CFRP製品開発 の危険な一般潮流
CFRP製品開発 に関し様々な情報が出回るようになってきました。
中にはなるほど、と感心するものもあれば、やりたいことがよくわからないというものまで色々です。
そんな中、ここ最近やや私個人的に気になる話や動きを見聞きすることが増えてきましたので、本日のFRP戦略コラムで議論をしてみたいと思います。
形を作ることを急ぎ過ぎる危うさ
一時期この傾向は下火になったと思ったのですが、ここ最近急激に試作で形を作るということを急ぐ傾向が強くなってきました。
製品のコンセプトや設計はほぼ置いてきたままで、とりあえず形を作るという流れです。
何度もこのコラムで述べていますが形を作るということは
「わかりやすい」
という観点では文句なしにインパクトがありますが、そもそも
「その形に至ったコンセプトこそがすべての根幹」
ということがなおざりになってきている傾向が非常に危うさを感じます。
「形を作るということはわかりやすい」という最大公約数的な本考えは時に大きな危険をはらんでいます。
実際に試作ベースで形になったものが大きな市場問題につながる恐れにある事故に至った、
ということをいくつか目の当たりにしています(もちろん一般情報に出回ったものではなく、私の実体験です)。
理由は比較的単純で、
「事業化を急ぐために、製品化を急ぎたい」
という深層心理があるようです。
製造業における形を作ることを急ぎたい、というこの心理をいったん沈静化させるのは想像以上に大変であると感じます。
形を作るということが上記の通り「一般的に受け入れやすい考え」だからです。
しかし、形の根幹にあるコンセプト検討が後回しなることは、川上から川下(完全に一般市場のお客様の直前)まで見て居る私から見ると極めて危険な傾向といえるでしょう。
形を作るよりも大切な製造における「コンセプト」は設計技術の出発点
コンセプトというのは色々な表現の方法がありますが、端的に言えば
「設計技術」
です。
設計と聞くとCADなどで図面を書く、強度計算をする、幾何公差を考える、といった側面を思い描く方が多いかもしれません。
ただし、これは設計のほんの一部でしかありません。
本来の設計というのは、
「その製品を持ってどのような価値を供給するのか」
という問いに対する答えを考えることが出発点であるというのが私の考えです。
この考えはFRPに限らず一般的な話です。
ただし、FRPのコンセプトを考えるのはいうほど単純ではありません。
最も明確単純なコンセプトは、FRPの場合「軽量化付与」といえます。
ただし、軽量化だけであれば無理にFRPを使わなくてもアルミで達成できるケースが多くあります。
しかもアルミはFRPと異なり異方性もなく、加工も比較的楽であり、材料や工程に関する確立された規格が存在するなど、むしろFRPよりアドバンテージがあります。
言い換えればFRPは異方性があるうえに、加工、特に成形に確立された方法も少なく、材料や工程に関する規格も存在しません。
このような条件を考慮した上で、
アルミの一般的な比重である2.7とCFRPの一般的な比重の1.6を比較した時、
この軽量化の取り分が果たして上記のFRPのデメリットを乗り越えられるのかどうか、
というのはいうほど単純な議論ではなくなってくるはずです。
得てしてこのような本質的な議論は避けられ、わかりやすい「コスト」や「タクトタイム」に集約されていきます。
これではコンセプトの議論は十分に尽くされたとは言えません。
むしろ、FRPのコンセプトは
「軽量化に加えて提供できる価値は何なのか」
を考えることこそが重要なのではないでしょうか。
形を作る時点でこのコンセプトがきちんと述べられるかどうかは設計技術の足元がきちんとしているという意味で、非常に重要な分かれ道になるかもしれません。
敬遠されるFRP設計技術と形を作りたくなる心理
このコンセプトができた時点で初めて技術の議論になってきます。
ところが、この技術の議論でも問題が起こります。
それは、
「FRPの設計技術は分業が成立しない広範囲なものである」
という特殊性故、FRPの本当の意味での設計技術を持っている人材がきわめて少ないのです。
一般の金属材料では材料は材料だけ、製造は製造だけ、設計は設計として図面を書く、といった分業が成立しました。
ところが上記でも述べたようにFRPは
「材料、製造、設計に関する規格や標準がほとんど無い」
というのが状況なのです。
つまり、材料の専門家であっても設計や製造を理解し、設計であっても材料や製造を理解することが重要です。
自らの専門性の範囲の垣根を超え、自社でスタンダードを作っていくということが必要なのです。
ところが規模の大きな企業ほどこの手の「非分業体制」が成立しにくく、
狭い領域のエキスパートが「できる技術者」として評価されてしまいます。
つまり何かに特化することが評価されるという文化が企業内に醸成されていることになります。
そうすると材料の専門家は特殊な材料を見つけてきては評価をする、
製造の専門家は特殊な設備を見つけてきては試作を繰り返す、
設計の専門家はCAEのソフトを色々試す、
といった自分の専門の範囲の中でのみ動き回ることになります。
上記のような自分の専門に特化した取り組み状況では物事が前に進まないため、
「とりあえず形を作ろう」
という極端にシンプルな方向に組織全体の思考回路が向いてしまい、
その結果製品の成立性が見出せないということで振出しに戻るということが頻発しているのです。
市場調査や営業に加え、FRPの設計技術の重要性を再認識する
上記のシンプル思考の行く末として振出しに戻る、というのであればまだいいのです。
私の知っている事例の中には人命にかかわる問題を含有しているため販売が停止になる、といったケースさえあります。
どのケースにおいても当てはまるのは、
「設計技術の圧倒的未熟さや軽視」
といえます。
マーケットリサーチ、営業活動といった、
「商材が何でも成立する理解しやすい思考回路」
を先行させて商売だけを考え、技術を置いてきた結果がこのような苦境につながっているのではないか、と私は考えています。
ビジネスを進めるためにマーケットリサーチや営業活動の重要性に疑いの余地はありません。
ただここで再認識しなくてはいけないのはコンセプトを出発点とした設計技術を置き去りにすることで製品がむしろ大きな損失や、最悪の場合人命を奪うことさえあるということです。
形を作ろうというわかりやすい心理に行く前に、設計技術という製品の肝である部分に今一度立ち返る。
そんな冷静さが求められていると思います。
国内外問わず、今一度再認識するべきことなのかもしれません。