FRP戦略コラム 強化繊維の機能化への取り組み
今日はFRP 戦略コラムとして、「 強化繊維の機能化への取り組み 」という題名で、
ニチアスのガラス繊維スポンジを例にFRP業界の取り組むべきことについて考えてみたいと思います。
ニチアスがスポンジ状のガラス繊維を開発
「ニチアス、ガラス繊維スポンジ状に 耐熱性高い新素材」という題目で、
以下の日刊工業の記事が出ていました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00447397?isReadConfirmed=true
ガラス繊維から作るこのスポンジ状の素材は、
ガラス繊維の有する耐薬品性や耐熱性はそのままに、
スポンジ状にしたことにより吸音性や復元性という機能性を付与できたようです。
界面活性剤入りの水にガラス繊維を分散させ、
この水に空気を送って気泡を作ると気泡の周囲に繊維が添うように付着する、
というメカニズムで空隙を作りスポンジ状にしたとのこと。
吸音材としての特性は人が敏感に反応する周波数帯1000から5000Hz、
(出所によっては2000から4000、2000から5000Hzという情報もあります)
に使用される吸音材について、従来材と比較し厚みが30%、重さは90%それぞれ減少させられるとのこと。
人は川のせせらぎや赤ちゃんの笑い声のような2000Hz以下の音は心地よく聞こえる一方で、
同じ赤ちゃんでも泣き声の周波数である3000から5000Hzは不快に感じる、
というのは有名な話です。
赤ちゃんの泣き声が心地よく聞こえたら赤ちゃんの要求対応が鈍くなる意味でも子育てはできないので、
当たり前といえば当たり前ですが、自然というのはとても興味深いです。
FRPの強化繊維である基材の機能化のコンセプトは
日本はもともと繊維産業をベースに第二次産業立ち上げを経験してきた国です。
時代の流れもあり多くの繊維産業での企業が撤退した中で、
今でもFRPも含め、新しい材料に対する取り組みを続けている企業もあります。
FRP業界ではやはり一般的には樹脂をマトリックスとした複合材であるFRPが主役ですが、
材料の取り扱い性、設計性、事業性といった観点からも、
材料単体の機能性を目指すというのは非常に有効な考え方です。
FRPのような複合材料の鉄則は
– 物理的に分類可能な2種類以上の材料を合わせ、それぞれの材料よりも高い特性、またはそれぞれの材料が持っていない特性を発現させる
ということです。
うまく材料設計をする、または材料を取り扱えれば素晴らしい材料ですが、
異方性があるなど従来材と異なる故、パラメータが少し増えただけで一気に複雑化してしまうのも事実です。
その一方で、FRPの「強化繊維という基材」の材料構成は基本的には一種類。
上記で紹介したスポンジ状ガラス繊維もガラス繊維一種類です。
使用する材料は一種類である、
というだけで様々なことをシンプルにできます。
これがとても重要なことです。
このような材料構成を一種類に絞る一方で、
その材料の基材形態を変化させるという
「基材加工技術による材料の機能化(ここでいう機能性は、吸音性 / 復元性)」
が今回リリースされた材料のコンセプトであり、FRP業界にとっても参考になるアプローチといえます。
シンプルなことを基本に機能性を発現させる。
今一度この基本を振り返ることが重要といえます。
FRP業界の取り組むべきアプローチ
業界全体を見ているとどうしても気になるのが必要性に疑問を感じる複雑化。
材料が複雑なのに、後工程であるそれを成形加工する設備は自動化という名のもと複雑化の一途をたどったように見えます。
それだけでなく、適用される製品や部品の形状も複雑化。
それほどドレープ性が高くない基材ベースのFRPであったとしても易加工材と同じことを求めてしまうのは、そもそもの出発点と目指すべき方向性が間違っているのではないか、と疑問を覚えることがしばしばあります。
FRPは強化繊維とマトリックス樹脂が混合された複合材料です。
もちろん、FRPは複合材料としてのコンセプトはきちんとしていますが、
既に出発点で複雑化していることは理解しなくてはいけません。
それ故、後工程はできる限りシンプルにすることが強く求められます。
今回ご紹介した基材加工の事例も参考に、
「FRPでは後工程をできる限りシンプルにする」
ということをぶらさずに前に進むということを心がけると、
生じるであろう多くの問題を回避できる可能性が高まるのと、
問題が生じた時の原因究明や挽回がやりやすくなるに違いありません。
今一度、日々行っていることが複雑になりすぎていないかを見直していただければ幸いです。