高分子膜 のFRPへの応用
今日の FRP学術業界動向 の記事では 高分子膜 とFRPについて考えてみたいと思います。
この議論を進めるにあたりご紹介したいのが高分子学会誌の2016年4月号の特集「広がる膜分離の世界」で取り上げられた記事の一つである、
「正浸透膜プロセスを用いた革新的水処理技術」
というものをご紹介したいと思います。
これは神戸大学大学院工学研究科応用科学専攻、先端膜工学センターの松山秀人教授と安川政宏博士の書かれた記事です。
高分子学会誌の記事では日本が世界を圧巻している水処理技術のお話がかかれています。
膜を隔てた高浸透圧側に外部圧力をかけるという逆浸透膜法ではなく、高浸透圧側に駆動溶液と呼ばれる溶液を添加することで浸透圧を発生させる正浸透膜法というものが紹介されています。
当然ながら外的圧力が必要ないので処理作業にエネルギーがあまり必要でなく、究極的にはゼロエネルギーでの水処理が可能になるというのがコンセプトのようです。
正浸透膜法に用いられる膜としては芳香族ポリアミドの活性層を有する複合膜、セルロース膜、アクアポリンなどの開発が進められているそうです。
そしてそれ以上に駆動溶液の開発が重要とのこと。
高い浸透圧を有する駆動溶液ほど再生が難しいため、両方のバランスを取ることが重要なのだそうです。
なぜならば駆動溶液は一度使用して終わりではなく、何度でも再利用する正浸透工程を進めるためのドライビングフォースですので再利用する必要があるからです。
駆動溶液としては三級アミン系が多く用いられており、一例として回収対象が二酸化炭素である場合、三級アミンはカルバメート塩を形成し、高浸透圧溶液となり、二酸化炭素除去後は非水溶性の三級アミンに戻り水と有機物の二層分離が起こります。
また低分子グリコールエーテルやN-イソプロピルアクリルアミドといった感温性ポリマーを用い、温度変化による外部刺激で駆動溶液の再利用を試みるというケースもあるとのこと。
感温性ポリマーの研究の一例は以下をご覧ください。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/upload/14/report/2012_8_1/a-3.pdf
このような水処理技術は海水の淡水化技術といった既に動いている事業はもちろん、この浸透圧をエネルギーに変える浸透圧発電なども実用化に近い段階にあるようです。
本技術の一例は以下をご覧ください。
http://j-net21.smrj.go.jp/develop/energy/company/2013112801.html
そろそろFRPの話に行きたいと思います。
初めに紹介した先端膜工学センターは膜に特化した研究組織で、非常に興味深いことに取り組まれています。
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-membrane/center/
水処理膜、有機薄膜、ガス分離膜、塗布膜、膜バイオプロセスといったグループに分かれ、それぞれの研究を進めているようです。
これらの技術の中でFRPに応用できるものは無いか見てみました。
まず興味を持ったのは有機薄膜グループの研究。
センシング・創エネ応用に向けた有機強誘電体VDF系薄膜の開発という題目で書かれた研究紹介は実に興味深いです。
分子の配向と配列を制御するためレーザーアニール法を用いて異方加熱を行いました。
このような分子配向制御は有機薄膜デバイスへの応用が期待され、有機薄膜太陽電池などがその候補の一つとのこと。
励起子の電化分離過程でのエネルギー変換効率を上げるため、分子のナノスケール制御が効果的であるようです。
さらにフッ化ビニリデン系の材料を中心に分子の電気双極子制御を行うことでピアゾ系に代わるセンサの研究開発を進めているようです。
これらの技術はFRPの機能化に大きな役割を果たす可能性があります。
FRPの最も重要な機能化の一つの考えが
「材料の知能化」
です。
市場で信頼を獲得しきれていないFRPに必要なのは常に安全を「見守る」という考え。
その時に形状追従性の高い圧電素子のようなひずみ、衝撃を検知するセンサ、そしてそれに動力を与える電源というデバイスは知能化に必須の考え方の一つです。
大きな問題が起こる前に、
「異常が生じそうなので、確認が必要である」
という警告が出せるというシステムを材料に組み込むことが重要であると考えています。
今回ご紹介した高分子膜というのは、
「形状追従性」
という特徴を有しています。
この特徴を活かしつつ、FRPに活用していこうという考えがFRP業界にいる方々にとっても重要なのはもちろん、高分子業界にいる方にとっても視野を広げる大切な一歩になるのではないでしょうか。
上記の話も高分子膜といったら分離と直結しがちな高分子業界の方々にとって視点を変えるきっかけになるのではないかと考えます。
産官学に関わらず保守的な印象のやや強い高分子業界。
ちょっとした考え方の転換が新たな産業構築へとつながっていくかもしれません。