炭素繊維不織布と熱可塑性樹脂の Additive Engineering
現在も一時期ほどではないにしても話題性に欠かない 3D printing 。
最近は Additive Engineering という呼び方の方が一般的になりつつあります。
このAdditive EngineeringについてFRP業界から新たなアプローチをかけてきた Impossible Objects という企業を紹介します。
設立時期などは不明確ではありますが、以下のHPを見る限り比較的新しい企業なのではないかという印象をうけました。
その一方で、プレスリリースを見ると20年以上の経験があると書いてありますので、相当の経験者で組織された企業であることは容易に想像できます。
http://impossible-objects.com/
HPの中にも CBAM という言葉が何度も出てきますが、これは
Composite-based additive manufacturing technology
のことを指しているそうです。
どのような技術を持っている企業なのかは、以下の動画がわかりやすいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=6xBxierGRrE
あくまでコンセプト検証の試作機であると述べていますが、やろうとしていることはなかなか面白いと思います。
形状断面をデータ化した後、樹脂パウダーがまぶされた炭素繊維(ガラスやアラミド繊維の場合もあり)の不織布に各断面に該当する形状に基づきインクジェットの要領で熱をかけることで樹脂を溶融状態にすることで、溶融樹脂を不織布上に転写。
その後、余分な樹脂を除去して既定の厚みまで圧縮し、加熱することで樹脂を含浸させます。
最後はブラストで樹脂の含浸していない部分だけを除去するというやり方で最終的な形状物をえることができるというものです。
Impossible Objects は最近以下のようなプレスリリースを出しています。
Impossible Objects Introduces 3D Printed PEEK Polymer Carbon Fiber Composite Parts
Addition of PEEK to revolutionary 3D printing process brings carbon fiber closer to replacing metals in manufacturing
プレスリリースの掲載先の一例は以下のようなものがあります。
スーパーエンジニアリングプラスチックの代表格の一つであるPEEK ( polyetheretherketone ) をマトリックスに大腿骨のステムをつくった、という事例が紹介されています。
従来のアルミに比べ引張強度は3分の2になるものの、重量は半分、PEEKを使うことで250℃付近までの耐熱性とPEEK由来の圧倒的な化学安定性を実現した、と書かれています。
少し高分子の知見のある方であればわかると思いますが、PEEKのガラス転移温度は143℃程度の結晶性高分子です。
やみくもに高い温度でPEEKを使うというのは設計思想があまりにも貧弱です。
PEEKであっても、ガラス転移温度が200℃を超える高耐熱のエポキシであっても、100℃を超える様な環境になればクリープ特性、FRPでいえば圧縮強度やせん断強度は室温環境と比較して大幅に低下します。
さらに結晶性高分子ですので、冷却速度によりアモルファスと結晶部分の比率(いわゆる結晶化度)が変化し、
程度によっては特性に影響が出る恐れがあります。
このあたりは高分子の特性もよく踏まえた上で決めたいところです。
今回の発表から考えるべきことは何でしょうか。
強化繊維の形態が不織布である
まずは強化繊維を不織布として用いているということです。
不織布は特性上比較的異方性が低い材料です。
そして各層に限って言えば繊維が入り組んでおり、層間強度が高くなりやすいというメリットがあります。
その上、繊維の異方性が低減された状態で樹脂は含浸されているので、FRPの材料基本コンセプトで最も重要な、
「繊維が受ける力を樹脂に効率的に伝達、分散させることができる」
ということを実現できます。
Vfが高ければそれだけ含浸性が低下するのは避けられませんが、含浸で来た時に発揮される上記特性は注目に値します。
強化繊維のリサイクルへの応用の可能性
そしてそれ以上に重要なのは
「不織布はリサイクル繊維として活用できる可能性が高い」
というところです。
本コラムでは何度か述べていますが、炭素繊維に限らず、各種高機能繊維のリサイクルは近い将来必ず必要とされる時期が来ます。
これがビジネスになるならないではなく、恐らく欧州を皮切りにリサイクルを義務付ける規則を立案することが本事業化の必要性を議論する出発点になると予想しています。
そうすると、消費することだけを考えるわけにはいかなくなり、リサイクルが必要となる。
繊維のリサイクルには色々なやり方がありますが、不織布への再利用というのは選択肢の一つになることはまちがいありません。
そしてこの不織布を用いた CBAM は
「リサイクル材料の出口として認識される」
と期待されるのです。
私はこの観点から本技術にとても興味を持ちました。
今日は Additive Engineering として Impossible Objects の技術をご紹介しました。