Water Jet 加工大手 Flow の設備を B777X のFRPトリム加工システムに採用
Water Jet 加工機の老舗の一つである Flow 。
このFlowのWater jet 5軸加工機が B777X に採用されるFRP部品のトリム加工に採用されることが決まりました。
http://aipaerospace.com/abrasive-waterjet-focal-point-rotary
Flowは2013年9月に American Industrial Partners (AIP) の一員となり、AIPの中で加工部門を担っているようです。
http://www.flowwaterjet.com/en/whats-new/press-releases/press/Flow-Acquired-by-AIP.aspx
AIPというのは2012年に、Coast Composites, Global Tooling Systems, Odyssey Industries, and Texstars from Hampson Industries plc. という企業たちが主体となり、北米並びに世界に向けた産業振興同盟のような会社をつくったものが始まりのようです。
http://aipaerospace.com/about-us
各社がバラバラにやるのではなく、各異なる領域の企業がお金を出し合って新しい会社を作り、一気通貫のサービスを提供するというのはFRP業界に限らず一種のトレンドなのかもしれません。
恐らく、各社が各社の強みだけで生き残れるほど昨今のものづくり業界は甘くない、
ということを強く感じます。
さて2013年にAIPに加入したFlowですが、日本にも支社をもつこの業界では実績のある企業です。
FRPに限らずですがFlowの Water Jet 加工機の適用範囲は広がってきています。
これらの躍進につながった最も大きな要因は、
「加工機そのものの加工精度向上と軸数増加」
です。
以下のURLでFlowの加工機のデモを見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=TpDpnmyYraQ
加工機のヘッドを滑らかに動かすためにチェーンの形状を見直すなど、加工精度を高めるための配慮をところどころに見ることができるのではないでしょうか。
以前、Flowではロボットアームを用いた加工機を大きく前面に出していましたが、高圧の水を噴射するにあたってはヘッドの剛性が必要なため、門型(テーブル型)がメインになったのかもしれません。
FRPの製造工程のメインの一つはこのトリミングではありますが、出てきたバリを精度よく除去するというのはFRP量産工程では極めて重要な要素となります。
バリをできる限り出さない型設計にするというのも一案ではありますが、バリが出ないということは熱硬化、熱可塑に限らず材料の流れをせき止めるということを意味し、角部に樹脂リッチの部分が出現する、材料が充填されないといった問題が出ることになります。
また、型止め位置を制御することによりバリを薄くするという考えもありますが、
型閉じしたときのバリを薄く設定しすぎると成形物の厚みは大きめにできてしまう、
という弊害も生じます。
そのためある程度パーティングラインから材料をバリとして出すということは、
繊維や材料充填不良を防ぐために重要なコンセプトとなります。
ところがこのバリ除去というのは大きなものほど除去に時間がかかります。
下手をすると成形時間よりも長いといったことになりかねません。
このようなバリの除去において、加工速度の速い Water Jet は非常に有力な選択肢となります。
厚手のものはかなり加工速度を遅くしなくてはいけませんが、
薄手のものであればかなりのハイスピードで加工することが可能となります。
加えてFRP加工で避けたい発熱や加工に伴って生じる粉じんといった問題も Water Jet であれば回避できる可能性が高くなるでしょう。
よくFRP業界の方に、
「FRPの加工に水を使うのは問題ないのか」
という質問を受けます。
私の答えは、
「基本的に問題ないが、強化繊維によっては注意」
です。
無機繊維であるガラス繊維や炭素繊維。
これらの加工に Water Jet は全く問題ありません。
ただし、吸水する傾向の高いアラミド繊維のような有機繊維は、念のため加工後に乾燥をするといった気遣いをしておいた方が安心かもしれません。
マトリックス樹脂に対してはどうかというお話をうかがうことはありますが、
重合不十分のオリゴマー状態を除いてまず高分子である樹脂に水が何か悪さをするということは無いです。
官能基を失い、長鎖となった高分子は基本的に不活です。
では Water Jet で気を付けることは何でしょうか。
まず、軸数が増えても基本的には直線で加工するということ。
つまり、設計段階でトリムしやすい形状並びに型設計をしておくことが肝要です。
できるだけ平面でトリムすることを目指した方がいいと思います。
平面のトリムであったとしても、厚みによって生じるテーパー(砥粒の減速によってV字のテーパーが生じる)を補正しなくてはいけないので、できる限りまっすぐに水柱を立てられた方が加工しやすいです。
また水柱を出し始める時、その高圧の水は弾丸のように被加工物に衝撃と大きめの穴を導入することになるため、できるだけトリミングは被加工物の外で水柱を出し始めて安定後に加工に入るというパスラインが設計できるように考えておくことも重要です。
そして砥粒の設定と消費。
いまだに Water Jet は水だけで切断していると誤解されている方がいますが、Water Jet は高圧の水の中に細かい砥粒が混ぜられており、この高速砥粒によって切断加工しているのが原理です。
そのため、砥粒の設定によって切断の様子が変化し、さらにこの砥粒は再利用が難しいため基本的には使い捨てです。
つまり加工において砥粒の設定と加工によって継続的にその砥粒を消費し続ける、そしてその廃棄まで考える必要性については認識しておく必要があります。
そして最も気を付けなければならないこと。
それはノズルのメンテナンスです。
これは一般的なマシニングでも同じことですが、刃物同様、ノズルも消耗します。
厚手の金属さえ切断できる高圧の砥粒入り水が通過するノズルは徐々に削られていきます。
つまりノズルの径がだんだん大きくなっていくのです。
特にトリムラインが成形物ぎりぎりに設定されている場合、
このノズル径の変動によって水柱が成形物に干渉するという事態になりかねません。
ノズルを定期的に交換するという所にも気を遣う必要があります。
Water Jet をFRPのトリム加工への採用をお考えの企業の方々にとって参考になれば幸いです。