地震を超えるといわれる SRF工法
高分子学会機関誌の特集である「街に寄り添う高分子」という項目で、構造品質研究所株式会社の五十嵐代表取締役が SRF工法 という構造物補強技術について述べています。
https://www.sqa.co.jp/index.html
一言でいうと感銘を受けました。
なるほど、よく考えられているなというところです。
耐震補強に対し、GFRP、CFRPが使われようとしている、またアラミド繊維を用いたものも検討されているということは比較的知られています。
SRF工法はFRPを使った耐震補強技術の一つですが、従来とコンセプトが異なっています。
繊維として使っているのは「高延性材」と呼んでいるポリエステル繊維をベルト・テープ・シート状に織り込んだもの。
ポリエステルは衣類に一般的に使われているくらいの繊維なので圧倒的な柔軟性があります。
これに組み合わせるのが一液性のウレタン接着剤。
ホルムアルデヒドやBis-Aといった化合物を含まず、エポキシと同等の耐久性、施工性をもつということでJISでも認めらえているようです。
そして接着性が「高すぎない」故に母材の表層を破壊する前に自らはがれるため、母材の破壊を抑えながらもはがれていない部分での荷重分散により補強性能を維持するというコンセプトのようです。
施工の様子を写した動画がありましたのでアップしておきます。
こちらは柱を補強するケースですが、壁の場合はある程度の長さで切断された高延性材を水平方向に貼り付けていくイメージになるようです。
どのようなメカニズムでSRF工法が補強性能を発揮するのか、ということを示すシンプルな図が構造品質研究所株式会社のHPにありましたので引用します。
( The image is referred from https://www.sqa.co.jp/srf/dl/REINFORCEMENT_pamphlet.pdf )
上記は壁のイメージですが、一例として下方向が地面と想定し、横揺れの地震が起こったとします。
すると構造物は45°の方向に変形荷重を受ける、つまり面内せん断の荷重モードが負荷されることになるのです。
この時、水平方向に補強してあると構造物にかかる荷重成分の水平方向だけを押さえつけることで構造物の変形をある程度許容しながら、しかしある一定以上の変形を防ぐというバランスが成り立ち、損傷が微小な範囲で抑制できるということになるとのことです。
エネルギー吸収には変形は必須で、しかし変形しすぎると破壊するということに注視しながら、主応力の45°方向だけを抑制するという非常に明快なコンセプトです。
しかも接着はポリウレタンでエポキシほど強くないため、ある程度以上になれば面内せん断の補強は放棄し、水平方向の最終破壊を防ぐという機能の変換を行っています。
興味のある方は以下の所から問い合わせてみるのも一案です。
https://www.sqa.co.jp/srf/srf_index.html
さて、今回の記事から考えるべきことは何でしょうか。
強化繊維とマトリックス樹脂の関係
私個人的にはここが最も大きなポイントであると考えています。
FRPも属する複合材料の基本コンセプトは、
「物理的に分離不可能な2種類以上の材料を組み合わせ、それぞれの性能を向上させる、またはそれぞれの材料に無い新しい性能を発現させる」
というところに集約されます。
このそれぞれの性能を向上させる、という部分を達成するのにFRPについて必須の考えが、
「マトリックス樹脂が強化繊維に十分含浸し、マトリックス樹脂から強化繊維への応力伝達効率を最大化する」
というものであると私は考えています。
ところがSRF工法はこのコンセプトとはある意味異なっており、
「補強の主体はあくまで繊維であり、マトリックス樹脂は構造物と強化繊維を既定の変形までつなぎ合わせるための媒体である」
というような印象を受けています。エポキシのような強力な接着性ではなく、ある程度の所で接着を諦め、補強を強化繊維に一任するという割り切りがそれを示唆しています。
本観点はとても勉強になりました。
FRPの設計思想の一つとして今後も検討してみたいと思います。
強化繊維の織り方
日本は元々繊維産業の盛んだった代表国の一つです。
そしてFRP業界の川下に行くほど意識が希薄になるのが、マトリックス樹脂に加え
「強化繊維の織り方」
という点です。
織物や編物だけに限らず、NCFなども含め以下のような記事で紹介したことがあります。
繊維業界にいる方にとっては常識のことですが、繊維というのは同じ素材を用いたとしても織や編みといった「形態」によってその特性は大きく変化します。
今回の強化繊維である高延性材は、長手方向にはかなりの繊維補強を行っている一方で、水平方向にはある程度の変形ができる、そして施工性が良いように角柱への巻き付けといった変形にも追従できるような形態にしているようです。
もちろん、繊維の基本として上記のような特性を発現しやすいのは一般的ではありますが、バランスという点では織り方、編み方を最適化するということが繊維素材の選定と同じくらい大切なことになります。
今回のようなSRF工法は地震大国日本ならではの技術であると考えます。
是非とも日本が主体となり、同じ地震に備えなければならない国々に対しても事業として世界中に浸透させ、新たな産業につながっていくと期待したいです。