DIFFENBACHER の HP-RTM 装置を中国企業に本格導入
DIFFENBACHER の HP-RTM 技術が、遂にアジアの量産を担うというニュースが飛び込んできました。
北京の Zhongguancun Science Park Changping Park に本拠地を構える中国企業 Kangde Composite Co., Ltd.が、DIFFENBACHER の HP-RTM 装置を自動車部品量産向けに導入するという契約を2015年10月に交わしたとのことです。
本ニュースは DIFFENBACHER のプレスリリースでも以下の通り大きく取り上げられています。
中国企業では2015年4月に既に CSP Victall が既に DIFFENBACHER の装置を導入しており、中国では今回が2例目とのことです。
CSP Victall のHPは以下の所になります。
DIFFENBACHER の HP-RTM 装置は BMW i series の製造で大きな注目を浴びて一気に有名になりました。
最大の特徴はオートメーションの徹底です。
いかにDIFFENBACHERの装置の概要図を示します。
(The image above is referred from http://surface-rtm.com/rtm-en/dieffenbacher-gmbh.html.)
材料の裁断、積層やプリフォーム、金型へのチャージ、樹脂の注入、脱型がほぼ自動化されています。
自動化のイメージ動画としては以下のようなものを見ていただくとわかりやすいかもしれません。
導入されるのはアップストローク形式の2500トンと3600トンプレス。
荷重が高めのことからそれなりの大きさの成形品に対しても対応できるものと推測します。
プレスリリースでも強調されているのが、「Class-A」を達成できる Surface RTM という技術。
詳細は述べられていませんが、 DIFFENBACHER が最近取り組んでいた Compression Molding のような、金型を少し開いた状態で樹脂を注入し、その後金型を閉じるという手法ではないかと考えられます。
このような手法を用いることで樹脂の繊維への含浸性が高まるだけではなく、やり方によっては熱可塑性CFRP(CFRTP)でトレンドの一つであるオーパーインジェクションの形態となり、表層に樹脂膜を形成することで外観性を高めるということも可能になります。
いずれにしても中国ではCFRPの自動車部品に対する本格的な生産準備を急いでいる、とみて間違いはなさそうです。
今回の記事においてみるべきポイントは何でしょうか。
まずは、自動車業界に限ってでいうと、日本よりも海外の方がCFRPを量産に使おうという意識が非常に高いという点です。
実際にそれがうまくいくかは別議論ですが、中国なども技術開発を行うのではなく、設備を購入するというお金を武器にした動きにより、技術の底上げを進めています。
日本の自動車関係業界の動きについても実際にお会いしたり、人づてでお話を聴いたりしますが、研究開発は行うものの、量産に持っていこうというより「ここは慎重にいこう」という方が大勢を占めているというのが印象です。
理由の一つとして、自動車で世界を圧巻した企業がひしめく国だけあって、FRPのような材料技術だけでなく、自動運転やのような情報技術、エンジン制御技術、ハイブリットや燃料電池車のような全く異なる動力の技術など、ある程度幅広く取り組むという姿勢があるようです。
つまり、燃費や排ガス基準の改善のためには色々なアプローチをしようというコンセプトがあるため、
CFRPを量産車に適用するという優先順位が欧州諸国の自動車メーカーよりも低いのかもしれません。
とはいえ、熱の入れようは異なるとしても日本の大手自動車メーカーが各社取り組まれていることも事実です。
そしてもう一つ見るべきポイント。
これは上記の話にも関わりますが、
「設備投資には巨額の費用がかかる」
という紛れもない事実です。
Kangde Composite Co., Ltd.のようにCFRP成形技術を企業の主軸戦略にする、
と組織全体が一本化されている場合はある程度のリスクを取って設備投資をすることも可能です。
しかし、DIFFENBACHERのHP-RTMのような設備は極めて高額です。
そして一括償却できないため、耐用年数が何年かはわかりませんが長年にわたり減価償却をして、
残額資産に対する固定資産税を支払い続けることになります。
購入金額に加え、このような長期間にわたる課税を支払ったとしても、利益を確保できるのか。
そのような経営者としての目線で見た時にリスクがあるというのは紛れもない事実です。
この辺りのお話は以前、こちらの記事でもお話したことです。
CFRP部品の製造で世界をけん引するドイツと、その技術を活用して躍進を目指す中国。
両国の動きにはこれからも目が離せません。