カイザー効果 をベースにした AE によるCFRP健全性評価検討
日本非破壊検査協会の超音波部門 の主催する 「超音波による非破壊評価シンポジウム」に参加した時に聴講した、 カイザー効果 をベースにした AE ( Acoustic Emission )によるCFRPの健全性評価検討についてご紹介したいと思います。
これは株式会社 IHI検査計測 の方が発表されていた内容です。
カイザー効果 というのは先行荷重を除荷し、再度負荷をかけた時に供試体が健全であれば先行荷重に至るまではAEがほとんど検出されない現象のことを言うとのことです。
カイザー効果そのものは建築業界を中心に20年以上前から研究が行われてきたもののようです。
http://data.jci-net.or.jp/data_pdf/18/018-01-1205.pdf
この効果を応用して負荷された荷重を逆算するという応用方法もあるとのこと。
一例を以下に示します。
http://www.pacjapan.com/pacjapan_ae%20technique/DiagnosisAE/KajyuSuitei.pdf
AE 、すなわち アコースティックエミッション については以前こちらの記事でご紹介しましたのでご参照いただければと思います。
さて最初に述べますが、この研究発表はとても興味深いものでした。
うまく検討すれば新しい損傷許容設計許容値を決定することもできる高いポテンシャルを持っています。
いわゆる、設計的な観点からとても重要な要素と気がつくべきです。
このような研究が高い評価をされることがFRP業界では望まれます。
さて実際の研究内容を見ていきます。
用いたのは重心周波数という考え方です。
AE信号の周波数スペクトルの重心値とは、周波数スペクトルfiを成分強度で加重平均したものとのこと。
式を以下に示します。
シンプルでいい式ですね。
予稿集には実際のAE信号をフーリエ変化して周波数ごとに分解したグラフが載っています。
これを見ると、AE信号は多くのことなる周波数信号の塊であることがわかります。
尚、フーリエ変換については以下のURLがイメージをつかむには最もわかりやすいと思います。
http://www.geocities.co.jp/AnimalPark-Shiro/1620/ft/1.html
周波数ごとに分解するだけでなく、様々な複雑事象を切り口を変えて見直す時に使う極めて重要な理論です。
さて実際にCFRPの試験片を用いて歩いて居荷重を繰り返しかけてカイザー効果の成立性検証を行っています。
するととても興味深いことに、カイザー効果が不成立の荷重領域では、
「重心周波数帯の低周波シフト」
が起こると書かれています。
しかもこのシフトが、荷重を横軸にとって見た時にある程度の変曲点を持って表現される事象であると述べられています。
これはCFRPを実際の部品として用いる場合に、許容荷重を検討するときに応用できる極めて重要な考え方とみるべきです。
つまり、材料破壊経過中における重心周波数をモニタリングし、常用繰り返し疲労応力の上限を決めることができるのです。
研究ではさらに踏み込み、+45/-45の面内せん断強度評価用試験片にて、
– AEイベント(ある閾値以上の振幅を有する音波数)
– AEエネルギー(AE信号波形の振幅積分値)
– S-S線図(ひずみ-応力線図)
– 重心周波数帯と荷重線図
を同時比較するということを行っています。
この結果がまた非常に興味深いです。
S-S線図上は非線形などは一切見られませんが、
AEイベント、AEエネルギーが重心周波数帯の低下が見られる位置付近から低下するということが明らかとなっています。
つまり重心周波数帯低下が起こるあたりからCFRPの内部状況が大きく変化するということが示唆されています。
そしてこの重心周波数帯低下の起こる応力(高負荷)とそれの半分くらいの応力(低負荷)でそれぞれ試験片に負荷を与えるとどのようになるのか、ということを調べています。
具体的には超音波で調べたのですが、欠陥検知下限値よりも小さい欠陥のみだったことにより欠陥は見つからなかったと述べられています。
この欠陥検知下限値という考え方がいいですね。
量産をわかっている方々は必ず持っている考えで、 FRP部品 の図面に書くのは常識となっています。
高負荷、低負荷の試験片をそれぞれ見てみるとどちらにもトランスバースクラックが見えます。
そして高負荷は低負荷のそれと比較し、倍くらいの長さ(具体的には50μm程度)のクラックや剥離を確認したとのこと。
評価も比較的丁寧に行われており、非常に好感度の高い研究発表でした。
当日の発表ではFRPの基本的な用語の使い方に関する指摘が出ていましたが、
私はそれほど重大な問題には思えませんでした。
むしろ、許容できる損傷をマクロで評価したという所に高い評価を与えるべきだと考えます。
ではもう一歩踏み込んで、この発表の次の段階として期待したいことは何でしょうか。
それは、
「繊維破断、繊維と樹脂の界面剥離、樹脂の破壊という3つの破壊モードを分離する」
という取り組みです。
私の知る限りこの3つの分離はAEで可能であると言われています。
自分でもこの分離を試みましたが結局成功までたどり着けませんでした。
是非IHI検査計測の方々には取り組んでいただきたいと思います。
そしてその次の段階が、
「AEによるヘルスモニタリング」
です。
重心周波数の変化という一つの閾値をベースとし、これとAEによるイベント数や解放エネルギーを検知、さらには上記の破壊モード判断を組み合わせ、FRPの部材の負荷状況把握と破壊の事前検知を試みるのです。
これができるとFRPはいわゆる
「知能材料(スマートマテリアル)」
になり、構造部材から機能材料へと進化することができます。
いずれにしても非常に興味深いお話を聴けたことを感謝したいと思います。