FRP成形で重要な 離型
今日のコラムではFRP業界にいらっしゃる方の多くが興味のある、成形加工についてご紹介します。
ご紹介するのはFRP成形の中で目立たないが重要な、
離型
についてです。
先日のセミナーの聴講者の方のアンケートや事前質問を拝見すると、やはり成形加工に関する関心の高さがうかがわれました。
先週のセミナーはFRP設計者に関するお話でしたので当然ながら成形加工についても述べる必要があったのですが、その成形加工の一連工程の中で盲点となっているものの一つとして「金型の清掃」というものを繰り返し述べました。
そしてこの金型の清掃を楽にするものとして重要なのが、
「離型剤」
です。
FRPに用いられるものとしては、シリコーン系とフッ素系の2種類が多いです。
これは、FRPの金型温度が一般的には120℃以上であるため、離型剤に耐熱性が必要であるということが背景にあります。
なぜ離型剤が金型の清掃に重要なのか。
それは、
「金型のキャビティやコアの表面や隅に残った樹脂を除去する」
という清掃作業の肝の部分を簡略化できるためです。
特に熱硬化性のFRPの場合は非常に重要になります。
熱硬化性マトリックス樹脂として、線膨張係数や硬化収縮の低さ、機械特性や耐薬品性の高さから多く用いられる「エポキシ樹脂」。
このエポキシ樹脂のFRP以外の用途ではどのような使い方があるかといいますと、
「接着剤」
です。
つまり、エポキシ樹脂は固有のヘテロ三員環という化学構造により、
「他のものとくっつく」
という性質があります。
これが離型を困難にします。
私も北米でCFRP部品(熱硬化性)の量産ラインを立ち上げている時にこの手の問題に直面しました。
現地の技術者から工程の簡略化を目的に離型処理をやらずに工程を成立させたいと強く要望され、他の工程の問題に気を取られていた私はその要望を承諾しました。
(当然ながら社内試作の段階では入念な離型処理をやっていました)
ところが実際に成形を開始したところ、離型時の成形品表面損傷や層間剥離が続出。
不具合品の頻発により慌てて離型処理を盛り込むための工程変更を追加要求した、といった経験もあります。
これは今思い出しても大変なことでした。
このように肝となる離型剤ですが、今購入できるものにはどのようなものがあるのでしょうか。
離型剤には大きく分けて「塗布型」と「噴霧型」の2種類があります。
塗布型は一度ウエスなどにしみこませてそれを金型に塗り、一度加熱して離型膜を形成するというものです。
これは一度塗ると複数ショットは再離型処理が必要ない、というメリットがある一方、
塗布した後に再度加熱する必要があります。
噴霧型はスプレーです。
金型表面に塗装する要領でスプレーしていきます。
スプレーなので離型処理がやりやすい一方、毎回離型処理をする必要がある、
離型剤が拡散するので成形前の材料が汚染されないよう配慮するといった考えが必要です。
またスプレーの場合、細かいところ、特にキャビティの角部などへの離型が難しいため、
ノズルを使うなどして離型処理を全体にいきわたらせることが重要です。
塗布型の離型剤の老舗といえばChemTrendです。
以下の通り多くのラインナップを持っています。
一部噴霧型もあります。
http://www.chemtrend.com/our_brands/chemlease/release_agents
接着剤のメーカーでもあるHenkelは、離型剤のサプライヤーとしても有名です。
http://na.henkel-adhesives.com/adhesives/composite-release-agents-13126.htm
Henkel は来月、以下のような離型に関するセミナーも実施するようです。
時間的に日本からの参加は難しいかもしれませんが、一考の価値ありかもしれません。
https://attendee.gotowebinar.com/register/3978634873314075137
私は使ったことありませんが、Fiber Glast やMcLube という離型剤メーカーもあります。
※ Fiber Glast
http://www.fibreglast.com/category/Mold_Releases
※ McLube
http://mclube.com/mold_release/composite_frp_mold_release
噴霧型としてはダイキン工業のダイフリーが有名です。
http://www.daikin.co.jp/chm/products/mold_lubricant/
塗布型もありますが、信越シリコーンも離型剤のラインナップを持っています。
http://www.silicone.jp/products/type/mold/
最近の製品を見ていると特徴的なのが、
「水溶媒製品の増加」
です。
従来はトルエンやアセトンなどのいわゆる有機系の溶媒ベースのものが多かったのですが、環境や健康を配慮し、水溶性のものが増加してきています。
今の時代の流れを考えると、この流れは加速していくと予想されます。
これはあくまでも一般論ですが、水溶性の離型性は従来の有機性のそれよりも劣る傾向がある、ということには注意する必要があります。
水溶性にしたということは、離型媒体となる分子構造の中に極性基を入れて、水にも溶けるようにしているはずです。
このような化学構造変化が離型に与える影響は大なり小なりあります。
このため、これまで有機性タイプの離型剤を使われていた場合、水溶性タイプに変更することで離型性に変化はないのかということについては注意深く評価していくことが求められます。
そして、最後に離型剤を用いない離型についてご紹介します。
それは、PT‐Release®プラズマコーティングという金型表面処理技術です。
特徴として以下のようなことが書かれています。
- 材料層を塗布する前に、ロボットによるPlasmaPlus®プロセスを用いてモールドにコーティングを施します。
- 制御下でコーティングを施し、コーティング厚を均一にします。
- 機能強度:現時点では、一回のプラズマコーティングで約50回の離型が可能。
- 離型後、塗装前に、Openair®プラズマクリーニングにより、残留している離型剤を全て破壊し、除去します。
まだ未知な部分もありますが、離型剤を用いない新たな手法としては注目すべき技術の一つであると考えます。
今日は成形加工の離型についてご紹介しました。
成形加工工程設計においてご参考になれば幸いです。