GE aviation が CMC 向け SiC 製造工場設立
FRP業界も属する複合材料の中で唯一1000℃を超える環境にも耐えられる CMC ( Ceramics Matrix Composites )。
このCMC向けに用いられる SiC 繊維( Silicon Carbide : 炭化珪素繊維 )の量産工場を、 GE aviation が Huntsville に設立したとのことです。
本内容は以下の記事でプレスリリースとして出されています。
http://www.geaviation.com/press/other/other_20160616.html
CMCは主に航空機エンジンと発電用のガスタービンエンジンに適用されるようです。
SiC繊維とCMCの製造工場
Huntsville というのはアラバマ州北部にある町です。
( The image above is referred from google map site. )
今回設立した2つの工場のために投資したのは200億円以上。
1つの工場はSiC繊維の量産工場、もう一つはCMCのテープを製造する工場とのこと。
つまり、繊維とCMCの両方を製造するようです。
工場のコンセプトは以下の通りと書かれています。
From ceramic fiber to ceramic tape to CMC components
そのままですね。
これらの工場は2018年の上期に完成し、2018年末までには生産を開始すると述べています。
今回設立する工場の目的は、
CMCでできた製品の生産工場
で、これをアメリカ合衆国に立地したということに意義があると強調されています。
今回のSiC量産工場設立においてはアメリカ政府の予算も投じられたため、海外販売の多いガスタービンエンジンがアメリカ発信で事業が進むことの意義の重要性を強調したいようです。
アラバマ州としても新たな産業設立により雇用が確保されるという目論見もあることが記事からもわかります。
SiC繊維製造で力を発揮している日本企業
今回のSiC繊維の生産を担うのは NGS Advanced Fibers という企業で、GE、Safranに加え、日本の企業である「日本カーボン株式会社(http://www.carbon.co.jp/)」の3社の Joint Venture です。
http://www.ngs-advanced-fibers.com/jpn/index.html
主には酸素含有率の異なる3つのグレードがあるようです。酸素含有率は高温環境での物性確保に直結する重要な要素です。
http://www.ngs-advanced-fibers.com/jpn/item/
日本の東北大学で発明されたSiC繊維ですが、熱処理(不融化処理)の段階での酸化を回避することで酸素が存在する高温環境でも物性が低下しないSiC繊維ができたとのことです。
この辺りのお話はウィキペディアのサイトを参照いただければと思います。
尚、SiC繊維と炭素繊維は全くの別ものとご理解ください。
SiC繊維はそもそもガスタービンエンジンの高温部品(タービンなど)に使うような材料で、炭素繊維とは次元の違う高温特性を有しています。
これはあくまで参考ですがT300という東レの汎用炭素繊維は500から600℃で酸化する様子を調べた研究などがあります。
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/search/servlet/search?2051223
その一方でSiC繊維は1300℃以上でも酸化することなく使用できるとのことです。
GEは既に Asheville にCMCを使った部品の製造工場を2014年に設立しており、LEAPエンジン向けの HPT (High pressure turbine)のCMC製シュラウド製造に用いることを計画の一例として述べています。
それ以外にも B777X に搭載予定の GE9X の燃焼器やHPTにもCMCを適用することを計画して開発を進めており、更なる拡大が予想されています。
今回の話、個人的には色々考えさせられるものがあります。
腰を据えての20年以上の開発
まずはGEの粘り強さです。
CMCを使うという話は大分昔からありますが、GEの強みはやると決めたことは何十年でも続けるという粘り強さです。
当然ながら、ドライに切って辞める部分や外注ということで協力企業に委託するケースも多いようですが、
本当の肝となる部分については長い時間をかけてしっかりやり切るところがあります。
量産民間機用エンジン部品へのCFRPの適用もGEが世界で初めて成功しました。
すべてに対して結果を急ぎすぎる傾向のある昨今の世界の産業界ですが、
このように粘り強く時間とお金をかけるという覚悟は参考にすべき姿勢の一つかもしれません。
当然ながらお金については外部予算(公的なもの含む)を上手く獲得している、といった部分があるかもしれません。
明確なコンセプト
ガスタービンエンジンを携わった人間であれば、何となくでも今回のCMCの意義はわかるのではないでしょうか。
エンジン効率を高めるのに大切なのは
「コアの温度を下げないこと」
というのが大前提の一つだと言われています。
ガスタービンエンジンは外側を通過するバイパスとLPCやHPC、燃焼器を通過するコアという2つの空気通路があります。
このことは関連する方々全員が重々承知でエンジンの設計を行っているのですが問題は、
「高温環境で材料がもたない」
という所に集約します。
これに対応するため、エンジン内でエアを循環させて空気漏れを防ぐシーリングに加え、部品の冷却を行っています。
エンジン部品の高温部材にはものによっては細かい穴が開いていますが、これはその冷却空気を通すための穴です。
冷却空気を使うということは、空気をできる限り高温状態で圧縮したいというエンジン性能に逆行する行為ですので、できればこのようなことはやりたくない。
だからこそ高温耐熱合金を初めとした高温耐熱材料が今を持って世界中のガスタービンメーカーにとっての重要テーマの一つなのです。
今回のCMCの優れているところは耐熱性が高いことに加え、比重が3を下回る軽量であること。
耐熱性が高ければ冷却が不要になるだけでなく、軽量化できれば回転部品の場合、回転数も上げられる。
これらはエンジン性能向上に直結するものです。
このような設計コンセプトが明確になっているからこそ上述したような長期開発ができるのかもしれません。
セラミックマトリックスとSiC繊維の表面処理
繊維もさることながらやはりポイントはマトリックスであるセラミックスとそのマトリックスと相性のいい表面処理(サイジング)ではないでしょうか。
この辺りが最も重要な技術であるため、関連する情報は上記のプレスリリースにはほとんどかかれていません。
セラミックスは言ってしまえば陶器のようなものですので非常にもろい。
その一方でセラミックスは製造時に気泡ができやすく、脆性材料であるセラミックスをマトリックスとする場合は初期欠陥がそのまま最終破壊につながるという恐れもある。
加えて、SiC繊維との複合材としての性能を繊維との接着性(密着性)を確保することも重要で、この辺りにはかなり高い技術が必要です。
GEがどのような協力体制のもとマトリックスとサイジング剤を選定、または開発したのかは不明ではありますが、ここに最大のポイントがあるのは間違いはありません。
FRPでも世界をリードしてきたGEだけに、彼らの有する設計思想をフルに活用して非常に良いものを出してくる可能性が高いと考えます。
日本企業の技術の国内未活用
こちらは日本という国として反省すべきです。
日本カーボン株式会社の技術について、結局日本では最前線で活用されることなく国外でそのスタートラインを切ることになりました。
海外で今回のように使われると、後追いのように日本の航空業界Tier1以下の企業が飛びつくのではないでしょうか。
すべてが後追いなのです。
いつもながら残念でしかたありません。
日本でも数社がCMCの開発を進めていたというのはきいたことがありますが、
多くの企業や組織は「高いから、用途がわからないから」というわかりやすい観点から「様子見、不可」の判断を下していたのではないかと想像します。
本当に使い道がなかったら仕方ありませんが、この手の特殊材料がなぜ国外で評価されてしまうのか。
民間企業だけでなく、日本政府としても本気で考えなくてはいけない事態かもしれません。
今日はFRPではなく、FRPも属する複合材料という領域で最高レベルの耐熱温度を有するCMCについてご紹介しました。