FRP の新たな強化繊維候補 セルロースナノファイバー
FRP の新たな強化繊維候補 セルロースナノファイバー
先日、NHKのニュースにて 来年度から セルロースナノファイバー の事業化検証が環境省で開始されるというニュースが出ていました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150820/k10010195741000.html
概算要求で38億円、自動車メーカーなども巻き込みながらエンドユーザー視点加味の事業化を推し進める、とのこと。
環境省としては、
「温暖化対策だけではなく、国内木材・廃棄物の活用などの波及効果も期待できる」
と非常に前向きにとらえているようです。
実はこのセルロースナノファイバーは、FRPの強化繊維となる可能性を秘める、
非常にポテンシャルの高い素材の一つとして考慮すべきと考えます。
その第一の理由は、
「価格競争力が非常に高い」
というところです。
(後述の矢野先生の動画によると、木材で5?10円/kg、パルプで60?80円/kg)
技術の根幹を理解した上でビジネスを軌道に乗せるにあたり、
素材費用というのは極めて重要です。
FRPの主軸を張るガラス繊維と炭素繊維。
両者の事業規模が全く異なっている理由の一つは、ガラス繊維のその価格競争力があります。
そういう観点で行くとセルロースナノファイバーは、
「大量生産素材による利益確保」
という従来型ビジネスモデルにFRPとして期待に応えられる可能性を秘めています。
今日のコラムではセルロースナノファイバーの概論についてご紹介したいと思います。
ここ数年で注目されつつある本技術ですが、
元々は「ナノテク」がもてはやされた2000年代初頭前から研究は進められていました。
私も2002?2004年は白金ナノ粒子の形態制御、という高分子を使った白金結晶成長の制御に関する研究を行っていました。
当時はナノテクがトレンドの主軸の一つを担っていたのです。
話を元に戻して、セルロースナノファイバーの概論をわかりやすく発信しているのは、
京都大学生存圏研究所、生物機能材料分野、矢野先生ではないでしょうか。
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/cnf
上記の動画をご覧になればセルロースナノファイバーの概論は理解できます。
私が矢野先生のお話で非常に共感できた点。
それは、
「生物の進化過程で作られてきた素材に対し、人間の知恵を融合して新しい素材を生み出す」
というコンセプトです。
私の考える技術の根幹となるコンセプトの一つに、
既存技術の組み合わせにより、新規技術を生み出す
というものがありますが、それと類似した部分もあるという印象です。
そして何より矢野先生が強調されているのは、
「あくまで天然素材を我々は使わせていただく立場。人間の知恵を融合するにあたっては最低限の修飾(恐らく、できる限りシンプルにという意味)で実現したい。」
という所。
製造工程をシンプルに完結させようというその姿勢はエンジニアリングの神髄でもあります。
上記の話の中でセルロースナノファイバーの特徴が紹介されています。
概要は以下の通りです。
(The table regarding material properties is referred from "http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/wp-content/uploads/2013/02/d1aae6582cde72b6a423db01071722eb.pdf")
高強度、高剛性、低線膨張係数ということで、炭素繊維の特徴とほぼ一致します。
やはりナノスケールの繊維ですので、強度と弾性率は素晴らしい値ですね。
ただし注意しなくてはいけないのはこれはあくまで繊維単体の値。
FRPなどの複合材料にしたときにどのような値を示すのかは、
繊維の配向、繊維とマトリックスの濡れ性の関係などによって変化します。
また意外にも線膨張係数が小さいですね。
矢野先生のお話では-200?200℃という広い温度範囲で低線膨張の特性を発揮できるとのこと。
線膨張係数の値が10E-7のスケールですのでほとんど変形しないと考えていいくらいです。
加えて原料が継続的に提供される天然素材である、というのも強みですね。
上記の表中でも赤丸がついています。
日本では矢野先生以外に東京大学の磯貝先生もセルロースナノファイバーの分散に関する研究を行われています。
http://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp/research01_1.html
それ以外では産総研のバイオマスリファイナリー研究センターでセルロースナノファイバーを用いた複合材製造検討が行われています。
https://unit.aist.go.jp/brrc/team_04.html
日本製紙は既に実証生産設備を2013年に構築。
日本企業では最も量産体制に近い所にいるという印象です。
http://www.nipponpapergroup.com/research/organize/cnf/
王子製紙もセルロースナノファイバーに関する研究開発コラムを発表しています。
http://www.ojiholdings.co.jp/r_d/tech_news/015.html
その一方海外では、北欧と北米がセルロースナノファイバーの研究が盛んで、
一例としてスウェーデン主体で進める INNVENTIA という組織はセルロースナノファイバーを1日に100kg以上での生産、
http://www.innventia.com/en/Our-Expertise/New-materials/Nanocellulose/
カナダの National Research Council ではセルロースナノクリスタル(木材をバクテリアや藻類で分解してできる斜状結晶)の標準化に関する取り組みを進めているとのこと。
http://www.nrc-cnrc.gc.ca/eng/achievements/highlights/2011/nano_biovision.html
パルプなどの木材事業が盛んな国では、国を挙げて取り組んでいる様子が見て取れます。
以上のようにセルロースナノファイバー(セルロースナノクリスタル含め)は4?5年ほど前から本格的な量産検討が始まり、ここ1?2年で標準化に関する取り組みも進み始め、量産のための準備は整いつつあるという印象を受けます。
複合材料とした時にどのような機能性を発現するのかはまだ未知数ではありますが、FRPの強化材のとして用いることはできないのか、そして用いた時にどのようなことが期待できるのか、という検討を水面下で進めておくことはやぶさかではないと思います。
表舞台でのトレンドを把握しつつ、水面下では常に次のことを考える。
このような高い視点での取り組みが新規材料の検討には重要です。