Cytec が New Application Center を設立
Solvay の一員となってロゴも変わった Cytec が イギリスの Heanor (ヒーナー)という所に New Application Center を開設したとのことです。
この町はイギリスの中部に位置するようです。
( The image above is referred from https://en.wikipedia.org/wiki/Heanor )
今回の New Application Center 。
以前、こちらの記事でもご紹介したように自動車向けのOEM対応を主とした事業所となっています。
https://www.frp-consultant.com/2015/10/05/cytec-ceo-interview/
メインとして扱う素材も、高速硬化プリプレグ (Rapid cure thermosetting prepregs ) 、HP-RTM などであり、部品製造方法を含めた試作対応やデモンストレーションにも対応すると書かれています。
そして上記の press release 中で何度も強調されているのが High volume という言葉。
航空機や産業用途とも書いていますが、明らかに生産量の大きい自動車を意識した内容であることは間違いないです。
今回の記事で見るべきポイントというのは何でしょうか。
やはり先日ご紹介したCytecのCEOのインタビューにもあるように、
Cytecの事業主軸はあくまで航空機であり、ラージトウは Dralon ( http://www.dralon.com/en/ )で、
高速硬化プリプレグやHP-RTM向け材料は今回の New Application Center もOEMが基本です。
炭素繊維を用いた材料はあくまで航空機であるという事業の考え方は、
「汎用イメージがついて、材料価格が低下する」
ということをに対する危機感を持つ老舗プリプレガー共通のものです。
自動車は性能といっても、航空機レベルの品質や安全性を要求することはほとんどありません。
より正確にいうと、
「CFRPをどのように自動車で活用すべきか」
ということについて明確なコンセプトを有している人が少ないため、何を要求していいのかもわからないのかもしれません。
この背景にあるのは、自動車業界では材料技術だけではなく、
最先端の制御技術やエンジン以外の駆動機構技術といったものの方が製品の付加価値に直結しやすいため、
CFRPなどを利用する必要性があまり高くなかったという歴史ではないでしょうか。
もちろん徐々に自動車への適用が始まった昨今を見ていると、将来的にはもう少しFRP設計思想が向上してくるかもしれませんが、現段階では一部を除いて自動車業界でFRPを設計できる企業や人物は極めて少ないというのが紛れもない事実です。
そのため、二言目にはやり玉に挙げられやすい「コスト」という言葉が出てきてしまいます。
既存材で問題なく通用してきた自動車業界で、キロ4桁を軽く超えるCFRPが価格競争で勝てるわけがありません。
成形加工技術をどれだけ最適化しても、素材費を吸収するのは極めて困難と言わざるをえません。
このようなコスト競争に巻き込まれたくない老舗プリプレガーは、OEM対応や関連企業買収によって、
自社のプレミアブランドが低下しないよう細心の注意を払いながらも、
マスの大きい自動車への対応を怠らないというバランス感覚で対応をしているというのが実情です。
もしかするとCytecもSolvayの指示を受け、ヨーロッパに New Application Center を設立したのかもしれません。
そして Dralon のラージトウと Solvay の樹脂を組み合わせた複合材料で自動車への拡大を狙っていると推測します。
この流れがある程度浸透してくることでこれまで自動車に対しては過剰であった素材の要件が最適化され、適用の拡大が進むかもしれません。
強調したいのは品質の「最適化」という部分。
実際に製品を使用するユーザーに危険が及ぶ可能性のある領域まで品質を落とすようなことがあっては本末転倒です。
航空機レベルの設計品質概要を一通り理解した上で、自動車に対しては要求しなくても良いものを抽出して除外しながらも、安全性に関連する要求は絶対に外さない。
このような設計的品質知見を持てるかどうかが事業成功のキーワードとなるに違いありません。
ご参考になれば幸いです。