3Dプリンタ向け 熱可塑性エラストマー
CRP Technology のグループである WINDFORM から興味深い製品である、
3Dプリンタ向け 熱可塑性エラストマー が発表されました。
今日はこの製品の販売元である WINDFORM の簡単なご紹介と、
3Dプリンタによる熱可塑性エラストマーについて考えてみたいと思います。
WINDFORMという企業
この企業はラピットプロトタイプを得意とする企業です。
(尚、ここでいうラピットプロトタイプと3Dプリンティングは同意とします)
どのようなことをやっているのか、
ということについては以下の動画を見るのが一番早いかもしれません。
CFで強化された熱可塑性の微粒子を基本としたラピットプロトタイプの製品を展開してきており、
Energica Ego という電動二輪車のメーターディスプレイの枠、
フロントマスク、シートフレーム等を作ったということもリリース記事で出ています。
以下の動画はその一例です。
尚、Energica Ego の製品に関する情報は以下のHPで見ることができます。
http://www.energicamotor.com/energica-ego-electric-motorcycle/
技術的にはFRPに関することよりも、ABS、モニタリングシステム、fly-by-wireといった、
制御系に関する話がメインとなっていますがとても興味深いですね。
やはりエンジン駆動が電動に代わることにより制御系も見直さないといけない、
ということが伝わってきます。
尚、電気駆動二輪車は加速が違うということを以下のような動画で紹介しています。
Energica Ego accelerates from 0 to 60 mph (100 km/h) in 3 seconds
と書かれていますので、かなりの加速ですね。
振り落とされてしまいそうですが…..。
3Dプリンタ向け 熱可塑性エラストマー
WINDFORM から出た熱可塑性エラストマーの製品は WINDFORM(R) RL という製品です。
以下にデータシートも出ています。
http://www.windform.com/PDF/SCHEDA_WF_RL_ENG.pdf
エラストマーですのでゴムライクなふるまいが特徴です。
CFで強化されていると考えられますが、
それ故繰り返し疲労、引き裂き強度等が高いとのこと。
ただし、具体的なデータ(疲労強度、引き裂き強度)は書かれていないので、
一度データを取るなどの配慮は必要です。
硬さは Shore A で45から80と比較的広い範囲での設定が可能。
45だと手で触って簡単に変形する柔らかさですが、
80にもなるとかなり硬いというイメージを持っておいていただければ概ね正解です。
ウレタン、シリコーンといった高機能エラストマーの代替として適用することを想定しているようです。
物性を少し見てみます。
印象から先に言うと情報が少ないですね。
密度は0.45、粒子サイズは160μm以下、融点がDSCベースで190℃。
このデータから言えるのは密度はかなり低めであること、
融点が低めのためあまり高温環境では使えないということです。
特に密度は低いですね。
この値は一般的な高分子を大きく下回っているため、
空気層が多く含まれていることを示唆しています。
意図的に中空フィラーのようなものを入れているのか、
ラピッドプロトタイプのプロセスの特性上空気層が入るのかはわかりませんが、
いずれにしても空気が入っていることは間違いないと思います。
また融点が190℃というのも注意が必要です。
エラストマーということはガラス転移温度は室温よりも低めに設定されているはずです。
CFをはじめとしたフィラーが入っていることから機械特性は改善しているはずですが、
エラストマーに無理な耐熱特性を要求するのは設計的にセンスがありません。
高温環境でも耐えられるエラストマーはフッ素くらいしかなく、
そのフッ素も高温環境では劣化が進み、物性そのものも低いなど課題が多いです。
今回紹介した製品はあまり厳しい高温環境では使わないという方向性が重要です。
それ以外では引張強度が1.5から4.2MPa、弾性率が6.5から8.0GPa。
もちろん上述の通り硬さにもよりますが弾性率は比較的高めです。
強度は一般的なゴムよりは高めですが、
ウレタンなどの高物性ゴムと比較すると低めです。
参考までですがゴムの試験の弾性率はFRPのそれと求め方が違います。
一般的にゴムの弾性率は25%、50%、100%、150%、200%といった各伸びの位置における弾性率を求めるのが一般的です。
さてエラストマーで最も重要なのは破断伸び。
130?160%と書かれています。
これはエラストマーとしては低めの部類に入ります。
引張試験中はあまり伸びずにぶちっと切れるイメージとなります。
当然ながら上述の通り空気層、またはフィラーの存在のため破壊起点が多いと予想されることに加え、
強度を高めると架橋密度の増加等により分子の柔軟性が低下して伸びが低下する、
という原理が働いてしまうということがあります。
以上の通り WINDFORM(R) RL は強度、弾性率ともに一般汎用のゴムよりも高めである一方、
破断伸びと密度が低い、という特徴があるといえます。
FRPにおける 3Dプリンタ向け 熱可塑性エラストマー の適用
FRP製品において検討したい熱可塑性エラストマーの適用について考えてみたいと思います。
色々な使い方はあると思っていますが、私が設計者であれば、
「インターフェースへの適用」
を考えると思います。
FRPは過去のコラムでも述べているように、異方性ゆえにひずみがでやすい。
そのひずみは最後はどこかで吸収する必要があります。
このひずみの吸収という機能を発現させる媒体として今回のようなエラストマーを用いるというのが一案です。
さらにラピッドプロトタイプであれば理屈上どのような形状に対しても賦形可能であるため、
複雑に入り組む三次元形状であっても、その表層に沿うようなインターフェース介在材料を製造することが可能です。
エラストマーというのはひずみを吸収する最後の砦にもなりうる。
そんなことを設計の考え方に加えていただくことで、
幅が広がるのではないでしょうか。
ご参考になれば幸いです。