自動車用途コンポジットシンポジウム 基調講演参加
先週開かれた同志社大学先端複合材料研究センター、 SAMPE JAPAN 、日本材料学会などが主催する 自動車用途コンポジットシンポジウム に参加してきました。
当日は午後の同志社大学 田中 和人先生の講演から聴きました。
田中先生のお話はフランクフルトモーターショーとComposite Europeの参加報告でした。
やはりモーターショーではFRP業界をけん引するBMWが注目を集めており、i series の時のようなFull Compositeではなく、アルミ合金とのハイブリットが主軸の設計思想になっていたとのこと。
Braiding や NCF など、航空機以外ではあまり一般的でないFRP基材を積極的に量産車に搭載していくBMWは流石だ、という印象です。
展示されている自動車としてはSUVが圧倒的に多かったようです。
中東やアフリカの富豪が、悪路でも走れるSUVを欲しがっているという市場ニーズがあるためとのことです。
会場からは、
「異種材接合、接着は難しいと考えるが、何か情報はあったか」
などの質問が飛び出していました。
やはり、SAMPEにいらっしゃるような方々は観点が鋭いな、と思いました。
BMWはファスナーやボルト、あとはメカニカルにはめ込むような構造を適用していたようです。
本点の中で接着に関してですが、アルミとFRPの接着は元々難しいということが知られています。
一般的にはアノダイズなどの表面処理の後、プライマーを塗布し、エポキシのような熱硬化剤の接着材を使います。
ここででも、表面処理方法や接着強度評価にノウハウが必要です。
また、Composite Europeの参加については、熱可塑性マトリックスのFRTPを中心にご覧になってきたとのこと。
現地では熱可塑性FRPに加え、風力発電も活気づいていたとのことでした。
技術として多く見られたのがオーバーインジェクションの成形。
外観の改善、リブなどの複雑成形といったものに効果的なオーバーインジェクションはFRTPの成形方法として注目されているようです。
非常に広い観点でご覧になった報告であり、参考になりました。
その次に聴いたのが AFPT の Mr. Coert Kok の Manufacturing concept for the production of thermoplastic composite automotive parts という発表です。
ヨーロッパの熱可塑性FRP業界では極めて知名度の高い AFPT 。
レーザーをベースとしたファイバープレースメントの先駆者的企業です。
先日の記事でも、ADCがレーザーのファイバープレースメント装置を発売したというお話をご紹介しました。
AFPTはCFRTPの自動積層を主軸にヘッドのみを開発、販売するという、ADCとは異なる販売戦略を持っている企業です。
主にPAをマトリックスとしたFRPの自動積層を行っているのですが、最速で1m/secというスピードでの積層を実現しているとのこと。
パイプや高圧容器の積層を想定しており、動画による動作紹介も行われました。
AFPTに共感できるのは、
「シンプルイズベスト」
という一貫した姿勢です。
AFPTのヘッドは比較的シンプルな形状です。
光ファイバでレーザーを導入し、CFRTPを押し付ける。
その時の温度や圧力をモニタリングして、最適な条件を見つける。
この条件に見合うロボットの軌道をティーチングする。
ごくごくシンプルなのです。
通常は、制御システムが、ロボットの制御が、ヘッドの荷重制御が、という制御故、
ヘッドがどんどん複雑化していくのが一般的ですが、AFPTのヘッドは極めてシンプル。
シンプルゆえに、色々なプラットフォームへの適用が可能になる。
これにより販売数を増やしたい、というのがAFPTの考えなのですね。
当然、顧客からフィードバックもあるでしょうから情報も集まりやすいでしょう。
このようなオープンな姿勢もFRP業界では参考になるかもしれません。
その一方で課題もあると述べられました。
第一がCFRTPの品質とコスト。
品質の安定性とコストの高さはかなりのハードルとなっているようです。
加えて航空業界のがちがちな考え方から一歩進んだ柔軟性も重要とのこと。
安全第一の航空機業界の考えをそのまま適用しては、ものにならないと述べています。
最後に、ファイバープレースメント、引き抜き、ブロー成形、インジェクションといった、
FRP関連技術との組み合わせを積極的に進める必要があるとのこと。
課題をきちんと把握しているところもAFPTの強みかもしれません。
最後に聴いたのが BASF のお話です。
世界的な化学メーカー BASF は最近アジアコンポジットセンターというものを横浜に設立し、化学メーカーながら、成形などについてもトライアルを行い、材料開発にフィードバックするという体制を整えているのが特徴です。
一般的な長繊維のUDのCF、Ultracom TMという短繊維といったように、用途に合わせて材料のラインナップをそろえています。
Ultracom TM については以下の所にかかれています。
http://www.japan.basf.com/apex/Japan/ja/upload/new/Press2013/2013_07_05_Ultracom_Composite
BASFの方のお話で感銘を受けたのは、自動車ならば自動車のターゲット部品の選定、必要な要件の整理、FRP向けの設計、CAEを用いた検証といった、自動車メーカーや部品メーカー顔負けの設計フローを持ち合わせているというところです。
化学メーカーでここまでやるのは相当稀ではないでしょうか。非常に先見性のある戦略だと感じました。
このようにやらないとものにできない、ということをよく理解している証拠ともいえます。
ただし、課題として述べていたのが、
「部品要件などがメーカーから提供されないことが課題である」
とのこと。
この課題は、私も強く感じるところです。
中途半端に隠しごとをされてしまうと顧客ニーズをとらえることが難しくなってしまうのです。
まだコストを初め課題が山積みのCFRPだが、BASFとして該業界での存在感を高めていきたい。
そんな強い意志を感じました。
国内外問わずFRPを自動車を初めとした産業界へ拡大させようとして奮闘されている方々のお話を聴けて非常に有意義でした。
こういう学術界、産業界の方々の尽力によりFRP業界が更なる発展をしていくと期待したいです。