ブレイドファブリック を販売する A&P Technology
FRPの繊維の強化形態で注目される ブレイディング ( Braiding / 組紐 )を基本とする ブレイドファブリック 。
海外にはこの ブレイドファブリック を主力製品とする老舗企業があり、その一社が A&P Technology 社です。
今日はこの A&P Technology 社と ブレイドファブリック の概要をご紹介し、
このような強化基材の適用について考えてみたいと思います。
A&P Technology 社とは
19世紀初頭に ブレイディング を行う企業を源流とした老舗企業です。
一族経営の企業のようですが、Atkins & Pearce というアメリカで最大、
かつ最古のブレイディング企業の研究開発部門として発足して A&P Technology 社ができたようです。
つまり典型的な基材加工メーカーといえます。
基材加工メーカー最重要といえる技術の根幹はやはり設備。
A&Pの場合はMegabraiders™という最大級の設備を作っているようです。
ご存じな方もいるかもしれませんが、ブレーディングは実際に加工したい基材の内径に対し、
はるかに内径の大きな設備が必要となります。
イメージの一例は以下のような感じです。
( The image above is referred from http://www.braider.com/Resources/Papers-Articles/Low-Cost-Manufacturing.aspx )
Megabraiders™がどのような設備なのかは機密の関係などでやはりインターネットなどでは出てきませんでしたが、非常に大きな設備であると想像できます。
A&Pの歴史概要などは以下のURLをご覧いただければと思います。
http://www.braider.com/About/History.aspx
ブレイディングとは何か
ブレイディングについては以前、こちらの はじめてのFRP のコラムでご紹介したことがあります。
抜粋しますと以下の4点が重要であると述べました。
- 繊維の連続性
- 繊維配向角度の変更
- 優れたニアネットシェイプフォーミング性
- 自動化技術
逆にいうと上記特性の4点をきちんと理解した場合に限り、適用に成功しているという理解でいいと思います。
設計的な観点でいえばやはり「繊維の連続性」が最重要です。
FRPの基本は
「最終破壊に近くなればなるほど繊維が担う荷重割合は高くなる」
ということです。
つまり、強化繊維がFRPの強度保持という意味では最後の砦になるのです。
ブレイディング最大の強みは中空の場合、周方向に対して繊維の連続性が維持できている、ということです。
これは、周方向の荷重を担わせたいという場合、極めて重要であり、破壊起点を持たずに最後まで強化繊維が連続繊維として耐えることができるということを意味しています。
そして、「繊維配向角度の変更」も設計的にいえば重要です。
ブレーディングの強みは上記の4点のうちの一つである「優れたニアネットシェイプフォーミング性」です。
ニアネットシェイプができるということは、それだけ形状追従性が高いということ。
形状追従性が高いということは変形させたい形状に対してある程度の角度を持って繊維が存在しているということとイコールになります。
なぜならば、繊維が変形したい方向をそのまま向いている場合、繊維が突っ張ってしまい変形できないからです。
そのため、変形させたいと思えば思うほどブレーディングにおける繊維の長手方向は角度を持つことになり、
つまり物理機械特性が低下することになります。
形状追従性と成形体の物理、機械特性をどのようにバランスをとるのか。
やはりFRP設計者としての力量を問われることになります。
そして上述の通りある程度の形状追従性が高く、
しかも自動化して連続的に繊維基材の積層ができる、
というのが製品製造の観点からはメリットが多い場合があります。
関連した余談ですが、例えば日本でも村田機械が多給糸フィラメントワインダーという設備を販売しています。
この設備のコンセプトは自動化と形状追従性を上手く活用した例といえるかもしれません。
http://www.muratec.jp/corp/mono/filamentwinder.html
このようにブレーディングというのは繊維の連続性という最大の強みを有しつつ、
自動化を軸とした連続基材成形、ニアネットシェイプフォーミングに適用できる、
という点を把握しておくことが出発点といえます。
ただ、1点忘れてはいけないのは上記の話はあくまで樹脂が未含浸のドライ基材の話が主であるということです。
