ダウ・ケミカル と デュポン の合併について
今後のFRP業界にも影響を与える可能性のある情報が出てきましたので、早速表題の記事についてお話をしてみたいと思います。
既に各誌で発表が行われていますが、ダウ・ケミカルとデュポンが合併すると発表されました。
以下、代表誌の記事を抜粋しておきます。
※読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20151211-OYT1T50178.html
※日経新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO95043640R11C15A2I00000/
※朝日新聞
http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN0TU20B.html
この中では朝日新聞が最もきちんとした記事を書いていますね。
以下の企業規模を示すグラフを見れば、今回の合併が如何にすごいものであるのかをご理解いただけるかもしれません。
(本グラフは朝日新聞の記事にあったリンクから引用させていただきました)
( The image above is referred from http://pdf.reuters.com/pdfnews/pdfnews.asp?i=43059c3bf0e37541&u=2015-12-09T081527Z_GFXEBC90MXRBO_1_RTRGFXG_BASEIMAGE.png)
合併して誕生する新しい企業は、現段階での世界最大化学メーカー BASF を超えることは間違いないです。
本日12月12日になって発表された本内容ですが、以下のWSJで既に予告的な記事がかかれていました。
http://jp.wsj.com/articles/SB12063707009372514535404581407194129080926
朝日新聞の記事をみると、1年版から2年後をめどに「ダウデュポン」という新会社を設立し、農業、材料、特殊製品の3部門に分割するとのこと。
これを示唆する記事はWSJにも書かれています。
ダウ・ケミカル:
– 工業、自動車、建設という材料化学品に事業を集中したい
– 農業科学事業を縮小したい
デュポン:
– 農業事業を拡大したい
– 高機能化学事業を分離独立させた(塗装事業は売却済み)
上記のようなお互いの強みに干渉せず、弱みを補い合えるという目論見もあったようです。
一般論はこのくらいにして、FRP業界からみて今回の合併は何を示唆しているのでしょうか。
これだけ巨大な化学メーカーですと、FRP業界にもかかわりが強い部分が当然ながらあります。
デュポンであればポリアミド樹脂の ZYTEL®(ザイテル)。
http://www.dupont.com/products-and-services/plastics-polymers-resins/thermoplastics/brands/zytel-nylon.html
東レデュポンとしてのアラミド繊維、Kevlar®。
http://www.td-net.co.jp/kevlar/
ダウ・ケミカルであればエポキシノボラックを中心としたエポキシ樹脂。
http://www.dow.com/japan/business/advancedmaterials/epoxy.htm
さらに、ダウ・ケミカルは先端複合材料製造技術革新協会(IACMI)に選定され、アクリル繊維メーカーASKAと一緒にダウアスカを設立、炭素繊維の生産を進めています。
※先端複合材料製造技術革新協会(IACMI)
http://iacmi.org/
※ASKA
http://www.aksa.com/en
今回の合併で縮小、売却されると表明されているのはダウ・ケミカルの農業事業、デュポンの塗装事業ですので、結論から言うとFRP業界に今すぐ大きな影響が出るという可能性はあまりないと考えています。
むしろ、FRP業界にとっては追い風になる可能性もあります。
今回の合併を後押ししたのは、選択と集中、という経営的な判断が最も大きいと考えられます。
そしてその中で、
「工業、自動車、建設などに適用される材料化学製品は高値を維持している」
という現実が大きく影響を与えていた模様です。
農薬や肥料などは農業の上昇下降に左右をされるようで、新興国の減速がダウ・ケミカルの中で農業事業の縮小という判断になったとのこと。
つまりFRPのようないわゆる高機能材料、高性能材料というものは化学メーカーにとって、
「量は出ないものの、単価が高いため安定した最低収益を確保しやすい」
ということを物語っているのです。
この状況は世界中の化学メーカーが理解しており、SolvayがCytecを買収したという大きなニュースに限らず、FRP業界への参入や、該業界での拡大を目指す化学メーカーの方とお会いすることも多くなった、という私自身の身近な印象もその裏付けと考えられます。
今後も素材の価格競争は激しくなっていくと思います。
この時に量は出るが薄利という従来材料に基づく事業をさらに拡大させるのか、FRPのような量は出ないが単価と利幅の大きい事業への参入や拡大を目指すのか。
生き残りをかけて戦い続ける化学メーカーも今、広い視野とフットワークの軽さで方針の決定や転換が求められることと思います。
ただし、FRPは材料、設計、製造といった各領域のつながりが極めて強い特殊な材料であるため、Solvayのように関連会社を直接買収する、または他社と連携する、そして専門家の知見を活用しながら自社内に知見を蓄積していく、といったこれまでとは異なる取り組みが化学メーカーに必要なのは言うまでもありません。