世界初の電動 Multicopter が飛行試験を実施
ドイツの Volocopter というベンチャー企業がエアタクシー向けに Multicopter を開発し、
ドバイで飛行試験を開始したとのことです。
この時の様子は以下の所で見ることができます。
今年の終わりには市場展開を始めるとのことで近未来の光景がまた一つ増えるかもしれません。
機体にCFRPも使われているこの Volocopter VC200 というものについてみていきたいと思います。
Volocopter という企業
Volocopter GmbHというドイツの企業です。
HPは以下の所にあります。
https://www.volocopter.com/en/
2011年に有人で初めて電動ヘリによる飛行を成功。
2016年には2人乗りの電動ヘリ Volocopter VC200 について German aviation authority から仮の飛行認定を取得。
2017年にドバイにてエアタクシー販売に向けた飛行試験を実施。
ということで極めて若い企業です。
もちろんベンチャー企業がこのような短期間でここまで来ることは技術的というよりも資金的に極めて困難なはず。
これを後押ししたのが Daimler と Lukasz Gadowski という投資家です。
Lukasz Gadowski 氏は Volocopter の事業展開に必要な企業の設立をサポート。
Daimlerは 2500万ユーロという巨額の資金を供給したとのこと。
2017年10月の為替(1ユーロ = 132円)で計算すると33億円にもなります。
やはりやることのスケールが違いますね。
DaimlerはFRP業界でも最近巨額の資金を投入していることから、攻めに転じているイメージです。
ドバイというのは資金も柔軟性もある都市なので、FRP業界では重要なフィールドであるというのは世界共通認識です。加えてビジョン2030を掲げ、原油だよりだった経済成長を多様化するという取り組みを急いでいるというのも今回のような新規産業を誘致しようとする動きの背景にあると想定されます。
(参照URL:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO21788330S7A001C1FF1000/)
以下の動画を見てもわかるように、今回のような無人エアタクシーはもちろん、
自動運転も早くから取り入れ、整然とした都市システムの構築を急いでいることなどが紹介されています。
ベンチャー企業に限らず、FRP業界の企業も法規が整備途中の国、
または柔軟性が高い国をフィールドにビジネス展開する、
というのは参入戦略の一つとしては重要といえます。
Volocopter VC200 の技術的特徴
( The image above is referred from http://wma.spearswms.com/2016/03/06/e-volo-vc200-an-eco-friendly-18-rotor-electric-volocopter/ )
やはり最大の特徴は18にも及ぶプロペラの数です。
これにより騒音が大幅に改善され、
当然ながら VTOL ( vertical take-off and landing aircraft )垂直離着陸が可能な機体となっています。
さらにはエンジンを使わずすべてモータで駆動。
このため、一般的なヘリコプターよりも騒音が数分の1と書かれています。
( より具体的な数値として最小サイズの一般的なヘリコプターの出す音を500メートル離れた所で聞く音は Volocopter だと 75m 離れた所で聞く音とと同じレベルとのこと)
その他の製品の仕様概要として以下の点が述べられていました。
– 最高速度:100km/h
– 航続可能時間:30分
– 搭載バッテリー数:9
– 高さ:2.15m、直径7.35m
– 脱出用パラシュート完備
その他、詳細はかかれていませんが、モータと駆動制御システムにかなりの高いノウハウがつぎ込まれているようです。
実際、VolocopterのHPを見てみると以下の技術職の方を募集しているようで、
この手の製品では電気、制御系が肝となることがよくわかります。
日本在住の方であってもご自身のキャリアに合致するようであれば、
下記のような領域に挑戦するというのは今後のキャリアアップとして有意義になるものと想像します。
- ELECTRICAL MOTOR ENGINEER (M/F)
- SENIOR POWER ELECTRONICS ENGINEER (M/F)
- SYSTEMS ENGINEER – AIRCRAFT LEVEL (M/F)
- ENGINEER AUTONOMOUS FLIGHT SYSTEMS (M/F)
- SYSTEMS ENGINEER ONBOARD ELECTRONICS (M/F)
- EMBEDDED REAL-TIME SOFTWARE ENGINEER (M/F)
- DRONE PILOT / VOLOCOPTER PILOT (M/F)
- SENIOR AVIONICS SOFTWARE ENGINEER (M/F)
- CONTROL SYSTEMS ENGINEER
- SENIOR BATTERY SYSTEMS ENGINEER (M/F)
- EMBEDDED SOFTWARE ENGINEER (M/F)
- HEAD OF AIR WORTHINESS (M/F)
- TEAMLEAD ELECTRIC DRIVE TRAIN (M/F)
(参照URL:https://www.volocopter.com/en/career/)
離着陸の場所の制限が少ないVTOLでかつすべてモータ駆動であるため静音。
これがドバイを皮切りに都市部のエアタクシーで活用しようというコンセプトにつながっているものと考えます。
Volocopter へのFRP適用
今回の機体ではCFRPが使われている、と明記されていますがより具体的にどこに使われているのかまではかかれていません。
しかしながら空を飛ぶものにとって軽量化は至上命題。
それを裏付けるように Volocopter のコンセプト機にはむき出しになったCFRPがはっきりと見えます。
( The image above is referred from http://www.asctec.de/en/back-to-the-future-9-volocopter-vc200/ )
恐らく構造部材へのCFRP適用は上記で見られるようなフレームであると考えます。
確証はありませんがコックピットのスキンにFRPを使うような剛直さを求めるとは考えにくく(気圧が変化するような高い所を飛ぶわけでは無い)、FRPはあくまで骨組みに使っていると考えます。
ここで考えるべきことは、なぜ Volocopter でCFRPを使ったのかということです。
もちろん先述の通り材料の比重が小さいというのが最大の理由です。
そしてそれに加えて、プロペラで400キロ以上のものを持ちあげるときに、
プロペラを支えるフレームが変形してしまうと上昇をさせるための推力が失われる恐れがあり、
最悪の場合操縦不能になる可能性があります。
そのため、フレームに剛性を高める繊維配向でCFRPを用い、
ぎりぎりまでフレームの太さを最小化し、それを補うための断面形状を設計したものと考えます。
軽量化できれば同じモータ、バッテリーの組み合わせであれば後続可能時間の延長、
または後続可能時間の場合、乗員の数を増やすといった設計も可能となります。
そういう意味では空飛ぶ乗り物系はFRPを活用する意義が見出しやすいというのが最大の特徴であり、
それゆえ今でもFRPは航空業界で重宝されているということを裏付けているといえます。
恐らく上記のような空飛ぶ乗り物に参入すべく準備している企業は世界中に居ると思います。
規模の大小はあれ、電気系統で動かすものは内燃機関系よりも構成をシンプルにできるため、
ベンチャー企業も多く出てくる可能性も高い領域です。
その一方で空飛ぶ乗り物について日本、欧州、北米といった先進国は比較的法規が厳しい。
Volocopterのように法規整備途中でかつ資金のある領域で参入するというのは今後事業展開の定石となっていくかもしれません。
ご参考になれば幸いです。