カーボンナノチューブ CNT を ゴルフシャフト に採用
先週のマスメディアでも比較的大きく取り上げられていましたが、 カーボンナノチューブ ( CNT )を用いて耐衝撃性を向上させた CFRP 製 ゴルフシャフト を2018年に ミズノ(http://www.mizuno.jp/) が販売を開始するとのことです。
CNTは以下のような構造を持っていることが知られています。
以前、こちらの記事でもCNTについては述べたことがあります。
(The image above is referred from http://news.mynavi.jp/news/2012/07/20/003/ .)
大手新聞社では以下の2紙が報道を行っています。
※朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASJ773JWPJ77PLFA001.html
※日経新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASHD07H1F_X00C16A7000000/
上記のうち、日経新聞はきちんとした記事を書かれていますね。
CNTを使う動機をミズノの方がわかりやすい説明されているのがわかります。
微粒子添加で必ず問題になるのが「分散性」。
これを表面処理技術で解決し、CFRPへの均一添加に成功したとのこと。
耐衝撃性を高めたためにゴルフでいえば更なるシャフトの軽量化(薄肉化できるため)が可能になるだけでなく、設計の自由度も上がることでボールの打面を大きくするなどの製品差別化も可能になると発表しています。
尚、耐衝撃性の評価方法詳細は不明ですが、シャフトの折損速度で比較しているようです。
折損速度の比較をそのまま耐衝撃強度としているのであればやや違和感がある評価です。
話を戻します。
この材料はNEDOとミズノが共同で2年という歳月をかけて進めてきたもので、
CFRPに次ぐ新規素材開発への一歩として期待されているとのこと。
今後はテニスラケットのようなスポーツ用品だけでなく、
ミズノのグループ子会社であるミズノテクニクス株式会社(http://www.mizuno-technics.co.jp/)が主体となって、CFRP製のタンクやロボットアームといった産業用の部材への適用も検討していくとしています。
今回の発表でどのようなことを考える必要があるのかについて述べていきます。
CNT分散性向上に貢献した表面処理
微粒子や微粉末をCFRPに添加するということはかなり古くから行われており、一言でいうと決して新しい技術ではありません。
技術的観点からみると、今回の発表の肝でもありますが
「微粒子の分散性を達成した」
という点が非常に大きな進歩とみるべきです。
この辺りの詳細については不明確ではありますが、
”CNTの新規の表面処理技術を利用し、CNTの分子間力の緩和による分散性の向上を実現”
と以下のNEDOのプレスリリースに書かれています。
参照元URL:http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100601.html
これに合わせて今回の技術が
「エポキシ樹脂専用に開発された」
ということも上記の記事は述べています。
是非とも期待したいのが、この技術が他の熱硬化性樹脂、そしてCFRTPとして最近適用が広がりつつある熱可塑性樹脂にも応用できるようにしたいという点です。
当然ながら後述する設計コンセプトがきちんとしているというのが前提でもありますが、一般的には繊維と樹脂の界面接着が良好でない熱可塑性樹脂において、CNTが両者をつなぎ合わせる媒体として機能することができれば該技術にとって非常に大きな一歩となります。
顧客ニーズを意識した設計コンセプト
ミズノは自社で分野によっては最終製品を設計、開発、販売できる企業です。
このエンドユーザーに近い企業が顧客ニーズを意識しながらNEDOと材料や素材の共同開発を進めたという所に価値があると考えます。
上記の日経新聞のインタビューでもそうですが、
「CNTで耐衝撃性が上がりました」
という短絡的な考えではなく、
「耐衝撃性を向上させたことにより部材の強度が高まり、より薄肉形状とそれに由来する形状設計自由度向上を実現させ、商品価値を高めることを目指す」
という高い視点からの意見を述べています。
あくまで最終製品の設計自由度を高め、製品の付加価値を高めるためにCNTを活用したい、というぶれないコンセプトがあるところが非常に好印象です。
顧客に近いメーカーが素材の大切さを見直し、
「設計、材料、製造を一気通貫でやる」
という体制を目指している今回の発表は色々な意味で価値があると考えます。
今回の発表の課題点
さて、その一方で課題がないわけではありません。
耐衝撃性というのはどちらかというと静的特性。
つまり一発勝負です。
繰り返し疲労のような長期利用を想定した評価の時にCNTがどのような効果が出るのかについては、少なくともプレスリリースでは一切述べられていません。
もちろん、内々で評価が進められいると想定されますが長期利用を見ているかどうかという点について言及されていないことは課題の一つと見ることができます。
もう一つの課題は機械特性に注目しすぎているということです。
材料設計者やそのような方の属する企業は直感的にわかりやすい機械特性に注目する傾向があります。
実際に製品を設計するときに大切なのは機械特性がその一つであることに疑いの余地はありませんが、
それと同等かそれ以上に大切なのが物理特性です。
国内外含めて様々なプロジェクト(企業、研究機関、大学)で仕事に関わる機会が多いのですが、
どこもこの物理特性に配慮しているケースが少ないというのが正直な印象です。
CNTというと電気特性はもちろんですが、例えば個人的には線膨張係数、硬化挙動の変化なども気になるところです。
全体を通じて今回のミズノの取り組みはとても興味深く、今後FRP業界全体に広がっていってほしい流れであることはまちがいありません。
アッセンブリーメーカーも今一度素材をきちんと見直し、
それを他の材料メーカーや研究機関に丸投げするのではなく一緒に考える、
という姿勢で取り組んでみるという流れが広がることを期待したいところです。