万能なFRP設計 はあるか、FRP設計の鉄則 とは
今日のはじめてのFRPのコラムでは 万能なFRP設計 はあるか、FRP設計の鉄則 とは、という題名について考えてみたいと思います。
万能なFRP設計はあるのか
結論からいうと程度問題はありますが万能なFRP設計は残念ながら難しいと考えています。
よくある話として似たようなアプリケーションの前例、
その道の専門家の話などを参考に、
これこそが正解だ、とひた走る方や主張される方をお見かけしますが、
必ずしも正しい道を歩まれているとは見えないことが多いです。
その最大の理由は、
「FRPの設計というのは細かいところを見るよりも大局的な部分を見ることが重要」
ということが挙げられます。
技術者、研究者に多い傾向として
「自らの専門性に近いところ、わかるところ」
というところに注力し、それ以外の部分をあまり見ていない状態で研究開発フローを走らせるケースが多いと感じています。
これは優秀な技術者、研究者に多い傾向ですが、
一種の職種に由来する性質なので無意識の領域であることが多く、
なかなか対策が難しいところなのかもしれません。
誤解を招かないように付け加えておきますと、
各種専門家の存在は不可避であり、
要所要所でその専門の方に関連する部分の助言を求めるというのは当然ながら重要です。
それこそが専門家の存在意義といえます。
しかしながらその一方で多くの専門家の助言が自らの専門域に近い話に限っており、
全体的な話を把握した上で話せるわけでは無いということも認識することが重要といえます。
- 実際の製品がどのような環境で使われるのか、
- そしてどのように設計を考えていくのか。
FRP製品の設計者に求められるのは上記を俯瞰的にかつ客観的に見ながら、
各専門家の意見を適宜取り入れ、そして進むべき道を指し示す采配ともいえるかもしれません。
正確な設計の方向性を決めるために必要な責任ある実務経験
設計者に助言を与える専門家側にも必要な要件があります。
そして正確な助言を行うために必須な要件とは
自らの責任で遂行した実務経験
です。
ここでいう実務経験とは何でしょうか。
– 誰かのサポートをするという間接部門的な関わり方ではなく自分自身に責任と権限が集中しているという状況であること(逃げ道がないこと)
– たとえそれが成功したとしても失敗したとしても仕事を完遂し、自分がやったと胸を張れるものを世に送り出す、または送り出せなかったという結果までやりきること(最終的な結論を自らの目で見届けていること)
上記2点が重要なポイントといえます。
どれだけ本を読んでも、講演やセミナーを受けても、それらは一助になるだけでやはり実務経験に勝るものはありません。
そして何より上記のような講演やセミナーを有意義に吸収できるか否かも実務経験に依存するといえます。
経験を血肉にしてくれる実務経験はそのくらいの価値があるものであり、
この経験こそが本当の設計スキルということになります。
実務経験を補うにはどうしたらいいか
設計者自身が実務経験を有しているのであれば問題はありません。
しかしながらFRPのように発展途上にある業界にあっては必ずしも実務経験者が揃っている状況にはなく、暗中模索の中で研究開発を進めるしかありません。
このような状況では、やはり実務経験者の知見をかりることが第一です。
社内に居ればそれが最良ですが、外部の知見をかりるということも大切です。
そしてここでのポイントは、
実務経験を効率よく引き出すためにはブラックボックスをできる限り作らない
といえます。
実務経験に裏付けられた知見をどのように引き出すのか、
においてはその製品で何を狙い、どのような過去の履歴があるのか、
という情報が極めて重要です。
専門家の方々はそれらの情報を実務経験と照らし合わせ、どのような方向性が「最良なのか(完璧な答えではありません)」ということを述べることができるからです。
そういう意味ではお互いの信頼関係は極めて重要であり、
特に契約文化がやや根付いていない日本企業においては、
契約に加え専門家との個人的な信頼関係の構築ということが重要といえるかもしれません。
アプリケーションによって変化するFRP設計要件
FRP設計を行う方、またそのような方に助言をする専門家の両方に求められる基本的な考え方があります。
それは、
FRPを用いてどのような製品を設計するのかによって設計要件そのものが変わる
ということです。
- 使われる環境はどのようなところなのか
- 使用中にかかる荷重や振動モードによる荷重はどのくらいか
- 寿命設定をどのくらいで行うべきか
- メンテナンスはできるのかできないのか
- 適用する材料は何なのか、そして設計データを取得するためにどのような材料試験を行うべきか
- CAEとしてどのようなモデルを構築すべきか、それによって何を評価したいか
- 求められる寸法公差や幾何公差はどのくらいか
- 製品を作るにはどのような製法を適用するのか、またどのように工程を管理すべきか
- 製品が発現すべき最重要の機能性は何か
- 購入した顧客に損害を加える恐れがあるのはどのような場合か
- どのような内部欠陥を警戒すべきか、そしてその対応としてどのような非破壊検査を適用するか
上記は設計要件を検討するにあたっての必須検討事項の一部を述べているにすぎません。
もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
上記の各検討項目内容は狙うアプリケーションによって千差万別。
さらには上記以外にも検討事項がある可能性もあり、要件の値や組み合わせは無限大といっても過言ではありません。
これが本日のコラムの冒頭で述べた「万能なFRP設計は難しい」ということにつながります。
しかしながら FRP設計の鉄則 はあります。
それは、
「製品を使う顧客の安全性」
です。
顧客というのは人はもちろん、例えばロケットのような輸送機では衛星かもしれません。
いずれにしても、安全性を第一に考えるというのはFRPに限らず設計の鉄則といえます。
そしてここでいう安全性というのは中長期のものも含めてであることを合わせてご理解ください。
性能の発現性といったよく設計の最上位と考えられる話はあくまで安全性の次の話になります。
ここだけぶらさなければFRPの設計という考え方から大きくずれないと思います。
いかがでしょうか。
日々様々な仕事に忙殺されていると忘れてしまいがちな観点を述べてみました。
ご自身の実務の振り返りの参考になれば幸いです。