熱可塑性FRPの 引き抜き成形 ASTM 試験規格発表
アメリカの試験規格 ASTM から新しい試験規格が発表となりました。
熱可塑性FRP、つまり FRTP の 引き抜き成形 における、試験規格です。
発表されたのは以下の2つです。
– Test Method for Measuring the Effect of Freeze-Thaw Cycling on a Thermoset Pultruded Composite (D7792)
– Test Method for the Evaluation of the Effects of Elevated Temperature and Moisture Conditioning of Pultruded Fiber Reinforced Polymer Composites (D7992)
FRTPの適用拡大の一つとしてトレンドになっている引き抜き成形。
同じ断面であれば大量生産が可能であることから、
ヨーロッパや北米を中心に激しい開発競争が繰り広げられている領域です。
一例として以下のような企業があります。
– Creative pultrusions
http://www.creativepultrusions.com/
– Liberty pultrusions
http://www.libertypultrusions.com/
今回発表となった試験規格は、溶融-凝固の繰り返し、昇温溶融時の湿度の影響に関するものとなっています。
熱可塑性樹脂の成形においては既に重合したポリマーを加熱して溶融させるため、
分子そのものには非常に負担がかかります。
具体的には溶融温度は高耐熱の樹脂であるほど高温になるため、
有機物の分子鎖が切断するレベルの温度に達することがあります。
特に酸素が存在する環境下ではこの熱劣化が進行し、
高靭性が特徴の熱可塑性高分子が脆化(もろくなる)することになります。
このような繰り返し熱履歴がFRPの機械、物理特性に与える影響を見るのが ASTM D7792 です。
昇温時の湿度も加えて重要です。
高温環境における水は酸化作用が高く、樹脂の分子鎖に多大なるダメージを与えます。
特に自動車への適用が期待されるものの吸湿性が高いことが弱点のポリアミド(PA、商標ナイロン)に対して、湿度の注意を払うことは必須といえます。
このような溶融時の湿度影響を見るのが ASTM D7992 です。
どちらもまだ内容を見られていませんが、
どのような評価が書かれているのか非常に興味があります。
以上のことは以下の所でプレスリリースされています。
http://www.astmnewsroom.org/default.aspx?pageid=3831
近年のFRTPの引き抜き成形に対する注目度は増すばかりです。
連続的にFRPの構造部材を製造できるというのが何よりの魅力なのだと思います。
近年はこのような引き抜き成形で製造されたFRTPを曲げ成形することが一つのトレンドとなりつつあり、同一断面ながら様々な形状のものが出始めています。
ところが仮に曲げ成形できたとしても中に入っている繊維の配向がずれてしまうことは避けられません。
強度の大部分を担う繊維配向がずれることは機械的強度が低下することはもちろん、
パイプなどで内部に高圧媒体を流す場合にはバリア性低下や変形にもつながります。
このような事態を防ぐため、予め曲げる部分の積層を変更する、
部分補強を行う、基本積層配向を最適化する、
といった種々の対策がなされるようです。
そして忘れてはいけないのが再加熱による材料の劣化。
上述の通り変形させるときにも加熱する必要があるため、
加熱による材料劣化も起こります。
FRP業界のトレンドの一つとなりつつある 引き抜き成形 。
今回ASTMから発表されたような試験規格も参考にしながら、
安定した製品製造を可能にするFRPの製品設計や製造工程設計を進めることが重要です。