Railways 2018 のテーマを踏まえた業界動向
Railways 2018 が2018年9月に Spain で開催されます。
Fourth International Conference on Railway Technology: Research, Development and Maintenance という題目で紹介されている今回の会合は、海外科学誌や専門書出版社大手の Elsevier が主体となっています。The Eighth International Symposium on Speed-up and Sustainable Technology for Railway and Maglev Systems (STECH2018) という会議も同時開催のようです。
概要は以下のURLから見ることができます。
http://www.railwaysconference.com/
電車というのはFRPも適用できるアプリケーションの一つとして知られており、日本はもちろん、海外でも適用が進められています。
今日は電車に関する学術会合のテーマを見ながらFRPの適用方向戦略について考えてみたいと思います。
アプリケーションを意識した学術業界の動き
今回の情報をElsevierからメールで受け取った際、個人的には意外と感じました。
なぜならば、Elsevier のような大手の科学誌や専門書を主に扱う学術業界をベースとした出版社が、アプリケーションを強く意識した会合を開催しているからです。
要素技術の研究を進め、それを学会や論文で発表することで学術業界全体の底上げに貢献する、という学術が本来行うべき方向性だけでは予算を確保するのが難しくなりつつあり、産業界への歩み寄りが必要と感じているのではないか、というのが今回の動きに対する私個人の推測です。
学術業界は本来、営利とは無関係で原理原則を突き詰めるところをやるべきという考えを持っている私としてはあまり歓迎できない動きではありますが、ここは時代の流れも大きく左右しているのかもしれません。
学術業界に産業界での応用を強く求める時代の潮流は間違っていると常々思います。
応用を強く意識した学術業界での研究はわかりやすいため多くの人から興味を得られる一方、私から見ると産業界での実践経験(部下に指示して動いてもらう管理職などではなく、最前線での実務経験のことを意図しています)が浅い学術業界の方が考えるために現実を想定しきれておらず、内容が魅力的に映りません。学術的にも産業的にも中途半端になってしまうのです。
これは学術業界の方々に問題があるのではなく、産業界に近いことを求める潮流が間違っていると考えます。
学術業界というのは産業界の最前線で起こる修羅場と無関係なところで、腰を据えて本来起こっている現象の本質を突き詰めることこそが最重要。このような学術の本来の姿こそ、結果的に産業界の発展にもつながると思っています。
やはり原理原則の理解なき技術は発展性の伸びしろが少ないのに加え、産業界での量産フェーズで想定できない不具合が連発するなど非常に脆弱であり、結局原理原則がわからないため不具合の究明も進まないという悪循環に陥ります。
特にFRPのように有機物と無機物の複合材料はその振る舞いが非常にファジー(あいまいさ、不確実さ)であるため上記の状況に陥りやすくなります。
私が今でもクライアント企業の課題について経験則だけに頼らず、できる限り本質に近づくために学術論文を継続して読んでから対策を考えるようにしているのは、上記のような考えが背景にあります。
個人的な感想はこのぐらいにしておきます。
今回の Railway 2018 での発表テーマを見ていくことは、電車業界でのトレンドを理解するためにも有益と考えるため、まずは発表テーマについて見ていきたいと思います。
Railway 2018 の発表テーマ
発表テーマを以下の通り抜粋します。
Rolling Stock
- Rolling stock design, manufacture and maintenance
- Modelling and Simulation: Railway dynamics, Structural analysis, Crashworthiness, Wheel-rail interaction, Pantograph-catenary dynamics, Wear and Fatigue
- High speed trains
- Light railways and trams
- Technologies to increase freight capacity
- Bogies technology
- Field and laboratory testing
- Performance and optimisation
- Aerodynamics and crosswind
- Noise, vibration and comfort
- Traction and braking
- Safety, security and reliability
- Ergonomics and interior design
Infrastructure
- Railway structures: Bridges, tunnels and transition zones
- Track design, construction and maintenance
- Interaction of vehicles with the infrastructure
- Foundations
- Track monitoring
- Trackbeds: Sleepers and ties
- Geotechnical aspects: Earthworks, embankments, stabilisation
- Technologies for track defects detection
- Station design
Energy and Environment
- Re-use of kinetic energy
- Energy sources and smart grids
- Hybrid traction and power trains
- Sustainable rail transport
Signalling and communication
- ERTMS – European Rail Traffic Management System
- ITS – Information and Technology Systems
Operations
- Railway systems operation
- Traffic management
- Interoperability
- Intermodal solutions
- Customer interfaces
- Timetabling
- Logistics
Strategies and Economics
- Railway transport: Capacity and cost
- Track access charges
- Cost implications
- Pricing
- Planning and policies
- Future trends in railway engineering
- Railways: History, heritage and education
( The themes above are referred from http://www.railwaysconference.com/conference-scope.asp )
上記をご覧になっていかがでしたでしょうか。
個人的にはFRPを活用できるところは多く見られたと思います。
これはFRPを主に活用できるだろうな、と思ったテーマについて太字にしてみました。
例えば車両の軽量化というのはもちろんですが、そもそもの車両設計という段階でFRPの高剛性という性質を上手く活用できれば車両そのもの博肉化による車両内スペースの拡大、異方性を活用できればFRP固有の減衰特性が現れるため揺れや振動が抑えられ快適性が改善(これは台車にも適用できる技術です:すでにFRPが活用されている事例があります。紹介記事はこちらです。)、金属では難しい複雑形状を高強度で実現することで空力性能の改善につなげることもできるでしょう。
インフラ系としてはトンネル補強はもちろん、駅舎そのものの改善を建築の観点からFRPの強度と剛性を活用した駅舎スペースの拡大や外観自由度、さらには耐腐食性が高いことを活用し長期寿命の建物やその建物の基礎に応用することもできるでしょう。日本のように地震の多い国ではFRPを活用した高耐震性設計も可能でしょう。
また金属が中心の切り替えポイントでの部品などもFRPをはじめとした非金属にすることで耐腐食性が向上し、長期寿命につなげることができます。特に沿岸部など金属が腐食しやすいところでは効果を発揮します。
以上はあくまで一例ですが、FRPの機能性である高剛性、耐腐食性、減衰特性といった点だけを見ても色々な可能性を見ることができます。
ここにFRPが複合材料であることを応用し、センシング技術も入れ込めばさらに応用範囲は広がることは想像に難くないと思います。
いかがでしたでしょうか。
上記の通り電車というのはFRP適用のポテンシャルは比較的高いということがお分かりいただけたかもしれません。
川上や川中に属する企業や組織の方々にとって大切なのは、川下に属するアプリケーションを強く意識しつつ、川中にある成形加工や検査、品質保証技術や川上の基材構成、樹脂といった材料のような自社技術や製品を考えることができるのか、ということです。思考検討範囲を自社で得意なところだけにとどまるのではなく、最終製品を作り、販売する川下側に歩み寄るために「川上や川中の製品や技術をこう使うとメリットがあります」というイメージを持ってもらうための情報発信戦略が必要です。
同時に川下にいる技術者の方々が必ずしも川中、川下技術を網羅しているわけではありません。そのため、川下にいる技術者の方々もわかりやすい「従来製品とのコストや売り上げ比較というループ」に陥ることなく川中、川上側に遡上して自社製品の高付加価値化に結び付くものはないかという目線が必要です。
このようなアプリケーションを主軸とした幅広い業界企業の歩み寄りがFRP業界における企業にとって極めて重要な戦略となっていくと考えます。
ご参考になれば幸いです。