているのかもしれません。
FRPにおいてソフトウェアは概要を理解するための参考ツールである。
このことを忘れずに目の前の現実を最重要視して慎重に進むことをお勧めします。