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Multiaxial fabrics の建材への適用

2016-08-19

NCFの欧州の雄 Formax を買収したHexcelが Multiaxial fabrics を建材に用いることを始めたようです。

Composite Modular Transportable Hangar (CMTH®) と呼ばれるギリシャの企業 Dasyc SA の建材にガラス繊維の多軸材である HiMax™ が採用されたとのこと。


Hexcelの以下のページでプレスリリースが出されています。

http://www.hexcel.com/News/Market-News/news-20160808

 

この Dasyc SA という企業はギリシャにある企業で、従来は BMC ( Bulk Matrix Composite )、射出の成形等を行ってきた企業のようです。

http://www.dasyc.gr/


会社案内を見ると設立は1979年ということで、この業界としてはそれなりに古い企業の部類に入ります。

http://www.dasyc.gr/wp-content/uploads/2015/06/Dasyc-Brochure.pdf


Dasyc のプレスリリースを確認してみると、既に昨年10月の時点で CMTH® については展示を始めていたようです。

http://www.dasyc.gr/dasyc-exhibits-cmth-at-the-ausa-2015-show/


CMTH® というのはアーチ形の建材で72mm厚みのポイウレタンコアの両面にスキン層として4mm厚みの Multiaxial fabric のガラス基材を不飽和ポリエステルを VARTM で作るサンドイッチ構造です(表裏にGFRPのスキン層があるため、トータル厚みは80mm)。


イメージの写真などは以下のURLをご参照下さい。

http://www.hexcel.com/Resources/Documents/Hexcel-CS-Dasyc-Jul2016-v4.pdf


強化繊維についてはEガラスを用いて、1200 g/m2目付による 0°/-45°/90°/+45° という4層構成で、これらを配向させてポリエステル繊維でスティッチングしているとのことなので、NCFの形態のようです。


この CMTH® は基本的にはステンレスやコンクリートと同等以上の機械特性を有し、
かつオンサイトでの組み立てができるよう、事前に部品成形を行ってから現地に持ち込む形式を取ることで、工期の大幅な短縮に結びつけているとのことです。


GFRPがスキンの基材になることから耐食性も高く、赤外やレーダーに対する反射性も低いことから軍需ニーズも高いとのこと。


そのため、軍用機の格納庫などにも用いられているそうです。

また当然ながら軽量であるため、建物を移築するといったことも用意であるのもメリット。


小型保管が可能で、海上輸送、空輸なども含め様々な所に移動できるため、一種のシェルターとしての役割が主目的のようです。

設計にもかなりの気を遣っており、剛性を上げるため波長1.5m、振幅380mmの波形状をもたせているなどの工夫もあることから Eurocodes building regulationsを満たし、一般の建材としても用いられるようです。

 

今回の記事から考えるべきことは何でしょうか。

 

Multiaxial fabric の特性を理解した設計

よく、

RTMは低コストに有効だ

というお話をうかがいます。


しかしその背景をうかがってみるとあまり根拠がないケースが多いような気がします。

以下の記事でも述べましたが、RTMは低コスト以前に今回も用いられている Multiaxial fabrics のような基材プリフォームの設計が極めて重要であり、このプリフォームの工程を考えずに形状設計するとRTMは低コスト以前にそもそも成形できない、という事象も生じます。

プリウス PHV に採用されたCFRP製バックドア


今回の積層パターンは 0°/-45°/90°/+45°であり、疑似等方に近い形態となっています。

この基材形態を活用するため、できる限り形状はなだらかなものにして無理なドレープ性を要求せず、
そして多層をプリフォーム段階で積層し、繊維配向も維持するためにスティッチングを行う、
という理にかなった基材のプリフォームを使っている印象です。


プリフォームのやりやすい設計は基材が位置を保持しやすく、積層工程を簡略化できるというプリフォームのメリットを出しやすい。


ここで初めて Multiaxial fabrics が低コストを生み出す可能性がある、ということができるようになります。


またマトリックス樹脂についても粘度が極めて低い設計が可能な不飽和ポリエステルを用い、さらに樹脂のflowを補助するために450 g/m2の連続繊維のマットを用いることで繊維への樹脂含浸性を高めています。


表層には現在もハンドレイアップ工程を主体に使われているゲルコート層を用い、外観性向上と耐候性を高めるなど、積層構成に非常に気を遣っています。


このようなプリフォームの限界も理解した上でのバランスの取れたRTM工程設計は量産品質安定という観点からも重要です。

 

FRPの機能材としてのコンセプト明確化

国内外問わずもっとも欠落しているのがこのコンセプト明確化です。


FRPというと

「軽くて強い」

というのは常識です。


問題は軽くて強い「+α」を言えるかです。


今回のCMTH®のメリットとしては、

– 軽量なのでオンサイトでの組み立て、移築が容易

– 耐久性が高く、保守点検が最小化できる

– 赤外やレーダーの検知率が低い

といったところが述べられています。


このようなコンセプトの明確化ができないと、


「高い材料だから使わない」


という社内外の判断が下されてしまう傾向があります。


FRPは材料ではなく「機能材料」です。


この機能性を見出せないと適用動機は大きく低下してしまうのです。

FRPを用いた設計を行う場合には是非とも忘れてほしくない点といえます。


ご参考になれば幸いです。

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