Conair の 3D printing Filament
今日は私も所属している Society of Plastics Engineers ( SPE 米国プラスチック技術者協会)の機関誌に載っていた Conair の 3D printing Filament 製造技術についてご紹介します。
一時期盛り上がりを見せたFRP業界での 3D printing 。
最近は additive manufacturing という名前の方が一般的になりつつあります。
3D printing については以前以下のような記事でご紹介をしました。
正直ここ最近はやや下火になりつつありますが国家予算をつけているアメリカ合衆国ではそれなりに継続して研究開発が進められているようです。
Conair とは
今日ご紹介するのはConairという企業です。
事業では 3D printing だけをやっているわけではなく、
- Material Storage(材料保管)
- Conveying (運搬)
- Drying (乾燥)
- Blending / Feeding (混錬/供給)
- Heat Transfer (伝熱)
- Size Reduction (小型化)
- Extrusion (引き抜き)
- Medline (医療向け)
といった様々な要素設備を販売する、いわゆる設備メーカーです。
この自社技術を応用して作ったのが
3D printing 向けのフィラメント製造装置
ということのようです。
Conairの開発したフィラメント製造装置
3D printing 向けのフィラメント製造装置については1年ほど前に以下の所で press release を出しています。
http://www.conairgroup.com/about-us/news-press/3d-printing-filament-/
これによると Conair は以下の Davis standard と協力しながら 3D printing 用のフィラメント製造装置を開発したと書かれています。
http://www.davis-standard.com/
ここで紹介しようとしている 3D printing は以前紹介した Windform のような短繊維とは異なり、連続繊維に熱可塑性樹脂を被覆したフィラメントをベースとしています。
まずはConairのフィラメント製造の動画を見てみたいと思います。
ノウハウの部分はうまく隠れつつも、技術そのものが優れたものであると期待させる良い動画です。
上記の動画でも述べられていますが、質の高いフィラメントを作るために必要なのは、
Vacuum sizing
Precision cooling
であるとのこと。
引き抜き成形はノウハウが必要だということは良く知られていますが、その一つに冷却工程があるということは有名です。
急冷してしまうと表面にボイドができやすい、というのは一例です。
さて 3D printing に用いられるようなフィラメントについては
「フィラメント径の制御」
というものがとても重要です。
径が大きくなってしまうと実際に積層する時に材料供給が材料詰まりによってできなくなります。
フィラメントの表面が粗くなってしまっても同様の問題が生じるとのこと。
一方で径が小さくなってしまうと、そもそも材料供給のベルトなどが滑ってしまい材料供給ができなくなります。
Conair は 122 から 183 m/min という生産性を確保しながら、フィラメント径の片側公差を 0.0254mm以下としています。
SPEの機関誌の記事によると、3段階の冷却工程があると書かれています。
動画中でも冷却工程が一般的ないきなり水冷、という前にいくつかの段階を経ていることがわかります。
この初期冷却工程に減圧技術を応用しているものと推測されます。
引き抜きされたものは初め比較的高温の水によって徐冷されるとのこと。
これは先述したフィラメント上でのボイド発生を抑制することが主目的のようです。
当然ながら冷却温度の制御がとても重要であるため、温度制御にかなり気を遣っていると書かれています。
通常の引き抜き成形ではそのまま巻き取られますが、Conairのシステムではその後一度より大きめの径でもう一度巻取ながら冷却水槽を巡回させます。
この時、フィラメントは引き抜き成形型の方向に戻ってきて、もう一度巻取方向へ進行するという往復軌跡を描きます。
これにより設備の省スペースを実現しながら、フィラメントの冷却を実現しているとのことです。
ところでこのようなフィラメントがどのように 3D printing に応用されているのか想像できるでしょうか。
ご存じでない方のために、例を挙げながらご紹介いたします。
連続繊維の 3D printing
以下の Markone の動画を見ると、どのようにして積層していくのかのイメージがわくのではないかと思います。
動画を見てもらうとわかるように、初めにマトリックス樹脂の土台を作り、そこに熱をかけながらフィラメントを積層していきます。
ここでの積層は本当の積層というよりも、一筆書きで繊維をのせていくイメージです。
出来上がったものはマトリックス樹脂の中に繊維が配向して埋まっているような状態であり、
「複合材料とは複数の材料を組み合わせ、それぞれの材料の特性を上回る、またはそれぞれの材料に無い特性を発現する」
という材料の根本的なコンセプトから大きく外れているのではないかと、私であれば懸念してしまいます。
FRPは繊維と樹脂が一体化して初めて性能が発現されるものなので、目視でわかるような樹脂層が存在しているというのはかなり違和感があります。
とはいえ、用途をきちんと考えればメリットはあるかもしれません。
あくまで形を作ることがメインではなく、複合材料としてのコンセプトからはずれていないということを再確認した上で適用について考えてみるという冷静さは忘れてはいけません。