FRPとして何らかの形に賦形して使用するためには後工程として樹脂含浸が必要であることを忘れてはいけません。
この樹脂含浸は基材積層以上と同等以上に様々なノウハウが必要となります。
例えば剛性や強度を上げるためVfを上げようとすればするほど、
含浸させる単位繊維量に対する樹脂量が少なくなるため欠陥が出やすくなり、
積層工程の効率を上げようとするほど繊維目付が大きくなるので、
同じVfを達成するために樹脂を含浸させる繊維単位層の厚みが厚くなることから繊維のモノフィラメントへの含浸は大変になります。
つまり、内部欠陥が出やすくなるのです。
微小な内部欠陥はトランスバースクラックの起点、
そして最悪の場合は層間剥離に直結する場合もあるため要注意です。
特に高圧容器のような常に高い荷重がかかり続けるような使い方、
そして材料の物理、機械特性の限界値近くで設計している場合は注意が必要です。
A&P Technology のブレーディング製品
ここで製品表を少し見てみます。
まずはブレーディングの中でも比較的径の小さいスリービング( sleeving )についてみてみます。
一例として Braided Carbon Biaxial Sleevings を取り上げてみます。
以下のURLで概要を見ることができます。
http://www.braider.com/Products/Braided-Carbon-Biaxial-Sleevings.aspx
Biaxialなので最もわかりやすい+/-45°が例として挙げられています。
直径は6.4mmから711mm、目付は244g/m2から833g/m2で厚みは0.011mmから0.037mm。
かなりのレンジがあります。
当然ながら上記は一例であり、目付は選択する繊維によって変えられ、
角度も設備の設定により例えば60°にするといったことも可能ではないかと想像します。
唯一「径」については設備縛りなので711mmというのが上限なのではないでしょうか。
スリービングはCFだけでなく、GFやAF(アラミド繊維)もあり、さらにはハイブリット(異種組み合わせ)もあります。
基材加工メーカーらしく、多種多様に対応します、という姿勢が見られますね。
GF(ガラス繊維)
http://www.braider.com/Products/Braided-Fiberglass-Biaxial-Sleevings.aspx
AF(アラミド繊維)
http://www.braider.com/Products/Braided-Aramid-Biaxial-Sleevings.aspx
ハイブリット
http://www.braider.com/Products/Braided-Hybrid-Biaxial-Sleevings.aspx
次にブレーディングファブリックです。
Biaxial Carbon Fabric から見ていきます。
尚、Bimax®という名称のようですね。
http://www.braider.com/Products/Bimax-Bias-Braided-Fabric.aspx
幅は513mmから1321mm、目付は194g/m2から713g/m2。
そしてA&Pが特徴ある製品として出しているのが疑似等方のブレーディングファブリックのようです。
まずは以下の紹介動画を見るといいたいことはわかると思います。
織物と比較し積層が楽であること、廃棄材料の減少といったメリットが述べられています。
ブレーディングといってもファブリックにしているので既に繊維配向ができているのが特徴で、
どちらかというとNCFがライバルになると思います。
NCFについては以下で簡単に述べたことがあります。
QISO® Braided Triaxial Fabricと呼ばれるこの基材は0、+/- 60°の3軸構造で、
幅は513から1504mm、目付は272から1200g/m2の範囲を有しています。
角度も調整可能のようです。
http://www.braider.com/Products/QISO-Braided-Triaxial-Fabric.aspx
それ以外にもUD non-woven fabricも扱っています。
http://www.braider.com/Products/Zero-Unidirectional-Material.aspx
こちらは強化繊維を織らずにバインダーで固定するもので、橋脚補強などで世界中で用いられている材料といえます。
ブレーディングの活用例
A&Pが発表している適用例として、スリービングとしては以下のような橋のアーチの例を紹介しています。
http://www.braider.com/Case-Studies/Composite-Bridge-Arches.aspx
