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Solvayが提案する高機能ポリアミドの LFT

2017-04-03

FRP業界で話題性に事欠かない熱可塑性FRP。
その中において LFT はここ5年でよく話を聴くようになった材料の一つです。

今回のコラムではSolvayが発表したLFTのリリース記事を題材に、
該材料について考えてみたいと思います。

 

Solvayの発表したLFT

SolvayがOmnix® LF-4050 and Omnix® LF-4060というHPPA(high-performance polyamides)というLFTを2017年3月に発表しました。

リリースの記事は以下の所にあります。
http://www.solvay.us/en/media/press_releases/170313_Solvay-Launches-Omnix-LFT-Grades.html

尚、これを日本語で転載しているサイトも以下にありましたので合わせて紹介しておきます。
http://www.ctiweb.co.jp/jp/news/848-2017-03-14-solvay.html


タイミング的にJECを意識したリリースであることは明確ですね。

リリースの詳細については上記のサイトをご覧いただければと思いますが、
述べられたポイントは以下のようになります。


 - 強化繊維はガラス繊維

 - 材料の形態はLFT(Long-fiber-reinforced thermoplastic、または Long Fiber Thermoplastics)

 - 提供する製品の色は自然色、または黒色

 - 製品で前面に押し出している性能は、成形性、耐食性、軽量化

 - 従来製品と比較し耐衝撃性能、耐水性、耐クリープ性を大幅に向上


LFTとしては意識すべき代表的なポイントではありますが、この業界で攻勢をかける先駆者のSolvayのアピール方法などは世界の化学メーカーにとって参考になる部分もあるかもしれません。


では今回のリリースを受けてみるべきポイント、考えるべきことは何か述べてみたいと思います。

 

LFTとは

ざっとですがLFTとは何かについてみておきたいと思います。

一言でいうと、

熱可塑性樹脂を扱ってきた人から見ると長繊維の部類に入るペレット材料

のイメージになるようです。


FRPをずっとやってきた方のいう長繊維は、いわゆる連続繊維の場合が多いのですが、
通常1mm以下の繊維長のガラス繊維を混ぜ込んだペレットを扱っている方にとって、
場合によっては10mmを超えるような繊維が入っているものは「長繊維」と捉えるようです。

LFTに関するウィキペディアのページを以下に示しておきます。

https://en.wikipedia.org/wiki/Long-fiber-reinforced_thermoplastic


ここのページによると概ね6.35mm(0.25 in)の繊維長以上のものをLFTと呼ぶと書かれています。

そのためLFTとは何ですか、という質問については上記の私の答えになります。


注意すべきはLFTのLongは言うほど長くないこと、
材料の形態はペレットベースである、という点ではないかと思います。


その他、LFTの概要や作り方については以下の coperion のHPがわかりやすいかもしれません。

合わせてご覧ください。

https://www.coperion.com/en/industries/plastics/lft-long-fiber-reinforced-thermoplastics/

 

Omnix® LF-4050 と Omnix® LF-4060の物性値

カタログベースの材料特性値は以下のURLに記載されています。

Omnix® LF-4050
http://www.solvay.com/en/binaries/Omnix-LF-4050-BK-000-254551.pdf

Omnix® LF-4060
http://www.solvay.com/en/binaries/Omnix-LF-4060-BK-000-254550.pdf


Solvayのいう50%、60%というのが何の数値なのか(wt%? Fiber volume%?)は不明確ではありますが、いずれにしても強化繊維量の違いによるもののようです。

密度は1.7弱でガラスを用いているという点は比較的軽量。

収縮率も0.3%以下なので寸法安定性の観点からは優れた部類に入ると思います。


吸水率はPA系の材料ということを考えると1%を切っているのでかなり低めです。


引張強度も250MPa以上、
線膨張係数(CTE、本データシート内ではCLTE)も 20 X 10-6 (1/K)以下ですので、
温度変化の生じるところでも扱いやすいと考えられます。


一次構造部材には使えませんが、
二次構造部材、または力学特性を必要としない機能材料としては十分使えるものであるという印象です。

ただLFTを仮にFRP、または類似の材料として設計するにあたっては注意が必要です。

まずデータとして圧縮やせん断がない、という点です。


本コラムでは何度も言っていることですが、
曲げの強度や弾性率では設計はできません。
必要なのは引張に加え、せん断と圧縮です。

そして強度に加え何より大切なのは弾性率です。

LFTを完全な均質材として考えるのであれば別ですが、
それでも曲げを使う理由は私の中ではありません。

材料データは材料のスクリーニング、許容値の取得に加え、
FEMなどのCAEを用いたシミュレーションに使う場合、
という前提であることはご了承ください。

材料の品質保証という観点ではこの限りではありません。

 

また耐熱性をHDT( heat deflection temperature 、荷重たわみ温度)のみで見ているところもやや懸案です。

HDTはどのようなものなのかについては規格(JIS K 7191、ISO 75)をみていただくか、
以下の動画を見ていただくとイメージがわくかもしれません。


いわゆる一定の荷重をかけ、温度を上げていった時にある既定のひずみ量に達した時の温度のことをいい、
樹脂の耐熱性指標を得るには重要な評価といえます。

以下のINSTRONのページには材料測定の様子を示す動画もあり、
上記の動画と合わせてみるとイメージしやすいと思います。

http://www.directindustry.com/ja/prod/instron/product-18463-1663216.html


尚、Solvayのデータシートでは試験荷重の N で数値がかかれていますが、
これは応力である MPa の間違いの可能性がありますのでご注意ください。


さて、懸案というのはFRP設計の観点、特に構造部材としての機能を求める設計では、
耐熱性は物理特性としての把握だけでは不十分ということが挙げられます。

HDTにしてもガラス転移温度にしてもこれらは物理特性です。


FRP設計として必要なのは、


「さらされるであろう温度環境、湿度環境における圧縮強度と弾性率」


です。弾性率は物理特性ですが、圧縮強度は機械特性です。
どちらも必要という意図です。

引張やせん断ではなく圧縮というのもポイントです。

実運用上でも最も問題となる荷重モードで、材料が環境に対して敏感に反応するという観点から選択しています。

 

さらに懸案なのは、Solvayの材料データでは破壊強度しかでていないということ。

High performance といえどもベースは熱可塑性樹脂のPAですので、降伏点が存在する可能性があると考えています。

もちろん、繊維で強化されているために弾性破壊を示すのであれば問題ありません。


しかし、繊維長が短いために引張であってもマトリックス樹脂の影響が強く表れ、
降伏に近い挙動を示すのであればこれはかなりの注意が必要といえます。


材料を安全に使うためには基本的には弾性域のみで用いなくてはいけません。
塑性域を使うためには相当の高い設計スキルとシミュレーション技術が必須です。


今回のSolvayの材料のS-S線図が無いので何とも言えませんが、
材料データを取得する際に本点を注意しておかないと、
実際に製品となった後に大きな問題となるリスクを含有することとなります。

 


いかがでしたでしょうか。

取り急ぎ代表的な観点をご紹介しました。


細かいことを言えばまだありますが、少なくとも上記の懸案は理解した上で議論できることは必要条件です。

その一方でLFTのようなFRPのすそ野を広げる可能性のある材料が重要であることも事実。

だからこそ、材料メーカーはユーザーに必要な材料データの取得と蓄積、
ユーザーは設計観点を持ったうえでの材料物性に関する要望事項を基本とした議論が必要になります。


お互いの歩み寄りがあってこそ、材料の適用拡大と業界の発展につながることは間違いありません。


ご参考になれば幸いです。


 

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