炭素繊維のケーブルへの適用
今日ご紹介するのは東京製綱株式会社です。
世界の安心、安全を支える。
トータル・ケーブル・テクノロジー
というスローガンを抱えている企業だけあって、
ロープウェイ、吊り橋等、マイティーネットやロックフェンスなど、
ケーブルに関わる技術で有名な企業です。
この企業の主力製品は、
– ワイヤロープ
– ワイヤ(鋼線)
– スチールコード
等の製品ですが、その中に炭素繊維ケーブル(CFCC (R))があります。
これは炭素繊維に熱硬化性樹脂を含侵させた構造用ケーブルとのこと。
以下に紹介のページがあります。
http://www.tokyorope.co.jp/product/cfcc/
ここには炭素繊維の
「耐腐食性」
という機能性を中心とした展開が述べられています。
緊張材や補強筋のように常に高荷重がかかり続けるもの、
外ケーブルやグラウンドアンカーのように、
水などの外的ストレスにさらされる環境での適用が例として述べられています。
またそれ以外としては軽量、低線膨張という特徴から、
架空送電線に適用され、地上高、遠距離、増容量対策としても適用されているとのこと。
先週(6月12日)に日刊工業新聞でリリースされていた内容でも、
北米の電線メーカーを通じた10か国への販売計画も推進しており、
日ロ経済協力プランの一環となる架空電線整備事業への参画も決まったとのこと。
尚、CFCC(R)と落石防御網や道路の防護柵といった防災関連製品の海外展開の事業は、
2018年4月に会社分割方式で東京製綱から「東京製綱インターナショナル」に継承されているそうです。
2018年の3月期と比較し、2020年3月期には売上ベースで8.6倍を目標にするとのことで、
事業の見込みは明るいようです。
親会社である東京製綱の個別業績の前期実績との差異に関するお知らせ、
という以下のリリースを見ても事業は拡大基調にあるということが示されています。
EPS(earnings per share)も前年比で6倍近くになっていますね。
http://www.tokyorope.co.jp/info/assets/pdf/180511_release.pdf
また昨年度の決算を見てみると自己資本率も28%を超えており、
なかなかの優良企業ではないか、というのがざっとした見方です。
http://www.tokyorope.co.jp/info/assets/pdf/tanshin_20170512.pdf
CFCC(R)の特性
CFCC(R)の特性を技術的観点から少し見ていきたいと思います。
以下のページから基本データを見ることは可能です。
http://www.tokyorope.co.jp/product/cfcc/material/
標準仕様というものの引張弾性率(上記表中の弾性係数)を見てみると127から167GPa。
仮にで計算するともし上記のワイヤがねじれなく、真直で、
かつ使用している繊維が23トンクラスのものであるとすれば、
Vfは35から45%程度かな、と想像できます。
もちろん実際は何の繊維を用いているかわからない上(複数種かもしれません)、
柔軟性を担保するためにねじれが入っているためあくまで参考程度の考察です。
保証荷重を引張り破断強度としてみると、1.4から2.5GPa程度。
これも上述の仮定の下計算するとVfは38から69%になります。
ここを見ると、もしかすると炭素繊維はもう少し高強度の炭素繊維を用いている可能性も感じます。
ただ使用されている炭素繊維の径は7μm程度ということで、
高強度中弾性の繊維ではなさそうです。
いずれにしても興味深いですね。
もう一つ見るべきはクリープです。
規格破断荷重の65%、室温環境(22℃)のものが出ていますが、
鋼材ケーブルと同等とのことです。
ここだけは要注意かもしれません。
FRPは樹脂で含侵している以上、荷重伝達はせん断モードが必ず発生します。
データは1000時間程度ですが、これ以上長時間になった場合、
鋼材と同等かどうかは私的には「わからない」という回答になります。
有機物が介在し、さらに異方性材料のせん断荷重伝達というやや特殊な状況になるため、
実際はより長時間での評価を実施することが望ましいと考えます。
さらに言うと荷重がかかった状態での環境ストレスは、
高分子の劣化を促進するため、熱、水といったもの、
さらには朝晩、季節性の冷熱サイクルなどもFRPでは注意した方が良いと思います。
恐らく東京製綱などはこれらのバックデータを持っており、
検証済みとは思いますが、ユーザーとしてはこの辺りをきちんと把握しておくことが肝要です。
それ以外の特徴については以下HPにも書かれていますのでご確認ください。
http://www.tokyorope.co.jp/product/cfcc/feature/
今回の製品はFRPの新たな展開領域であるインフラへの興味深いアプローチです。
このような適材適所への適用が進むことで、
FRP業界にも新たな展開が見いだされるのではないかと期待されます。