これはこれで興味深いアプローチです。
FRPのアーチを作るにあたってあくまでコンクリートであるという軸を変えず、
FRPはコンクリートを固定するための鉄筋の代替として使用するとのこと。
FRPは耐腐食性能が高いため橋の寿命も長くなり、
結果として金属を主体とした従来工法と比較し20%程度コストダウンに成功したとのことです。
またもう一つは航空機エンジンのファンケースです。
もうすでに古新聞となっているGEのエンジンに適用されています。
ブレーディング基材が得意とするものの一つである耐衝撃性を活用し、
コンテーメント部材である FAN Case に適用しています。
FAN case に最重要とされるコンテーメントテストのため、
ゼラチンや金属破片を打ち込む単体試験の様子も映し出されています。
FAN Blade OFF というFANローターの羽が飛び出してしまったときに客席に飛び込まないよう抑え込めるか、という本番試験に先立つ評価です。
この評価の結果、ブレーディング材料は織物と比較し優れたコンテーメント性を示しています。
これは線配向の自由度と積層精度が主因と考えられます。
衝撃を受けたときの変形荷重に対し、
構造部材がせん断として受け止めることにより材料の変形を実現し、
この変形によって運動エネルギーを吸収するというのが基本ロジックだと考えます。
それ以外では高圧容器のバースト試験でフィラメントワインディング(FW)と比較し、
破壊形態が局所破壊にとどまっている様子などが紹介されています。
http://www.braider.com/Case-Studies/Braid-Enhanced-Composite-Overwrapped-Pressure-Vessels.aspx
これ以外にもホッケーのスティックなど様々なものが紹介されていますが、
実際に使用する側としてどのようにしてアプリケーションにしていくのかを考えてみたいと思います。
ブレーディングの活用に向けた考え方
まず大切なのはブレーディングが有する特徴を理解することです。
ブレーディング特徴は繊維の連続性と述べました。
これを考慮すると、A&Pの製品中で可能であればスリービングを選択することが望ましいといえます。
もちろんブレーディングファブリックも良いと思うのですが、
設計的な観点から言うとブレーディングで繊維の連続性を無くしてしまうのはあまりにも惜しいことで、できるだけ基材の特性を活用するのであれば中空状態のものを使うべきと思います。
積層のイメージは以下の動画を見ていただくといいかもしれません。
そしてある程度断面積を有していれば中空部材を連続繊維で強化するという一つの思想が出来上がります。
ブレーディングは断面形状がある程度変化してもその変化に追従できるというのもメリットといえます。
いずれにしてもいかにしてブレーディングの繊維連続性を活用するのか、
というのが重要なポイントです。
そしてもう一つが繊維の含浸性。
ブレーディングそのものはいわゆる基材加工技術です。
この後に樹脂を含浸しなくてはFRPになりません。
樹脂の含浸は非常に困難な工程の一つで、
FRP製品製造においては最大の難関といえます。
樹脂の選択はもちろん、温度、圧力、含浸方法の選択という、
多くのパラメータをまんべんなく考慮しなくてはいけません。
そして外から見てできたできないという外観検査で物事を判断してはいけません。
必ず非破壊検査を行うようにしてください。
当然ながら非破壊検査も検知欠陥の限界がありますが、
限界を理解しながらも内部欠陥に対する注意を怠らない、
ということが極めて重要です。
理由は先述の通りトランスバースクラックや界面剥離起点を抑え込むということですが、
より具体的には製品図面に非破壊検査要求を述べ、
許容できる欠陥サイズと位置を明記することがすべての出発点といえます。
FRP全体的に内部欠陥は極めて重要ですが、
特に樹脂を後含浸する場合は注意が必要であることを再認識いただければと思います。
非破壊検査については以下のページをご参考までに一読いただければと思います。
いかがでしたでしょうか。
今日はブレーディングのメーカー、A&P Technologyとその適用事例をご紹介しました。
ブレーディングはBMWの製品にも使われて一時期話題になりましたが、
今は下火であるという印象です。
もちろんブレーディングがすべてとはいいませんが、
基材一つとってもそれぞれ特徴があるのです。
この特徴が目指す製品のコンセプトに合致しているのか否かを中心に俯瞰してみることができれば、
様々な新規製品を生み出すことは可能です。
一つの基材選択肢としてご参考になれば幸いです。