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水素社会 を目指した取り組みと FRP適用の可能性 2

2018-05-25

前回のコラムに引き続き、水素社会 を目指した取り組みと FRP適用の可能性 
について書いてみたいと思います。


本日は埼玉県産業技術総合センターで開かれた

「水素社会と再生可能エネルギー」

の講演の中で説明のあった、または配布資料について、
興味のあったところの中で、水素に関する概要と、
講演をされた千代田化工建設株式会社の水素に関する取り組みを述べた後、
FRPへの適用の可能性ということについて考えてみたいと思います。

 

水素の安全性


私が講演の後に講師の方に向けた質問が、


「水素がエネルギー源として普及するために最も大きな課題は何ですか」


というものでした。これに対し、


「水素 = 危険 というイメージを払拭することだと思う」


というのが講師の方の回答でした(その次に来るのはコストをはじめとした商業視点だとのことです)。

 

水素は空気と適度に混ざることで燃えやすい性質故、
燃料としては好条件とのこと。

しかしながら分子量が非常に小さいためすぐに上方に拡散するため、
地面や床に広がる、または滞留しやすいガソリンやLPガスよりも、
日常的な場面で爆発が起こるリスクは低いとのこと。
(もちろん、何事もゼロリスクはないということは書かれています)

似たようなことは以下のようなページでも書かれています。

https://rh2.org/save/

http://hydrogen-navi.jp/property/handling.html

 

水素が直面する最初の課題というものが人のイメージだというのが意外でした。

 

水素拡大に向けた日本の取り組み


印象として日本が先陣を切って動いているように感じました。

その代表的なものが水素等閣僚会議で決定した水素基本戦略ではないでしょうか。

<「水素基本戦略」が決定されました 経済産業省のページより抜粋>
水素基本戦略は、2050年を視野に将来目指すべきビジョンであると同時に、その実現に向けた2030年までの行動計画です。基本戦略では、目標として、従来エネルギー(ガソリンやLNG等)と同等程度の水素コストの実現を掲げ、その実現に向け、水素の生産から利用まで、各省にまたがる政策群を共通目標の下に統合しました。
基本戦略に基づき、カーボンフリーな水素を実現することで、水素を新しいエネルギーの選択肢として提示するとともに、日本の強みを活かし、日本が世界のカーボンフリー化を牽引していきます。

参照URL:http://www.meti.go.jp/press/2017/12/20171226002/20171226002.html


具体的な内容は上記のページを見ていただくとしても、
日本はどこかの後追いをしているのではなく、
世界に向けて情報発信をしながら、けん引する役割を確固たるものにしようと準備を進めている印象です。

2018年10月には水素閣僚会議を開催し、
海外も含めた議論をするとのこと。

以下のURLで概要を見ることもできます。

http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180508001/20180508001.html


内向きの議論ではなく外に向けて情報発信をし、
先陣を切ろうという流れができていることは素晴らしいな、と感じます。


上記の通り水素に関する理解が進み、
日本がうまく先導できれば水素が今後のエネルギーの柱の一つになっていく可能性も高いと考えられます。

 

水素利用拡大に向けた最大の課題の一つが貯蔵と輸送

上記の水素基本戦略でも述べられていますが、
水素の利用拡大を促すにあたって重要なポイントの一つが、

「水素の貯蔵と輸送」

とのことです。


ここで講師の方が所属する千代田化工建設株式会社の取り組みが紹介されました。


水素輸送には液化水素、つまり絶対零度付近の-253℃まで冷やして液体にするか、
水素を有機化合物に化学結合させて常温常圧で液体の形態にする有機ハイドライドが有望視されているとのこと。

千代田化工建設株式会社は有機ハイドライドで水素を常温常圧で液体にする、
という技術で事業をすすめていると紹介されていました。


トルエンに水素を反応させてメチルシクロヘキサンとし、
それを再度触媒反応で脱水素反応を起こさせて水素を取り出すというものです。


千代田化工建設株式会社はこの触媒の開発と工業化に成功したというのがポイントとのことでした。

SPERA(R)水素システムと呼ばれるこの製品については以下のURLで概要を見ることができます。

https://www.chiyodacorp.com/jp/service/spera-hydrogen/innovations/


2020年には、海外のブルネイから水素を日本に輸送する水素サプライチェーンの実証も行う予定とのことです。

https://www.chiyodacorp.com/jp/service/spera-hydrogen/


メチルシクロヘキサンは現在原油を想定している輸送システムが基本的にはそのまま使える、
ということが強みとのこと。


水素拡大に向け様々な取り組みが進められていますね。

 

