FRP戦略コラム – オートメーション の盲点
近年欧州を中心にFRPの裁断、成型、加工の工程に対する オートメーション 化が非常に盛んです。
ドイツの DIFFENBACHER などはその代表格です。
この企業の一番の売りはRTMを主体としたニアネット成形。
基材をプリフォームし、高圧でマトリックス樹脂を注入します。
DIFFENBACHERは最近、Compression Injection という技術を活用することで、
繊維への樹脂含浸性をさらに高めることができたとHPやカタログなどで繰り返し述べています。
Krausmaffei も似たようなコンセプトでFRP業界でのオートメーションを推し進めています。
( The image above is referred from http://www.compositesworld.com/articles/the-rise-of-hp-rtm .)
さて、このロボットを主体としたFRP成形加工のオートメーション。
実は盲点があるということは意外にも知られていません。
今日はFRPの オートメーション についてその盲点を見ていきたいと思います。
盲点その1。
設備投資額を回収することがきわめて難しい可能性が高い、ということです。
航空機業界のように長い期間にわたって同じものを作り続ける、
という業界であれば別ですが、自動車のように、
「大型だが、形状の変更頻度が非常に高い(モデルチェンジなど)」
という業界に対して、オートメーションは不向きな場合が多いです。
なぜでしょうか。
FRPは材料、成形、加工という各工程の結びつきがとても強い特殊な材料です。
つまり、材料から成形を経て加工という一連においてテーラーメイドの色が強いのです。
そのため、成形する形状、要件、素材が高頻度で変化してしまうとそれごとに設備の修正が必要になります。
もちろんそのまま応用(転用)できるケースもあると思いますが、
高精度のオートメーションでがちがちに固めてしまうと、
例えばRTM向けの設備の場合プリプレグのレイアップ成形へ変更するのは難しいでしょう。
融通が利かなくなってしまうのです。
そうすると、仮にオートメーションで導入したものがこの製品には使えるがあの製品には使えないという状況も出てきてしまいます。
当然ながらこのような状態では設備投資額を回収することは難しく、
大きな設備だけが残るということになりかねません。
盲点その2。
FRPを使う動機の一つは複雑な形状を作れるということでしょう。
この複雑な形状の積層やトリミングの精度について、一般的には人の手の方が品質とスピードが高いです。
ロボットで先に基材(樹脂を含浸していない強化繊維)を金型に置くようなRTMなどでは、基材の位置ずれが起きやすいのが一般的です。
もっとも積層精度が高いのはタック性のある熱硬化性FRPプリプレグを人の手で積層する場合です。
同様に樹脂バリなどをトリミングするときはマシニングやウォータージェットよりも人の手の方がニアネットでの高品質の仕上げが可能となります。
細かい複雑形状に合わせた貼り合わせや加工については人の手にかなうものはありません。
当然ながらある程度の習熟は必要ですが、巨額の設備投資を行うよりも経済的リスクが圧倒的に低いことは間違いありません。
非常に大きなものを積層する、または加工するについてはオートメーションの効果が出ることもあるでしょう。
それでも、最終仕上げは必ず人の手が必要になるということは理解しておかなくてはなりません。
また、積層、成形、加工工程のスピードについても同様です。
成形品のサイズによっては人の手の方が圧倒的に早い。
特に小型の製品について人の手による成形や加工スピードについては人の手の方が圧倒的に有利です。
BMWから始まった「自動化=高速化」という考えは、今や欧州設備メーカーの"鉄板"販売戦略です。
ところが、これがすべてに当てはまるわけではないのです。
欧州の情報を鵜呑みにするのではなく、
設備投資を最小化し、資金的余裕と方針の柔軟性を持って事業を拡大する。
このような地に足をつけた戦略こそ、FRP業界での今後の生き残りに重要になってくるはずです。