CFRP材料適用拡大のための CFRP 量産製品設計 技術 のセミナーを踏まえて
先日開催させていただいたCFRP材料適用拡大のための CFRP 量産製品設計 技術 のセミナーは昼食挟んでの6時間という長丁場でした。
やはりCFRPを初めとしたFRPや複合材料全般の適用に関する関心は高いようで、
当日は30名の方にご参加いただきました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
本日のコラムでは、このセミナーを通じて私が感じたことを述べていきたいと思います。
川下企業からの参加者増加と参加企業業種の多様化
セミナー講師をやってもらいたいと依頼を受けた頃(2年ほど前まで)は、セミナーを企画していただく企業のネットワークが強い川上(化学メーカーや材料、素材メーカー)が多かったのですが、ここ1年くらいで聴講者の方の傾向は様変わりしたと感じています。
アッセンブリーメーカー(例:自動車メーカー、いわゆるOEM)、
電気電子機器メーカー、そして部品メーカー(自動車、航空機のTier1、Tier2等)。
またこれらの企業に設備を納める設備メーカー、
CAEを専門とする解析受託メーカー、検査機器メーカー、外資系メーカー、商社など、
初期の頃には考えられなかったような川中、特に川下企業の方々の参加がかなり増えました。
FRP適用には最上位概念である設計が最重要である、
という考え方が川下企業の方々まで含めて徐々に浸透しつつあるのかもしれません。
川下企業の方々が設計という概念に対して改めて考えてみよう、
という意思表示をいただいていることは業界としてもかなり大きな一歩といえます。
やはり最終製品を設計し、販売する権限は川下企業にあるからです。
合わせて自動車や航空機に限らず、電気電子機器メーカーなど他業種の参加が増えてきているというのも興味深いです。
これらの企業に共通して言えるのは、FRPにこだわっているというよりも、
ある製品コンセプトを実現すること目指した結果、たまたま適用材料としてFRPに行きついたということです。
コンセプト出発で結果論的にFRPに行きついている企業は設計思想がきちんとしているため、
製品実現性の可能性は飛躍的に高まっている印象です。
いずれにしても業界全体がFRPという材料を本格的に適用しよう、
という動きの流れが出てきているのと、他領域の技術を理解しないと話が前に進まない、
という現実を受け止めそれを克服しようという動きを感じています。
新規参入時の考え方について
FRP業界への参入、またはCFRP適用をこれから考えようとする企業様の質問も多かったです。
今回のセミナーに限らず、様々な場面で企業の方とお話ししたことを踏まえ、
ほぼすべてのケースに共通して言えるのが以下の点です。
– いきなり量を目指さない
– 軽量化主軸での金属との代替狙いではFRP適用確率は激減する
– 初期投資は必須
ということです。
それぞれについて背景を述べてみたいと思います。
いきなり量を目指さない
ある程度の量を作って生計を立てている企業に共通するのが、
「製造業は量を稼いで売り上げと利益を確保する」
という考え方です。
もちろん、ある程度の量が無いと意味がないのは事実です。
ただCFRP適用(FRP全般かもしれません)に言えるのが、
「市場からの絶対的な信頼を得ていない新参者の材料である」
という事実です。
材料の歴史上はそれなりに古いですが、市場での実績を十分に積み重ねるには至っていません。
それゆえ航空業界でもCFRPは一部例外を除き、成形体と材料の一体で型式認定を取らないと空を飛ばすことさえ許されません。
コンセプトとして大量生産を目指すことは良いと思います。
表向きそうしないと話が進まないケースもあるので、それは良いと思うのです。
実際にクライアント企業の中にはこの方向で指導する場合もあります。
しかし忘れていただきたくないのは「実績がない材料」を取り扱うということは、
市場に出した後に問題が生じる可能性も高いという紛れもない事実です。
大量生産を目指しながらも、市場に出た後に問題が出ないよう、
抜けもれない設計思想のもと評価を着実に行う。
つまり、金属材料でも過去に経験した、
「基本から着実に積み重ねる」
という姿勢が必要なのです。
今、現行の製品で成立しているビジネスモデルをそのまま適用しようとするから様々なひずみや問題が生じるのです。
今一度新規の材料を活用した製品を世に出すにはどのような基本に立ち返るべきか。
