水素貯蔵向け 高圧タンク における金属とCFRPの共存
先日、株式会社日本製鋼所が水素ステーション用のTYPE ?I? 鋼製蓄圧器に、新日鐵住金(株)和歌山製鐵所製のシームレス鋼管を採用というプレスリリースが出ました。
一般紙でも朝日新聞などが取り上げています。
※日本製鋼所プレスリリース
http://www.jsw.co.jp/news/20170216_000618.html
※新日鉄住金プレスリリース
http://www.nssmc.com/news/20170216_100.html
※朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/DA3S12799971.html
今日はこの記事を参考にFRPの今後について考えてみたいと思います。
高圧タンクでよく言う Type とは
今回日本製鋼所が上市したのは Type I のものである、とリリースにも書かれています。
よくFRP業界の方々は Type IV です、といった話をされることをきいたことがあるかもしれません。
一言でいってしまえばこの Type というのはタンクの基本構造によって分類されるものです。
以下の図が最もわかりやすいと思います。
( The image is referred from http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2016report/h28data/1.1(5)-6.pdf )
完全に金属だけで構成されるのが Type I、CFRPが使われるその度合いによってType IIからIVまであり、
IVというのが基本的には金属をほとんど使わないタイプということになります。
Type I はもともと信頼性の観点からも高い評価と実績のあるものですが、
耐圧を上げるほど重量が大きいというデメリットがあったようです。
このデメリットを新日鉄住金の有するクロムモリブデン鋼であるシームレス鋼管を採用し、
設計の最適化による重量の半減とコスト3割減を実現したというのが今回のリリースの骨子のようです。
当然ながらシームレスなので構造的に弱いところが少なく、
上記のリリースに書かれているように材料そのものも粘り強い。
材料の特性をよく考えた上で、アプリケーションで達成したい機能性を実現するという設計がよくできていると感じます。
高圧タンク向けのCF
高圧タンクは比較的昔からCFRPを初めとしたFRPを適用しようと試みられてきたアプリケーションの一つです。
理由としては繊維方向に極めて強いこと、そして何より
「比剛性がずば抜けて高い」
ということがCFRPが古くから採用を試みられてきた理由の一つです。
高い圧力をかけた時に容器が変形してしまうようでは形状維持というそもそも論で成立していません。
剛性だけを考えればピッチ系の炭素繊維という話になるのかもしれませんが、
ご想像の通り高圧タンクはフィラメントワインディング( FW )のような「巻き付け」が必要となります。
がちがちにかたいピッチ系炭素繊維では巻くのも一苦労(剛性が高すぎて形状追従できない)でしょうし、
恐らく破断強度的にもPAN系の方が使いたくなるはずです。
以前こちらの記事でヘリカル巻、フープ巻などについてもご紹介しました。
ご参考までにご一読いただければと思います。
話を元に戻します。
「高剛性でかつ高強度の炭素繊維が欲しい」
そんな要望に応じるように近年、PAN系ながら剛性を高めたグレードが新商品として売り出されるケースも出てきています。
TOHO Tenax (TEIJIN)でいえば ITS50、Mitsubishi RayonでいえばTR50S、
HexcelでいえばAS7、SGLでいえばCT24-5.0、Torayでいえば34-700などです。
一般汎用グレードのCFよりも剛性が高く、当然ながら強度もかなり高めになっており、
引張弾性率で250GPa以上、引張強度で5000MPa以上です。
これらの商品群は今後の水素社会の到来に備え炭素繊維メーカーが設定してきたグレードの一つであると考えます。
実際にどのくらいの引き合いがあるのかはわかりませんが、
繊維メーカーが新たにグレードとしてこの領域を当ててくるという時点で、
市場のポテンシャルはあると読んでいる企業があると考えられます。
従来の高剛性タイプのCFよりも剛性を落としているのは、
フィラメントワインディングなどのプロセスに適用できるようにするためなのかもしれません。
恐らくですが複数種の炭素繊維を使い分けているものと考えます。
金属材料との共存
個人的にはCFRPやGFRPなどのFRPはすべてのアプリケーションに対して取って代われるものではないと考えています。
やはり金属は金属の良さがあり、FRPもFRPの良さがある。
このお互いの良さを最大限に活かしながら適材適所で置き換えていくという姿勢が重要であると考えます。
金属は様々なものに適用されてきてからの歴史が長いことに加え、
FRPと比較し異方性が圧倒的に小さいという扱いやすさがあることも事実。
金属と置き換えという短絡的な発想ではなく、
FRPとしての特性を理解した上で、それに応じた設計手法を用い、
適材適所でFRPという材料を活用するという真摯な姿勢が肝要です。
ただ金属と特にCFRPを併用する場合は電蝕や接着、接合にも注意が必要であることは再度ここで述べておきます。
以下の記事をご覧ください。
※鉄鋼新聞の関連記事
http://www.japanmetaldaily.com/metal/2017/steel_news_20170217_4.html
上述の鉄鋼新聞を見ると今回の Type I に加え、シームレス鋼管を応用し、
2018年を目途にCFRPを組み合わせたものも上市予定とのこと。
今後もCFRPは金属と適材適所の役割分担をしながら拡大していくことが期待されます。