FRP適用の可能性について

今回の水素適用拡大を見据えたFRPの適用について考えてみたいと思います。


上述の通り水素適用拡大に向けたポイントの一つが、


「水素の貯蔵、輸送」


です。


FRPの特徴というと強くて軽い、ということを頭に浮かべると思います。


その一方で近年注目を集めるのが、


「耐腐食性」


です。


今週発行したメールマガジンでも述べています。

FRPを使った橋上の歩道更新
http://archives.mag2.com/0001643058/20180521093000000.html


同様に「海底油田、海底ガス田への熱可塑性複合材パイプの適用」という題目で高圧パイプに関するニュースを別のメールマガジンでご紹介したこともあります。
http://archives.mag2.com/0001643058/20180129093000000.html


それ以外にも、FRPの耐腐食性に着目した以下のようなコラムを書いたことがあります。

老朽化の進む 橋 や トンネル へのFRP適用検討
 


これがポイントではないでしょうか。


まずは輸送の用いる菅やタンクです。

こういうとすべてを差し替えると誤解する方がいるかもしれませんが、
どちらかというと従来の金属面の内外面を被覆するイメージです。


以前のコラムで管更生についてご紹介したこともあります。

水道管 の更新へのFRP適用
 


FRPはその材料形態故、薄く被覆するということにより従来の金属インフラの補強、補修ができるという特徴があります。


日本はFRPを用いたインフラ補修ではどちらかというと世界をリードしている立場であり、
後追いするように欧州なども最近になってインフラへのFRP適用を主張し始めています。
(ただし、海外の場合は補修というよりも置き換えという概念の方が強い)


いずれにしても既存の金属ベースの設備を最大限に活用しながら、
それを補助する役割としてFRPを適用するというのが一つのコンセプトです。

 

もう一つが水素脆化への対策です。

 

水素が金属材料を脆性化させるという問題は広く知られている一方、
水素化物説、吸着説、格子脆化説、マルテンサイト変態促進説等が提言されており、
メカニズムはよくわかっていない状況のようです。

古くから知られているにも関わらず、
原因が不明確であるということはそれだけ事象が複雑であると想像します。
(実際、材料だけでなく応力状況、水素濃度、温度といった多くのパラメータが複雑に関係することがわかっているようです)


水素存在下の高温域では内部可避水素脆化やオーステナイト系ステンレス鋼
オーバレイ溶接金属とフェライト系鋼母材との境界におけるはくり割れ、
低温域では歪み誘起マルテンサイトによる脆性化、
といったことが原因の可能性として提言されているものもあります。

参照URL:http://www.hess.jp/Search/data/22-02-018.pdf


例えば上述した従来の金属ベースでの設備に対し、
水素脆化が懸念されるのであればそれを低減、または金属材料を補強する、
という観点でFRPを使うというのも一案です。


水素分子は極めて小さいため高分子で抑え込むのは難しいと想像しますが、
金属が水素により脆化する可能性がある以上、
それを補完する材料候補としてFRPを検討するというのは可能性としてあるのではないでしょうか。

 

 

いかがでしたでしょうか。


今回のコラムでは2回にわたりエネルギー戦略とその中での水素の立ち位置、
そして水素適用拡大に向けたFRPの適用について述べてみました。

 

水素の適用というものもFRPと同様課題が多いようで(技術的というよりもビジネス的に)、講演ではこの辺りの質疑も活発に行われていたのが印象的です。


FRPの適用を考えるにあたっては土地(いわゆる国)による制限を少なくすることに加え、
アプリケーション先を柔軟かつ幅広い視点でみることが肝要です。


そして視点の先には次世代の方々に少しでも貢献できる、
というような社会的意義(今回でいえば新しいエネルギー源)が含まれていることが、
持続可能な取り組みとして忘れてはいけないポイントだと思います。

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