FRP業界の特異性である 材料と工程 が主体の考え方
FRP業界は材料と工程ばかりに目が行く傾向が強い
( The image above is drawn by FRP Consultant )
既に3年以上にわたりFRP業界の企業や該業界に参入を目指す企業をサポートしてきました。
時には最前線で実務のサポートも行うことがあります。
国も日本だけでなく、他のアジア諸国、北米、欧州といったフィールドでも最前線を見てきました。
今日はこれらの経験を踏まえ FRP戦略コラム として最前線で感じている日本だけでなく、
世界中のFRP業界の状況について考え、
今後の展開として必要なことについて提案してみたいと思います。
考え方が常に材料と工程に偏っている
これは自らの事業を始めてから本当に良く感じることです。
私はどちらかというとFRPという材料を使ってものを作り、
そのものが要求する仕様を満たすのか否か、
ということについて検証するという設計が主な業務でした。
つまり、ものづくりの位置でいうと最も川下にいました。
私自身はもちろんFRPの専門家ですが、
部品の設計、品質保証、製造開発、並びにそれらの開発マネジメントも専門範囲内です。
FRP固有の部分ももちろんありますが、
材料でものを作り、そのもののパフォーマンスを評価する、
という観点では材料がFRPでも、樹脂単体でも、
ゴムでも、金属でも「共通」のスキルを鍛えてきたといえます。
この状態で企業という組織出て見えてきた景色である、
「世界的にFRP業界では物事が 材料と工程 (製造プロセス:成形加工など)の主観で動いている」
ということに驚きを感じています。
当然ながら材料や製造プロセスの提案が重要なこともあるでしょう。
しかし、川下にいた人間から見ると違和感が満載なのです。
これでは業界はなかなか育たないと感じてしまいます。
では、材料からの観点、製造からの観点、それぞれの課題とそれに向けた解決へのアプローチは何なのでしょうか。
下記で述べてみたいと思います。
材料主体の観点は常に定性的
これは材料が化学と密接に関わる故の宿命なのかもしれませんが、
要件や設定が常に定性的です。
FRPのマトリックスである高分子というのは、
モノマーが長く連なった長鎖分子を初めとした分子量の高いものを指しており、
そのような多くの分子が複雑に連なる構造が主因となって色々な物性などがリニアに発現するわけではありません。
そのため、化学系の考え方は一般的に定性的なものに終始することが多く、
それは不可避な部分もあるといえます。
このような状況を踏まえ、学術業界では化学構造という極めてミクロな世界で定量評価を試みる一方、
マクロ評価は基本、定性的に全体をとらえるというのが一般的です。
しかしながらこれは産業界では加護できない状況といわなければなりません。
材料がそれを使用する顧客に対して発現できる付加価値は何なのかを定量的に示すということができずに、顧客がその材料を何のために、どのように使うのかをイメージすることは極めて困難です。
残念ながら川中から川下にいる技術者の多くは、
世界のどこでもFRPに関してイメージや知見を有している人物は極めて少数です。
これは経験が無いため仕方がないのだと思います。
その一方で
「材料に知見のある技術者は製品の仕様を決めるという”図面を作成する”というスキルが無い」
という状況になっています。
材料に対してどのような仕様を要求し、それが製品に活かせるのかというイメージがわかないのです。
そのため、材料メーカーとそのユーザーの会話はわからない者同士がわからないものを話す形になるため、
お互いがお互いに
「話が通じない」
と思ってしまうのです。
材料が実際に製品図面に読み込まれて、形ある製品に生まれ変わる。
そこのイメージが無いにもかかわらず、
材料メーカーが試行錯誤しながら様々なものを作るというのは、
売れるか売れないかわからないのにとりあえず開発を進める、
というビジネス的に非効率な状況を強いることになるでしょう。
材料メーカーが取るべきアプローチとは
ここはずばり、
「材料仕様を定量的に示す/やり取りする」
ということでしょう。
材料仕様とはいわゆる Material Spec のことです。
材料仕様に関する定量要件表は材料メーカーと顧客をつなぐ共通言語です。
これが無い状態で産業が正常化することは絶対に無いと思います。
樹脂部品のように壊れても大きな問題が無いところに使うのであればそれでいいでしょう。
しかし、FRPを使う場合に一般的に期待されることは高強度や高剛性。
そのような用途に使われる材料を材料仕様無しに用いるというのは金属でも絶対にありえません。
上記のような状況に気がついている、または直面する方が増えている、
ということが材料規格に関する講演にニーズがあるということの裏付けといえるかもしれません。
材料規格については過去に以下のような記事を書いたこともありますので合わせてご参照ください。
