FRP学術業界動向 – Graphene の FRP への活用
今日のFRP学術業界動向では、FRPへの特性改善として注目される素材の一つ、 Graphene ( グラフェン )についてご紹介したいと思います。
CFRPの中でも今なお主力として用いられているのは熱硬化性樹脂をマトリックスとしたCFRP。
材料の保管に冷凍庫が必要といったデメリットも存在しますが、
積層を容易にするタック性、成形中に一度粘度が低下することによる賦形性や外観性、
剛直な三次元架橋による高弾性率と優れた耐薬品性や耐久性。
これらの背景がCFRTP(熱可塑性炭素繊維強化プラスチック)が注目される現在にあっても、
熱硬化性マトリックスがCFRPの主体である一因となっています。
しかし、熱硬化性樹脂をマトリックスとしたCFRPには上述した以外の大きな欠点があります。
それが、
「もろい」
という点です。
CFRPに限らず、基本的な長繊維ベースの積層FRPでは、層間を亀裂が進展するというトランスバースクラックが破壊の主因と言われています。
このトランスバースクラックへの耐性の指標の一つが「靭性(じんせい)」です。
今回ご紹介する Graphene はこの靭性を大きく改善させる可能性のある素材の一つとして比較的昔から注目はされているのです。
この Graphene について JEC Composite Magazine にて概要特集が組まれていましたので、こちらの記事を参照にしながら見ていきたいと思います。
記事は以下の Researchgate にて見ることができます。
http://www.researchgate.net/publication/282154508_Gambling_with_graphene…_Will_it_pay_off
Grapheneの特徴というのは何でしょうか。
– 鋼鉄の200倍の強度
– 大変形が可能
– 銅の100倍にあたる高い導電性
といったものが一般的には挙げられます。
GrapheneのSEM画像の一例を以下に示します。
(The image above is referred from http://www.nxtbook.fr/newpress/jeccomposites/jcm1509_99/index.php?ap=1#/42.)
ただし、ナノスケールの構造を持つグラフェンを理解するにあたっては、どのようにしてナノスケールでの物性をミクロスケールまでスケールアップして発現させられるのか、という点が重要とのこと。
上記の高い強度は原子レベルの話であり、様々な高分子が存在する複雑な環境下においてGrapheneは思ったような特性を発現しないことが多々あります。
ナノスケールを主とする極微小材料を扱う際、毎回問題となる点の一つです。
この時のポイントは、できる限り素材を均一に分散させ、しかもある程度同じ方向を向くようにすることです。
投入された分子が類似した方向を向くことで、ベクトルの加算と同じ原理で特性が発現されやすくなるというイメージです。
とはいっても、研究やパイロットスケールではともかく、本当の量産ではなかなかそのような状態を実現するのは難しいのが現状です。
海外の一部のメーカーでは Graphene Nanoplatelets ( GNPs )のような廉価版を、
予めエポキシなどの樹脂にエマルジョンとして分散させたものを販売しています。
実際に用いるときにはこのような分散された溶液を活用することも工程によっては考慮する必要があります。
実際にGrapheneの実力はどの程度なのでしょうか。
0.125wt%の酸化処理したGraphene添加によりエポキシの破壊靭性が65%改善し、0.5wt%の同様処理Graphene添加によりナノチューブを添加した時よりもさらに40%の破壊靭性改善がエポキシ樹脂で見られたと報告されています。
上記情報の引用論文は以下の通りです。
M. A. Rafiee, J. Rafiee, I. Srivastava, Z. Wang, H. Song, Z.-Z. Yu et al., «Fracture and Fatigue in Graphene Nanocomposites,» Small, vol. 6, pp. 179-183, 2010.
S. Chandrasekaran, N. Sato, F. Tölle, R. Mülhaupt, B. Fiedler and K. Schulte, «Fracture toughness and failure mechanism of graphene based epoxy composites,» Composites Science and Technology, vol. 97, pp. 90-99, 6/16/ 2014.
どちらの論文も手元には無いので、一度読んでみたいと思います。
また破壊靭性以外の評価の一例を以下に示します。
(The image above is referred from http://www.nxtbook.fr/newpress/jeccomposites/jcm1509_99/index.php?ap=1#/42.)
Data source:
M. A. Rafiee, J. Rafiee, Z. Wang, H. Song, Z.-Z. Yu and N. Koratkar, «Enhanced Mechanical Properties of Nanocomposites at Low Graphene Content,» ACS Nano, vol. 3, pp. 3884-3890, 2009/12/22 2009
上記グラフは引張強度の比較で、Pristine Epoxyというのがリファレンス、SWNTというのが Single-wall carbon nanotubes 、MWNT というのが multi-wall carbon nanotubes 、GPL というのが Graphene を示しており、それぞれ 0.1wt% 投入した時の結果となっています。
Carbon nanotube では15%前後の強度改善だったのに対し、Grapheneでは40%の変化が見られたとのこと。Nanotubeよりも補強効果が高いということが示唆されています。
ただし「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということわざ通り、Grapheneを入れ過ぎてしまうと弊害もあるようで、一例として添加量が多すぎると強度や弾性率が低下するという結果も得られています。
(The image above is referred from http://www.nxtbook.fr/newpress/jeccomposites/jcm1509_99/index.php?ap=1#/42.)
上記のグラフで左側のグループが弾性率、右側のグループが強度を示しており、およそ0.1から0.125wt%程度の添加量の時に強度と弾性率が最大化し、その後は減少している様子が見て取れます。
また、導電性についても調べられており、下図の通り1vol%程度の添加までは導電性が増加し、それ以降は変化があまりないということがわかっています。
(The image above is referred from http://www.nxtbook.fr/newpress/jeccomposites/jcm1509_99/index.php?ap=1#/42.)
Data source:
M. Yoonessi and J. R. Gaier, «Highly Conductive Multifunctio-nal Graphene Polycarbonate Nanocomposites,» ACS Nano, vol. 4, pp. 7211-7220, 2010/12/28 2010.
熱伝導率についても調べられています。結論から言うと、熱伝導率については添加しただけ熱伝導率が増加するという傾向を示す様です。
(The image above is referred from http://www.nxtbook.fr/newpress/jeccomposites/jcm1509_99/index.php?ap=1#/42.)
Data source:
K. M. F. Shahil and A. A. Balandin, «Graphene–Multilayer Graphene Nanocomposites as Highly Efficient Thermal Interface Materials,» Nano Letters, vol. 12, pp. 861-867, 2012/02/08 2012.
熱伝導率が2から5というと水晶よりもやや低いというレベルで、それなりの熱伝導があるという理解となります。
いかがでしたでしょうか。
靭性以外にも樹脂の特性に影響を与えている、ということがわかるかもしれません。
注意すべき点としてはこのような素材をFRPに適用するときは、あくまで、
「ベースレジン設計が終わってから行うべき」
という軸をぶらさないことが重要です。
材料設計はシンプルであればあるほど量産後の材料管理が容易になり、その後の材料設計がやりやすくなります。
結果を焦らずまずは基礎を固める。
その上で例えばGrapheneのような素材追加を行う、という手順が重要となります。
ご参考になれば幸いです。