はじめてのFRP 量産化に必要な 図面 とは
今日の はじめてのFRP のコラムでは FRP製品の 図面 について書いてみたいと思います。
製品の要件がすべて盛り込まれ、あらゆる技術文書の中で最高権限を持つ 図面 。仮に材料がFRPであったとしてもこの原則は変わりません。
最近FRPに関連する仕事として材料(樹脂、プリプレグ、繊維基材)、成形加工、設計に加え、実際に製品を販売する企業の方と仕事をする機会が出てきています。
実際に販売するということは、開発ではなく商品として世に出ていくわけですから、技術的にも事業的にもある程度の形になっているものがほとんどです。
お仕事をさせていただく多くのお客様において、技術的にいうと製品のコンセプトが良く練られているケースが多いです。
FRPの製品化に重要なのは原点であるコンセプトだとこのコラムでも良く述べていますが、
その原点が非常に良くできているのです。
製品形状も本コンセプトを具現化する要件を十分に満たしている印象です。
それに加え販売価格などのビジネスモデル(事業モデル)も非常に良くできており、販売企業の売上と利益を確保できる形態が整えられています。
利益率の考え方や物流の詳細までは話をきいているわけではありませんが、話の節々にこの辺りがよく考えられているということが伝わってきています。
製品の購買意欲を刺激する明確なコンセプト、そして利益を確保する売上金額の設定に大きな問題は認められません。
ただ、その一方で圧倒的に不十分なものがあります。
それは、
「製品図面」
です。
詳細については言及できませんが、このままでは不具合が出る可能性も十分に考えられるだろうな、というものでした。
そしてこのような案件について相談が来た時は販売直前の最終試験で発生したのでその原因究明と対策方法の提案をいただきたい、というのが私に話が来るケースの代表例です。
今のところ市場に出た後に大きな問題が出たというケースでのお話はなく、販売前に出た不具合の対策提案がほとんどであるというのが業界としても不幸中の幸いといえます。
もし販売後にこの手の問題が起こったとするといわゆる市場問題となり、最終的にはその販売企業の”信頼”というブランドに消えない傷をつけてしまうことになりかねません。
今日のコラムではありがちなFRP製品の図面の問題点とそれに対する最低限の改善点について述べていきたいと思います。
(本来は各項目について膨大な確認事項がありますが、ここでは概論のみ述べているということは予めご了承ください)
寸法公差、幾何公差が無い
意外に思われるかもしれませんが、FRP関連図面の多くにはなぜか公差がありません。
よくて寸法公差についてJIS B 0405のような公差に関する公的規格を引用している程度で、幾何公差まで入れている図面をほとんど見たことがありません。
そしてこの事例を問題だと考える背景として、何故という話をきいても図面の作成者、いわゆる設計者が明確に返答できないケースが非常に多い、ということがあります。
寸法公差や幾何公差が無いということは形に関する管理はできていない、
ということですので部品ができてから他の部品と接触する、
想定以上の隙間が空いてしまうといった問題が生じます。
すべての寸法に公差をいれるのは、特に幾何公差では極めて困難能ですがアッセンブリー(組み立て)に影響を与える可能性のあるところについては意図して公差を入れる、ということを行うことが重要であり、設計思想の基礎中の基礎ともいえます。
最近CATIAなどのソフトが進化したために公差のない3D形状だけで図面を出す設計者もいますが、その時点で将来的な問題点を多く含有しているということを理解することが出発点かもしれません。
非破壊検査項目がない
もちろん必要ない、という意図が図面作成者にあるのであれば問題ありません。
ところがFRPというのは内部欠陥が破壊起点になるリスクのある特殊構成の材料であることを忘れてはいけません。
ここでいう特殊構成というのは繊維と樹脂が基本的には層状に積み重なった形態を有していることを指しており、これにより樹脂層や繊維と樹脂の界面を破壊が進展する傾向がある(亀裂の進展方向が誘導されてしまう)というところまでを含有した内容とご理解ください。
こういう話をすると、
「(とりあえず)非破壊検査要件を入れましょう」
というか、
「(根拠はありませんが)必要ないです」
という2パターンの返答しかありません。
明確な意図をもって非破壊検査の議論をできる設計者はとても少ないというのが印象です。
非破壊検査と一言でいっても非常に多くの検査手法があります。
その中からどの検査を選定し、どこの箇所に対して行うのか。
当然ながら非破壊検査を全面に部品毎に行うのは特に量産品の場合、生産計画の観点から容易ではありません。開発品であっても検査の要件や、検査手法の構築には非破壊検査に関する高い知見を持った専門家の徹底的なサポートが必須です。
形状や積層構成、材料の構造を考慮しながら応力集中が起こるところ、材料破壊の起点になりそうなところを中心に検査を行うよう検討を進めるのが妥当かつ現実的といえます。
材料規格がない
FRPは金属と違い公的規格の存在しない材料です。
そのため、使用する材料については規格を作成し、要件を明確化する必要があります。
こういうと、
「強度や弾性率」
といった物性要件を思い浮かべる方が多いようですが、
「材料規格( Material Specification )における強度や弾性率は、材料規格の一部」
でしかありません。
材料の物流要件、保管要件、品質管理体制等々。
このような非常に包括的な内容をもって材料を指定するのが材料規格です。
つまり広い意味で材料規格を理解しておかないと、図面要件を満たす製品を構成する材料を指定できないのです。
材料メーカーの品番を図面に書く設計者もいます。
○○材料相当のようなイメージです。
もちろんその材料が完全に製品要件を満たす必要条件(十分条件とまでは言いませんが)が揃っていればいいのですが、カスタマイズ性の強いFRP業界でなかなか思い通りにはいかないわけで、材料メーカーの出す材料について自社のこの製品にはこの要件を追加してほしいとか、この部分を変えてほしいとなるはずです。
材料指定に関し「メーカー品番」に加え「相当」という言葉を使うのはやや危うさを感じてしまいます。
やはり設計者が材料の要件を理解の上で明文化する、ということができない量産に耐えうるとFRPの製品図面は書けないのではないか、というのが私の考えです。
いかがでしたでしょうか。
早く安く作るという議論以前に大切なものが見逃されているということに気がつく方もいらっしゃるのではないでしょうか。
経営的観点からも大量に作って売り上げを確保するというのはわかりやすいモデルといえます。
その一方でこれだけ価値観や要望が多様化する中で一つのものを大量に作って売り上げを実現する、というモデルを作るというのはいうほど簡単ではありません。
それよりも少量多品種で顧客要望に応えるカスタマイズ性を含んだコンセプトと、そのコンセプトを問題発生を最小化する製品図面で具現化することで売り上げというよりも利益に軸足を移す、というやり方の方がFRP事業において現段階では適切な思考回路といえるのではないかと考えます。
今日ははじめてのFRPということで、FRPの「 図面 」ということについてお話をしてみました。
ご参考になれば幸いです。