一歩引いて冷静に製造業本来のあるべき姿を再考することが、
いきなり量を目指すことに偏ることを回避する一助になるかもしれません。
軽量化主軸での金属との代替狙いではFRP適用確率は激減する
結論から先に言うと軽量化だけ、またはほとんど軽量化だけを前提に金属との代替を考えている場合、
それはほぼ99%金属材料に軍配が上がります。
私がその評価する立場にあったとしても金属側を推奨すると思います。
本コラムでも何度か述べていますが、軽量化はFRP最大の強みである一方、
+αの採用動機をどのように見出すかが極めて重要です。
軽量化によって圧倒的な商品価値の高まりに直結するのであれば別ですが、
そのような製品には限りがあります。
一般論としてはやはり+αをどう考えるかが重要です。
この+αを考えることは3大設計スキルの一つである設計コンセプトの構築に該当するものです。
セミナーの中でも多くの方に共感をいただいた部分でもあります。
実際に製品を作り始めている企業の方ほど強い同意の意思を示していただきました。
コンセプトがぐらつくと、実際に量産を開始してから問題が多く生じることになります。
それを目の当たりにしているのです。
特に川下企業の方に求められるスキルですが、
いかにして軽量化だけでなく+αの付加価値をFRP材料に見出し、
機能材料として定義できるのか。
ここがポイントになると思います。
初期投資は必須
こちらも誤解をされている方が多いようです。
CFRPなどのFRP材料を採用した製品でいきなり利益をたたき出すというのは現段階では夢物語です。
ビジネスだけを考えればそういうこともできるのかもしれませんが、
そのような短絡的な机上の空論で話を進めると必ず不具合品の連発、仮に世に出たとしても問題続出、
ということでむしろ問題が大きくなり企業ブランドへの大きなダメージにつながりかねません。
FRP(特にCFRP)に求められるのは上述した通り
市場に出た後も問題を起こさせず、お客様を初めとした市場からの信頼を獲得する
ということ。
製造業に適用されるビジネスロジックを適用する段階にはないのです。
ここでは間違いなく技術的な観点が最重要です。
まさに基本に立ち返るということですね。
そのため材料規格、工程規格の設計と構築、材料データの取得、単体試験やCAE実施、
といった金属では既に公知になっているもの含めゼロから積み上げ直さなくてはいけないため、
開発期間は長くなりがちです。
もちろん、FRPの設計について経験豊富な方がいれば簡略化できることなどを判断できるので開発期間の短縮も可能です。
私の川下のクライアント企業の方の多くの依頼動機が「抜けもれない設計評価と開発期間の短縮」にあるのがそれを物語っています。
FRP製品の設計から成形体出荷という、ゆりかごから墓場までの「最前線での実経験」が無いと上記のことを検討、判断するのは不可能です。
部下に指示しているのではだめです。自分でやった経験があるか否かが大切です。評論家では様々に起こる複雑な事象から問題点を抽出するといった最重要のアクションをすることができません。
なかなかそのような方は居ない、またはそのような方を育成するためには一度開発をやる切るしかないというのが現状のようです。
いずれにしても上述のとおり開発期間の長期化は避けられないため、初期投資が必要となります。
この場合の初期投資はハード(設備など)ではなく、ソフト(人、評価、時間など)であることは強調しておきます。
逆にこのようなソフトに対する投資をせずに世に出したものは必ず問題が出ます。
評価が抜け漏れだらけだからです。
そもそも世に出る前の段階で、不具合品が連発するといった工程問題が噴出し、工場稼働さえできないと思います。
急がば回れでソフトに対する初期投資をきちんとできるか。
ここが大きな分かれ道になると思います。
私の経験上、この初期投資ができる企業には2パターンあります。
1つが若手、中堅社員が予算を含めた裁量権を持っている場合、
もう一つは会社としてその事業をやることを決めている場合です。
これがすべてではないのかもしれませんが、多くの場合該当しているのではないかと考えます。
いかがでしたでしょうか。
もしかすると上記の話はコラムをご覧の方にとっても参考になる内容があったかもしれません。
国内外の情報や動向をキャッチすることも大切です。
しかしそれよりも大切なのは
足元を固めるために必要なものは何なのか
ということを考えることだと思います。
基本に立ち返るためのきっかけになっていただければ幸いです。