日刊工業新聞社 FRPを産業活用するために必須の書類である 材料規格 の記事寄稿
※ご参考:材料規格( Material Spec )に関する講演は不定期に行っております。以下は一例です。
– 2018年 7月 10日(木)
10:00?16:00
会場:日刊工業新聞社 大阪支社 セミナー会場(大阪・大阪市中央区)
CFRP/GFRP材料規格(Material Spec)の中身と
その作成に必要な材料試験実施法
https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/1724
※2018年4月12日に東京で開催した講演内容と同じになります。
工程(製造)主体の観点は常に欧州模倣
材料は日本がアドバンテージがある印象がありますが、
製造になってくると状況はかなり苦しいというべきかもしれません。
なぜならばその多くは、
「欧州を中心とした海外設備の模倣に終始している」
という状況であるためです。
良いところを吸収するというスタイルに問題はありません。
しかし、
「それが本当に市場ニーズに応えられるのか、そもそも市場ニーズが存在するのか」
ということを熟考せずに海外でリリースされている技術を焼き直すというのは問題であることはもちろん、どちらかというと危機的状況とみるべきかもしれません。
さらにいうとFRP関連設備は必要以上に無理を重ねて設計される場合が多く、
本来設備がやるべきでないところまで設備がやることもあります。
加えて設備自体に柔軟性が無く、
導入後のことを考えると投資を躊躇する、
という流れが多いということもあります。
製造プロセスはできるだけシンプルに既存技術活用を基本とする
FRPを使った製品全体を俯瞰した位置から見られる技術者にとって、
「どのような製造技術を使って製品を作るのかはそれほど重要ではない」
ということをまず理解することが第一歩です。
FRP製品を製造するメーカーなどは自社技術をブラックボックスにしたがりますが、
本当の意味でFRP製品を俯瞰してみている技術者にとってはあまり関心ごとではないのです。
この顧客心理を理解するのは非常に重要といえます。
そして求められる製造プロセスに関する技術は、
「簡易的かつ柔軟性が高いものが求められている」
ということに終始できます。
製造プロセスはできる限りシンプルなのが望ましいです。
これは問題が起こる可能性を低減させることに加え、
「問題が起こった時の究明を急ぐこと」
が最上位概念としてあるのが考えの根底にあることが主因です。
自動化をはじめとした効率化を求めることはもちろん重要です。
しかし、効率化以前に問題が起こった時にそれを究明できるということをどれだけ強く意識できるのか、ということが製造プロセスでは最重要です。
そしてもう一つ大切なのが、
「実績ある既存技術をフルに活用すること」
です。
FRP以外の材料を基本とした製造プロセス技術の多くは時間をかけ熟成されてきて今の形になっています。
そのような熟成された技術を活用しないのは極めて非効率です。
よって、FRPという材料の特殊性を考慮しながらも、
「既存技術で応用できるものはないか」
ということを基本に熟考を進めることがポイントといえます。
仮にFRPにある程度特化した設備を設計するにしても、
やはり既存技術を基本に考えるという癖をつけることが重要です。
これは顧客側も製造プロセス技術を提供する側も常に認識すべきことです。
FRP業界の発展に向けて
私が上記で述べてきたことはご理解いただけるのではないかと思います。
その一方で実際の実務の前線になると目の前の業務に忙殺され、
基本をないがしろにしてしまいがちです。
その上、顧客とサプライヤ、
両社のマネジメント層に上記の基本を理解している人が存在する可能性が低いこともあり、
しかるべき手続きを踏むことに理解を示されることは稀と考えられます。
– そのようなことをやっていたら間に合わない
– コストアップにつながるので回避したい
– サプライヤを信用していいのではないか
– 他社がそれでやっているのだから問題ない
そのような一般的に理解されやすいロジックで私の述べてきた基本が隅に追いやられるのは目に見えています。
一通りFRPの製品の開発を自らの手でやり切ればぶれずに基本的なやり方を踏襲できると思いますが、
現状は世界のどこであってもその状況に無いということが明白です。
一度経験をしないと頭でわかったことを行動に移せないのは致し方ない部分もあるのかもしれません。
しかしながら私が上で述べてきたことを意識することが、
結果的に自らのプロジェクト失敗のリスクを低減し、
ビジネスの正常化に結び付くといえます。
顧問先の指導はもちろんですが、
講演や弊社HPでの情報発信により、
少しでも基本の考え方が広がるよう引き続き尽力したいと思います。
ご参考になれば幸いです。