材料試験機 を用いたFRP製品設計の評価のポイント
今日のコラムでは 材料試験機 を用いたFRP製品設計の評価のポイントということについてお話をしてみたいと思います。
実際にFRP製品設計をしている方々はもちろん、
製品設計をしている方々と話をする機会のある方にとって参考になるかもしれません。
尚、以下の試験は圧縮や曲げといった”圧縮系の試験”を意味していることをあらかじめご了承ください。
FRP製品設計における単体試験の誤解
国内外の様々な方々とお話をしていると、
材料試験機を使った単体試験、または単体の一部を用いた試験で、
実体を押したり曲げたりということを行っていることが多いことに驚きます。
結論から先に言うと材料試験機を使って単体試験を行っている評価の8割以上は間違えです。
何を持って間違えといっているかというと、
「得られるデータに設計的な意味がない、または有意義ではない」
ということを意図しています。
絶対にやってはいけないといっているわけではありません。
単体試験で評価すべき項目はFRP製品設計の中では当然あります。
ただ、試験機を使うということがそもそも間違っているのです。
今日はこの辺りを考えてみたいと思います。
材料試験機のコンセプトは何か
まずは材料試験機の意義から考えてみたいと思います。
試験機の外観は以下のようなイメージです。
( The image is referred from http://www.instron.us/en-us/products/testing-systems )
試験機メーカーとしては
Instron: http://www.instron.jp/ja-jp
Shimadzu: http://www.an.shimadzu.co.jp/test/index.htm
MTS: http://www.mts.com/jp/index.htm
Zwick: http://www.zwick.jp/jp.html
などがあります。
国内のFRP業界での有名どころではInstronとShimadzuですね。
試験機そのものの性能などの優位性はあまりないと感じていますが、
Instronは治具の設計、Shimadzuは制御ソフトの使い勝手、
Zwickはオートメーション試験システムなど、
それぞれの企業に強みがあります。
このような各企業によって生み出される材料試験機。
材料試験機というものはそもそも何のために作られたのでしょうか。
実は改めてきかれると答えにくい部分があるのかもしれませんが、
材料試験機の役割は、
ある特定の1軸方向に対して荷重をかけ、
その時の機械特性、物理特性を取得する
ということにあります。
この「ある特定の1軸方向」というのがポイントです。
試験機は複数の軸に荷重をかけて評価するものではなく、
狙った方向にのみ力をかけるということを最優先に設計されています。
そのため、上記のInstronの試験機の写真でもわかるように、
試験機のフレーム剛性と高め、ベースとなる台は必ず定盤になっています。
材料試験機を用いた形状部品評価の危険性
本コラムの最初に材料試験機を用いた単体試験の話をしました。
そして材料試験機はある特定の位置軸方向に対して荷重をかけて機械特性や物理特性を評価すると述べました。
ここで単体試験を材料試験機で行ったとします。
単体試験ということはFRP成形体なので何らかの形状を持っていることになります。
この形状を持っているものを材料試験機で押すとどうなるでしょうか。
形状を持っているということは例えば押そうとしたとき、
その形状要素によってまっすぐ押せない状態になります。
それでも無理に押そうとすると、
偏荷重
がかかります。
この偏荷重。
取得データの意義を失わせるだけでなく、様々な危険が潜んでいます。
偏荷重は本来1軸方向に押そうとしたものの、形状由来によってまっすぐ押せない状態になり、それでも押すとします。
軸芯がずれた状態で押すので回転方向の荷重、いわゆるモーメントがかかることになります。
これが偏荷重です。
この荷重が大きくなると試験機のシャフトが曲がる、
試験機フレームがゆがむという恐れもありますが、
それ以前にロードセルに多大なる損傷を与える恐れがあります。
ロードセルも結局のところ1軸方向の荷重を計測するために設計されている精密機器ですので、
偏荷重をかければ簡単に故障します。
そして最悪の場合、押されている供試体が飛ぶ恐れがあります。
偏荷重ですので荷重方向と異なる方向にものを飛ばす力が生じるからです。
