Corvette へ Continental Structural Plastics 社 FRP適用拡大
General Motors、いわゆる GM のブランドである Chevrolet のスポーツカー代表格である Corvette 。
http://www.chevroletjapan.com/cars/corvette-coupe/model-overview.html
※ Corvette 写真(オフィシャルホームページからの引用)
以前、アメリカへ出張した時に休暇を使って Corvette Museum に行きましたが、
歴代の車両に加え、車両の歴史説明などがありました。
実は、Corvette は1960年代からFRPを車体に活用しているFRP業界では老舗であることは意外にも知られていません。
当時は短繊維GFを吹き付ける古典的なハンドレイアップで積層しており、まさに手作りの車体でした。
この作り方は今でいうと遊園地の遊具などを作る作り方と同じです。
それと比較し、現在の Corvette はアルミフレームにCFRPのスキンをかぶらせたまさに戦闘機的な構成となっています。
そんなFRP適用先駆者の Corvette が更なる飛躍に挑むようです。
1969年設立で、Auburn Hills(ミシシッピー州)に本拠地を置く、 Continental Structural Plastics ( CSP ) 社。
FRPを含めた複合材料を主体とした軽量化技術を強みとする企業です。
http://www.cspplastics.com/about-us/company-profile/
その CSP が Ultra Lite というブランド材料で Corvette の更なる軽量化に成功したとのことです。
アルミフレームに組み込まれるボンネットなどのスキン材料に使用されるFRPの比重を、2013年モデルで1.9、2014年モデルで1.6、2016年モデルでは1.2にまで減らしていくとのことです。
一般的なPAN系炭素繊維の比重は1.8?1.9程度(pitch系であれば1.6?2.2程度)ですので、現在は炭素繊維と同等、Vf(繊維体積含有率)で60%弱のCFRPで1.6、一般的な樹脂(強化繊維なし)の比重が1.2前後ということを考えると、上記2016年モデルの比重の軽さが以下に異常かがわかります。
これを可能にしているのは Glass Bubbles をフィラーとして採用するという戦略です。
Glass bubblesというのはいわゆる中が空洞の微小粒子のイメージです。
例えば日本でも代理店を持つ3Mも似たような製品を持っていますし(以下のURL参照)、
国内外問わずこの手の材料は前々から存在はしています。
http://www.mmm.co.jp/smd/products/additive_agent/Glassbubble.html
CSPが特徴としているのはその表面状態であると考えます。
上記プレスリリースの記事にも書いてありますが、「表面処理を行った ( Surface treated )」ということですので、何らかの後処理により Glass bubble がフィラーだけでなく、強化材としての機能も発現したと推測します。
そのため、炭素繊維の使用量を削減し、強度や剛性を保持しながら軽量化に成功したと考えるのが自然です。
さらに成型方法も Vacuum and Bonding manufacturing process というCSPが保有する技術を適用することで、表面を自動車車両の基準と言われる Class-A の基準を満たすことができたそうです。
流石はFRP業界では老舗だけあって面白い取り組みです。
今日ご紹介した記事でのポイントは3つ。
1.異種材との組み合わせで構造体を形成している
2.フィラーによる軽量化を狙っている
3.外観の問題を重要視している
それぞれ述べていきます。
1.異種材との組み合わせで構造体を形成している
残念ながら構造部材をFRPのみで完結させようというのは非常に難しいケースがほとんどです。
Corvetteの例を見てもわかるように、衝突安全が必要な個所についてはきちんと金属(今回の例ではアルミ)で保持し、その上で軽量化できるであろうドア、ボンネット、トランク、フロアパネルなどへ積極的にFRPを適用しています。
しかもFRPを自動車に採用するときに最大の弱点である、強化繊維の飛散についても十分に考慮しなくてはいけません。
人が乗車する領域付近はもちろん、人を当ててしまう可能性のあるボンネットなどは特に注意が必要です。
壊れたFRPから出てきた鋭利な強化繊維で人が怪我するようなことがあっては最重要の安全性軽視となってしまい本末転倒です。
安全性に十分考慮しながらも、適材適所でFRPを適用すべきところを見極めるという戦略が重要です。
2.フィラーによる軽量化を狙っている
FRP業界ではあまり一般的ではありませんが、私が居たゴム業界ではごくごく一般的な発想です。
タイヤなどのゴムが黒いのはフィラーとしてカーボンブラックを混ぜているからですが、これと同じ発想をFRPのマトリックス樹脂に転用するのです。
ただしここでもよく考えなくてはいけないことがあります。
まず一つが分散性。
添加するフィラーの粒径が小さいほど表面積が大きくなりフィラーによる強化効果も見込めますが、粒径が小さいほど凝集して分散が難しくなるというデメリットがあります。
この分散性をどのようにして確保するのか、がまず材料開発では肝となります。
加えてフィラーの種類。
今回CSPが発表した Glass Bubbles は樹脂との相溶性、分散性などを改善するため表面処理をしたものを使ったと述べています。
恐らく、定石技術の一つであるシランカップリングなどを用いたと考えます。
ここで樹脂との相溶性の良くないフィラーを用いてしまうと、それはただの異物。
フィラーと樹脂の間の相互作用が弱まり、その欠陥が起点となって破壊が始まるかもしれません。
樹脂単体の時よりも強度が下がってしまってはフィラーを加える意味はほとんどなくなります。
あくまでフィラーは強化繊維に及ばなくともそれに近い強化効果が望めるのだ、
というところが重要です。
加えてフィラーを加えることで一般的には樹脂の粘度は増加します。
粘度増加は基本的に成形に対してはネガの要因の方が大きいため、添加する量や種類にも注意が必要となります。
やみくもにフィラーを入れるのではなく、入れることによってどのようなネガが生じ、そのネガを上回る利点があるということを明確化できる材料設計思想が重要です。
3.外観の問題を重要視している
問い合わせをいただく企業の方の多くの方に共通するのが、
「FRPを自動車に適用できないか」
というところのようです。
戦略として色々あるのは事実ですが、まず知っておかなくてはいけない点の一つとして、
「自動車においては外観が極めて重要」
ということです。
もちろん目に見えるところに使う場合、というのが前提にあります。
一般的にFRPは外観がよくありません。
外観をよくするためには、
– 成形時の粘度を低くする
– 全体に占める樹脂の割合を増やす
– 研磨や塗料といった表面仕上げを行う
といったことを行うしかありません。
成形時の粘度が高い熱可塑性樹脂、強度の必要な一次構造材などをFRPとして適用しようとすると、外観は悪い方向に進んでいきます。
この外観の重要性というのが自動車適用への難しさの一つです。
当然、FRPを知っている方々は既にこのことを理解し、FRPの適材適所を進めている企業の方々もいますが、どうしても早く形を作るというところに注力してしまう企業が多いというのが実感です。
CSPのいう Vacuum and Bonding manufacturing process がどのようなものなのかは不明ですが、外観を重視した成形技術というのもFRP成形戦略の一つといえると思います。
今日はCorvetteに関する最新ニュースを一例にして種々の技術を述べてみました。
ご参考になれば幸いです。