Solvay が epoxy ベースの co-cure 可能な接着剤 FusePly(TM)を発表
Cytecを買収して複合材料業界でも存在感を高めている Solvay 。
元々熱可塑性樹脂のメーカとして認知度は高かったのですが、
Cytecの有する熱硬化性樹脂に関する知見も活用しながらさらに活躍の場を広げようとしています。
今回ご紹介するのは、co-cure 可能な接着剤である FusePly(TM) です。
今年の5月に SAMPE で発表され、同時に Solvay のリリース記事も出ています。
以下にリリース記事のURLを添付しておきます
上記リリースに書かれていることは以下の4点です。
– Improved reliability: 接着信頼性の向上
– Higher part performance:穴あけなどが不要になることでの構造物の性能向上
– Lightweighting:締結部品不要による軽量化
– Design freedom:既存工程に流用可能な柔軟性
一言でいうとごく当たり前のことしか書いてありません。
SolvayのHPも調べてみましたがデータシート等一切ありません。
国を問わず化学メーカではよくあるアプローチ方法ですね。
複合材料を古くから扱うメーカは基本的にリリースと同時に最低限の物性値を公開します。
これは基本物性を示さないと使えるか使えないかユーザーが判断できないからです。
そういう意味では今回の製品もリリース内容だけでは、
– 既存類似製品と比較して何が違うのか
という最重要の訴求点が不明確です。
SAMPEでデータシートを発表したということですので、
そちらの方の情報を調べたところ、以下の Composite World に記事が載っていました。
https://cw.epubxp.com/i/997046-jul-2018
上記の記事の p.24 です。
ここを見るともう少し興味深いことが載っていました。
箇条書きにて示します。
– フィルム形状である
– 接着力を高める表面処理相当の機能性発現が特徴的
– ターゲットは航空機のストリンガーとスキンの接着
– プリプレグと一緒に co-cure でき、オートクレーブは必要ない
(co-cureとは同時硬化できるという意味です)
– 硬化剤はアミンベースで硬化温度149-177℃で、バリュアブルタイプである
– 湿度や暴露時間の影響を受けない
– mixed mode での破壊が無い
(Mode IとMode IIの複合モードことをmixed modeと言います)
これを見てみると大分様子が見えてきます。
色々書かれていますが結局のところ差別化できるポイントは、
上記の下から二番目の
「湿度や暴露時間の影響を受けない」
ということでしょう。
ここは従来のフィルム接着剤には無い機能性であり、
近年の熱硬化性樹脂のトレンドといえます。
それ以外は逆に従来のフィルム接着剤でもよくある話であり、
接着強度などはむしろ従来材料の方が高いという可能性もあります。
ただ最大の弱点が材料の保管性。
私も量産でフィルム接着剤を使っていましたが、
その管理方法には苦労しました。
Process spec に起こすまではしませんでしたが、
成形加工サプライヤに管理方法を指導の上、
現場への落とし込みのために工程手順書を作成してもらい、
それを何度も添削した覚えがあります。
多くのものを作ろうとすればするほど管理や工程はシンプルにするのが技術の鉄則。
そういう意味では今回の FusePly(TM) は管理が楽という意味で量産向きといえるかもしれません。
とはいえメーカの言い分をユーザーはそのまま鵜呑みに指定はいけません。
ユーザーはご自身で材料を購入し、
それを用いて様々な評価を行うことで想定している実製品や工程に適用できるのか、
ということをきちんと検証することが肝要です。
研究開発の段階でどれだけ手を抜かずに自らの手と頭で検証を重ねたか。
結局のところ効率とは逆行する技術の本質に迫る取り組みをどれだけできたかによって、
その後の苦労の大小が変わるのだ、というのが実経験に基づいた考えです。