そして試験機の前に保護具なしで試験機オペレータがいた場合は怪我をしてしまうかもしれません。
これこそ最悪の事態です。
試験機やロードセルの損傷、そして何より作業者への危険。
このように危険だらけの評価になることを、
やっている本人は気がつかないということが、
私が様々な企業における指導を通じてわかった現実なのです。
材料試験機を用いた単体試験で得られるもの
結論から言うと何も有意義なデータは得られません。
偏荷重がかかっているということは、荷重の一部を供試体以外の試験機や治具などが背負っているためです。
つまり本当の破壊荷重はわからないのです。
さらに、荷重方向も特定軸ではないので何の荷重モードか全くわかりません。
仮にCAEを使って応力評価をMises応力で行うにしても、これは各空間軸の応力が明らかになっているからこそできる評価。
荷重の方向がわからないデータはCAEにも使えないのです。
最近はソフトも複雑なものも出ているため、
もしかするとデータに落とし込めるのかもしれませんが、
そのような複雑なことをしている時点で設計としては既に危ない橋を渡っていると考えるべきです。
材料試験機を用いた試験で重要なこと
ポイントは以下の3点です。
1. 試験規格に基づいた試験を行う
2. 試験片の検査を徹底的に行う
3. 試験機の校正を定期的に行う
それぞれ説明します。
1. 試験規格に基づいた試験を行う
やはり試験規格はよく考えられています。
その道の専門家が議論を重ねて作られただけあります。
試験規格、特に力学特性を得るための試験規格は荷重の方向にとても気を遣って作られていることがわかると思います。
そして得られたデータの評価方法もきちんと述べられています。
これらの考えを踏まえても、まずは規格に基づいた試験を行うというのが原則です。
ただどうしても材料試験機を用いた単体試験、もしくはカスタマイズした試験を行いたいという場合があると思います。
これらの試験設計には非常に高いスキルが必要ですが、
大原則としては偏荷重をかけないように試験する、
ということに最大限注意を払えば有意義なデータが得られるかもしれません。
単体試験の場合は、評価対象形状にあった試験治具を設計、作製し、
特定の軸方向にのみ荷重がかかるよう徹底することが必要です。
またカスタマイズした試験の場合、
形状がある場合は上述の通り試験治具を作製すること、
そして試験手順について細かく指示事項を明文化しておくことが重要です。
2. 試験片の検査を徹底的に行う
これも忘れられがちです。
試験片の検査は徹底してください。
特に重要なのが幾何公差。
平行度や垂直度など、基本的な幾何公差が入った試験片についてはその部分も含めて必ず検査を行うようにしてください。
幾何公差の満たせていない試験片は偏荷重がかかる、
つまり試験片に対して圧縮試験の際に座屈を起こす可能性が高くなります。
試験片検査を抜き取り検査にするというのは、
精度のいい試験データの取得に配慮できていないという意味で、
本来あるべき材料試験を放棄していることと同じになります。
ここは手を抜かずにきちんと試験片図面を作成し、
全試験片に対して検査を行うよう徹底してください。
3. 試験機の校正を定期的に行う
試験機のロードセルは1年に一度は校正を取るようにしたほうがいいと思います。
加えて、数年に一度は設備の点検を行い、
ロードセル、シャフト、駆動部について問題があるようであれば早めに修理をするようにしてください。
せっかく時間と手間をかけて得るデータですから、
ハード面にも気を遣うことが求められます。
材料試験を委託する場合は、委託先から校正証明書のコピーをもらっておくと良いかもしれません。
合わせて気になるようであれば試験前にコンプライアンス補正を実施することも検討してください。
いかがでしたでしょうか。
今日は単体試験を題材に材料試験について考えてみました。
FRPに限らずですが製品設計の基本は「技術の基本に忠実なこと」に尽きると思います。近年、情報技術や制御技術の進化がもてはやされていると感じていますが、基本的な部分は今も昔も変わらないのです。
FRPでいえば異方性を有する材料である以上、荷重方向に最大の注意を払いながら物性取得をしなくてはいけない、というのがこの基本的な部分の一つといえます。
この変わらない部分こそが重要なのですが、私が想像した以上にその部分が忘れられてしまっていると感じています。
何かに迷ったら基本に立ち返るということを徹底いただければ幸いです。