PP Honeycomb のライセンス製造を行う ThermHex
今日は「 PP Honeycomb のライセンス製造を行う ThermHex 」という題目で、
FRP適用拡大の本命といわれ始めている熱可塑性 Honeycomb と PP composite
の組み合わせについて考えてみたいと思います。
EconCore NV からライセンス取得し生産
以前、 EconCore については以下の記事で述べたことがあります。
当時はまだ出始めの感じでしたが、
数年が経過し、適用先が広がってきているようです。
用途としてはトラックの荷台、
荷物を入れる輸送用のケース、
自動車のドアパネルやシートパネル、
製品展示のラック等です。
それ以外では恐らく今年(2018)のJECでも展示されていた航空機の内装材もその適用先の一つでしょう。
実際、 EconCore は以下のような航空機向けの内装材も発表していました。
( Photographed by FRP Consultant Corp. )
上記の内装品のTier1は DIEHL という企業です。
https://www2.diehl.com/group/en/diehl-group
売上の比率を見ると航空、防衛のウェイトが大きい企業であることがわかります。
当然といえば当然ですが取り扱う材料はFRPだけでなく、金属が主体です。
金属プレスを主な製品として取り扱っているようで、
概要については以下のページに書かれていますので興味ある方はご覧ください。
比較的小さなものの成形が得意のようです。
https://www2.diehl.com/metall/en/diehl-metall/technologies/stamping-technology#products
ThermHex の特徴
PPの Honeycomb が驚くほど特徴があるわけではなく、
どちらかというとその作り方に特徴があります。
イメージは以下の動画を見てもらうとわかりやすいかもしれません。
いわゆる連続成形ですね。
ここが最大の特徴といえます。
この辺りの話は以下の所の動画でも述べられています。
動画の中ではひたすら「軽量化」が材料適用のコンセプトであるということが述べられています。
比重が1を下回る PP が主原料である上、空気層が多い形態の材料ですのでここは当然といえば当然です。
また、一般的に接着性の低い熱可塑、その中でも PP のようなオレフィンは特に接着性が低いことが知られています。
そこを何らかのブレークスルーをもって乗り越えたことでスキン層とハニカム層の一体化に成功し、
面外の曲げ強度や剛性を高めることにつながった、
という話は冒頭紹介した2年前の記事でも述べていることです。
過去には PP のリサイクル材の耐衝撃性改善といったことについても書いたことがあります。
熱可塑性樹脂最大の強みの一つである靭性の高さを考えるにあたっての一助にしていただければと思います。
ThermHex の仕様
仕様概要から見ていきます。
ThermHexのHPによると概要としては以下のように書かれています。
Tolerances:
Long: ± 3.0 mm (± 0.12″)
Width: ± 3.0 mm (± 0.12″)
Thickness: ± 0.3 mm (± 0.012″)
Weight: ± 10%
Storage:
ThermHex honeycomb core should be stored flat and horizontal in a dry and covered area. Please protect material from UV sunlight and extreme temperatures. If surface moisture is present please, dry prior to use.
上記は長さや幅に関する公差ですね。
見てお分かりのように長さ、幅、重さにはそれなりにばらつきのある材料であることがわかります。
(もちろん、実際の材料がどのくらいのサイズかによりますが)
ただ許容すべき範囲とみるべきでしょう。
保管についてはハニカムなので平面に置くこと、
そして紫外線暴露や高湿度環境での保管は避けるようにと書かれています。
湿気については乾燥処理を行うよう合わせて注意点が述べられていますね。
スキン材として用いられるのはPPフィルムかPETの不織布。
物性については一例として THPP80-FN という製品についてみてみたいと思います。
基本的なカタログは以下のページで見ることができます。
https://thermhex.com/wp-content/uploads/2017/05/TH_Datbl_enl_THPP80_Ans.pdf
THPPは今回のPP Honeycomb の材料を使っていることを意味し、80というのは目付のことを言っています。
ASTM C365–57
Compressive strength 1,2 MPa (174 Psi)
Compressive modulus 40 MPa (5.800 Psi)
ASTM C273–61
Shear strength (L-W) 0,5 MPa – 0,3 MPa (73 Psi – 44 Psi)
Shear modulus (L-W) 15 MPa – 6 MPa (2.176 Psi – 870 Psi)
Temperature range for processing - 30 to + 80( short term to + 140 )
and application (°C)
Thermal conductivity 0,065 W / mK
Fire-resistance:
Normally inflammable (building material class B2 DIN 4102-1, respectively D according to EU classification),
higher grades of fire resistance can be obtained in sandwich elements when using specialized skin materials.
