ポリカーボネートとナイロン繊維FRPをスーツケースに適用
スーツケース に サイ適 という触れ込みで、 ポリカーボネート ( PC )とナイロン系繊維によるFRPをスキンとした製品が発表されました。
発表したのは 株式会社ティーアンドエス / T&S Co., Ltd. という企業です。
この企業のHPは以下の所で見ることができます。
http://www.tands-luggage.jp/index.shtml
ティーアンドエスが製造販売するスーツケースは、
ハードケースに限らずソフトケースもあるようですが、
今日ご紹介するのはハードケースの最新製品です。
PA Fiber / PC をスキンとしたハードケース
2017年5月に発表し、2017年11月から販売を開始しているのが、
BLADEというシリーズで型番が5603というもののようです。
以下のページで製品の概要を見ることができます。
http://product.tands-luggage.jp/hard_case/5603/index.shtml
以下の動画で概要を見ることもできます。
外側にフックがついていてちょっとしたものをひっかけることができるほか、
日乃本錠前社製キャスターを用いているため滑らかに動かせることはもちろん、
マチにより容量の拡大ができる、またLCC機内持ち込みができるグレードもあるようです。
また拡大写真もありますが非常にきれいな外観です。
詳細は上記のURLをご覧いただければと思います。
PA Fiber / PCを用いたのは復元力が極めて高いという製品ニーズに応えられる材料であったためとのこと。
ここがいわゆる製品コンセプトの原点です。
この辺りは様々なスーツケースを設計、製造、販売してきた企業だからこそ見出した明確なコンセプトだと思います。
さらに加えて強化繊維を入れたことにより、従来製品よりも薄肉化したことで軽量化も実現。
従来のハードケースよりも3割程度は軽くなったようです。
ソフトケースでよくある摩擦などによる破れを防ぎ、しかしソフトケースと同等の重量を実現した、
というのが強みといえます。
尚、上記の材料は「PCファイバー (R)」として商標登録されたとのことです。
本製品が紹介されていた媒体の一つである日経新聞によると、
樹脂と繊維を組み合わせてFRP化することは2015年頃から検討を始め、
融着する際の温度、成形時の割れといった課題を素材の調整や設計により克服したとのことです。
ある程度人数の少ない企業ということもあり、
一人の方が幅広い業務を手掛けていたと推測され、
各個人の努力により今回のような素晴らしい製品が生まれたのだと推測します。
今回の製品リリースを通じて考えるべきことについて書いてみたと思います。
FRP業界で注目されつつある有機繊維強化プラスチックと基材設計
一般的に、FRP業界ではガラス繊維が最も実績があり、今後拡大が期待される炭素繊維について注目が集まる、というのが一つの流れといえます。
しかし、強化繊維はガラス繊維や炭素繊維のような無機繊維だけではなく、
今回のようなナイロン系繊維等の有機繊維も存在します。
従来、FRPは貯水タンクや遊具など、野ざらしにされるようなところや、
航空機のような過酷な環境で使われるものが前提であったため、
吸水性のあるような有機繊維は使いたくないという事前要件があることが多かったと思います。
航空機エンジンでいえばコンテーメント性が極めて高いアラミド繊維をファンケースという、
一番前で回っているファンブレードの羽が脱落した時に客席に飛び込まないように保護する部品がありますが、このアラミド繊維が水分を吸うために長期利用の間に材料の劣化だけでなく、氷結と融解を繰り返して製品そのものが破壊するという事例も発生したこともあります。
その一方、今回のように基本は室温保管、というものになると有機繊維ではダメだ、
という要件は必ずしも当てはまらなくなります。
加えてティーアンドエスのようにソフトケースの設計、製造、販売を行っている企業では、
有機繊維の織り方や基材加工といった経験もあり、
形状追従性の高い強化繊維の設計思想ができていたものと考えます。
そのため、変形が必要なところでも強化繊維の基材形状が変化が少ないドレープ性を保持しながら、
基材厚み設計の最適化による薄肉化を同時に実現したものと推測します。
以上の通り、製品要件を精査して有機繊維を強化繊維に選んだこと、
FRP設計の基礎である基材設計ができたという2点が、
今回の取り組みを成功させた大きな要因であったと考えます。
上記の製品はFRP業界にとっても素晴らしい成果とみるべきです。
FRPにとって外観性はあまり向かないケースが多いのですが、
上記のように基材加工設計技術があればそれが可能になるという好例です。
しかも外観だけでなく、主力である別の機能性(今回の場合は軽量化と復元性)を実現したというのも大きいです。
あまり業界の動向に縛られ過ぎず、自社が築いてきた技術を主軸からずらすことなく、
着実に前進するということの大切さを再確認いただければと思います。