North Thin Ply Technology の 開繊FRP
FRPの材料物性そのものを上げる手法としていくつかやり方がありますが、
そのうちの一つとして注目を集めているのが 開繊 技術 (かいせんぎじゅつ)です。
開繊というのはストランド(繊維の束)を偏平に広げて薄くするという技術です。
日本では福井県工業技術センターがこの業界をけん引しています。
http://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/
開繊することにより、マトリックス樹脂の繊維への含浸性が上がり強化繊維からマトリックス樹脂への応力伝達が効率的になる、というのが開繊FRPの物性が高くなる一因といわれています。
この開繊FRPに加え、シミュレーション技術、自動積層という3本柱で事業を展開するのが North Thin Ply Technology です。
http://www.thinplytechnology.com/index.php?lg=
開繊FRPを船舶向けに ThinPreg™ 80EP という80℃硬化エポキシをベースとした製品を展開していますが、このFRPの材料のマトリックス樹脂の改質により製品の性能が上がったと発表しています。
(The Photograph below is referred from http://www.thinplytechnology.com/news-93-ntpt-upgrades-its-marine-prepreg-product-range )
自社でマトリックス樹脂を扱える強みを感じます。
FRP業界参入においては参考になる例ではないでしょうか。
述べた3事業についてそれぞれ順番に概要だけを述べてみます。
開繊技術についてはPAN系CFで18gsm(gram per square meter)、ピッチ系であれば5gsmまで、またガラス繊維(Sガラス)であれば35gsmで厚みでいうと9μmまで薄くできると書いています。
シミュレーション技術としては、 Thin Ply Mesh Idealization ( TPMITM )という技術を擁し、薄層材料の積層シミュレーションを行うことができ、メッシングやFEMによる応力解析も行うようです。
(メッシング方法がソリッド、またはスキンなのかといった詳細は書かれていません)
FRPのFEM解析はいまだに確立しておらず、North Thin Ply Technology がどの程度の力を持っているのかはわかりませんが、最も時間を有するメッシングまで請け負ってやるという姿勢はなかなかのものです。
当然ながら大金を要求されることになると思います。
ソフトウェアの主な活用方法はFEMというよりも、もう一つの主軸である自動積層設備の制御のようです。
自動積層制御設備としては TPT® Layout というソフトを用い、自動積層装置における材料の積層位置、2Dプリフォームのシミュレーションまで行えるようです。
そして3つ目の事業軸が自動積層であるATL ( Automated Tape Laydown )です。
最速1時間当たり450メートルの積層速度を誇るATLを持っているようです。
幅300mmのFRPを積層する場合、1時間当たり135sqm (square meter)という面積の積層に該当します。
上述した制御ソフトの活用により早く、そして確実な材料積層を可能にしているとのこと。
FRP部品製造工程において、積層工程というのはとても時間がかかることを考えれば、
自動積層は間違い無くトレンドとなる技術だと考えます。
今回の North Thin Ply Technology の話で参考になるものは何でしょうか。
まずは、材料、シミュレーション、積層という3つの事業を組み合わせることで、顧客ニーズに対して川上側からアプローチできるという点です。
顧客から相談が来た時に、
「その形状物を実現するにはどのような積層工程が適しているのか」
という話をまずすることができます。
そしてこの North Thin Ply Technology の強みは、
そのために必要な積層制御のシミュレーション提案、
さらにはFRP業界での肝である、
「その積層工程に適した素材の提案」
ができるというところです。
FEM解析は力づくの色も強いところなので、試験と解析の結果を比較しながら解析側の拘束条件やメッシュの見直しをする、といった橋渡しをきちんと行う、という基礎の部分だけ忘れなければ外注でも問題ありません。
それよりも、適した素材提案ができるという所が重要です。
また開繊技術を持っているという点も忘れてはいけません。
開繊技術は物性を高くするというのはもちろんですが、一層一層の厚みを薄くすることで積層厚み精度を高めることができます。
さらにドレープ性(積層する時に湾曲させやすい)も上がるため積層工程のやりやすさは上がるでしょう。
複雑形状の積層という観点でも積層は注目すべき技術です。
その一方で課題と思われる点は何でしょうか。
まず第一に自動積層装置です。
ATLの画像(以下参照)を見ていただくとわかりますが、このATLはほぼ平面の積層しかできないような仕様です。
(The photograph below is referred from http://www.thinplytechnology.com/automated.php)
大型で曲面がほとんどないというものの積層であればこれでも問題ありませんが、FRPで作りたい形状で平面だけのものはほとんどなく、大なり小なり3次元形状になってしまいます。
平面積層しただけで金型に入れると、繊維配向がずれてしまい、想定と異なる積層構成となり、設計通りの特性を発現することができません。
ここでは、積層幅を狭くし、積層するヘッドの軸数を増やすことで複雑形状に対しても適応できるようにしないと、顧客要望に応えることは難しくなるに違いありません。
加えて、開繊FRPは一層あたりの厚みが薄いので、積層時間がかかるということも忘れてはいけません。
今日は開繊材料、シミュレーション、自動積層の3本事業で展開する North Thin Ply Technology をご紹介しました。