まず、材料特性については
「曲げ試験が無い」
ということが好印象です。
設計的な意味のない試験が無いというのはそれなりに顧客との議論を重ねているメーカーであるということの裏返しであると考えます。
ここでいう圧縮はどこの方向に対する圧縮なのかはわかりませんが、
強度がほとんど出ていないことからハニカムの面に対して垂直方向の圧縮を示していると想像します。
またせん断試験の結果もあります。
ここで用いている面内せん断試験は ASTM C273 という試験方法です。
以下に試験冶具のイメージ動画があります。
やや古いですが試験規格を以下の所で見ることができます。
http://file.yizimg.com/86194/2009081802421443.PDF
試験片が軸心から傾いているため、試験中に圧縮のモード(試験片が厚み方向に圧縮される)が出るように見えます。もちろん、そのあたりは十二分に考慮されて試験冶具は設計されていると思いますが、接着剤を使わなくてはいけないなど試験そのものにもノウハウが必要であるように見えます。
尚、参考までにですが Honeycomb sandwich の面内せん断については2017年に ASTM D8067 という picture frame を用いた試験規格ができました。
https://www.astm.org/Standards/D8067.htm
元々は航空機メーカーの試験規格が基本となっていますが、
端面をすべて保持した状態でせん断荷重をかけるという意味ではより正確な面内せん断特性が得られると期待されます。
面内せん断の特性を取得するのであれば ASTM D8067 のような picture frame を用いた試験法が今後は主流になっていくものと考えられます。
熱伝導率もかなり低いですね。
0,065 W / mK という値は以下のものと比較してもらうと、
その低さがお分かりいただけるかもしれません。
熱伝導率例 [ W / mK ]
アクリル 0.17-0.25 (R.T.)
紙 0.06 (R.T.)
毛布 0.04(30℃)
アルミニウム 236(0℃)
銅 403(0℃)
※引用:理科年表(平成29年度版)
高分子を使っている上に、空気層が多いため紙と同等の熱伝導率で断熱性はかなり高めといえます。
難燃性については熱可塑性樹脂であるためそれほど悪くありませんが、
用途によってはスキン層の材料をそれ相応のものに変更する、
という必要性があると書かれています。
熱可塑性 Honeycomb sandwich panel の今後について
冒頭紹介した私の過去の記事でも述べていますが、
熱可塑性マトリックスをベースとする複合材料最大の弱点は、
接合強度が高くない、ということです。
今年のJECでは数社(より具体的には1、2社)が熱可塑性マトリックス樹脂向けの接着剤をリリースしていました。
今後もこのようなものが増えてくるかと思いますが、
基本的には熱可塑性樹脂、特にオレフィンは接着に不向きです。
このような課題があるということをまず認識するということが第一歩です。
そして非破壊検査等できちんとした接合が行われているのかを確認することも必要でしょう。
そしてもう一つがFRPとの組み合わせです。
今回の材料はPETの不織布でしたが、
当然 PP をマトリックスとしたFRPと組み合わせることも可能です。
このようにして得られる Honeycomb sandwich panel は軽量で高剛性であることに加え、
断熱性を高め、また内部空間に別のものを入れることで機能材料として使うことも可能かもしれません。
またスキンであるFRPについてUDを使うのか、
織物を使うのか、という基材の形態によっても異なる特性を出せる可能性があります。
種々存在するアプリケーションの要望と、
上記で紹介した材料の有する固有の特性を理解し、
FRPが熱可塑性のハニカムという新たなパートナーと共に適用拡大していくことを期待したいと思います。