はじめてのFRP 材料仕様を示す 目付 、 Vf そして RC
今日のコラムでは FRP の「 材料仕様 」を決める際に必須ともいえる、 目付 、 Vf ( Fiber Volume 、繊維体積含有率 )、 RC ( Resin Content 、 樹脂含有率 ) について述べてみたいと思います。
基本材料仕様は材料メーカーとユーザーを結ぶ共通言語の根幹
今年は4月(東京)と7月(大阪)に 材料規格 ( Material Spec )に関する講演を行いましたが、
これだけ短期スパンで講演をしたにも関わらず聴講者の数はどちらも多く、
また積極的に質問をしてくれる方が多かったのが印象的です。
そして聴講者の方々の属する領域を見ると、
どちらかといえば川中から川下の業界の方が多く、
川上である材料メーカの方々とどのようにして議論を詰めるべきなのか、
ということについて必要性に迫られている方が増えていると感じています。
材料規格は材料メーカとユーザーを共通言語でコミュニケーションするための書面である、
ということを講演でもご紹介しています。
材料メーカの方が機械設計の基礎がわからないのと同様に、
ユーザーも材料の仕様について不明確な場合が多いという現状を踏まえれば、
上述した材料規格が必須ということがわかるのではないでしょうか。
今回ご紹介する目付、Vf、RCはこの共通言語の根幹ともいえる特性です。
FRPを扱ったことがある方でもこれらの仕様をきちんと述べられない場合が多いということは、私が様々な川下の企業の指導で明らかになっていることです。
共通言語に対する誤解や知識の無さが材料メーカとユーザー両方の業務効率を下げていることを認識いただき、本コラムで基本を習得いただければと思います。
材料仕様の出発点である「目付」
結論から先に言うと材料メーカとの議論の出発点はこの目付から始まります。
逆にいうと目付の議論なしに材料の仕様を語ることはできません。
目付というのは英語でいうと、 Area Weight または Areal Weight といいます。
AW と略すこともあります。
私が開発現場の最前線であった北米で航空機エンジン部品の型式認定取得と量産ライン立ち上げを行っていた時は Areal Weight という言葉を使っていました。
その後、現在の仕事になって複数の顧問先の依頼でアジアや欧州の材料メーカで議論したときは Area Weight でした。
アジアの材料メーカはむきになって Areal Weight は違う、といったことを言っていました。
英語が母国語であるのが米国であると考えれば Areal Weight が正解なのでしょうが、
Area Weight のほうが一般的には浸透しているようです。
何故目付という仕様が重要なのでしょうか。
FRP業界における材料は繊維産業の色が極めて強いのがその背景にあると感じています。
普段我々が来ている服の生地を製造する場合、その仕様は必ず目付で表します。
もちろん材質や織り方、編み方などでも着心地は変化するでしょうが、
生地を作る側にとって最も重要なのは、
「単位面積当たりの重さはいくつなのか」
ということです。
目付の単位は実際、g/m2 で表します。
例えば生地を発注する方が、反物で幅1500mmで長さ1000m欲しいといったとします。
この時の目付が100g/m2なのか300g/m2なのかによって、
「必要とされる糸の量が全く違う」
ということがお分かりになると思います。
上記のようなFRPやその強化繊維である基材を販売するメーカが目付を中心に議論をするのは自然といえます。
その一方でFRPの扱い経験が浅い方は、
「重量単位」
で話をする傾向があります。
このため、材料見積りでボタンの掛け違いが良く起こります。
上記の反物を例にすれば、目付が100g/m2と300g/m2では純粋に密度が3倍違います。
重量で1kgの反物が欲しいとします。
目付が100g/m2の場合だと10m2です。幅が1500mmだとすると長さはおよそ6.67m程度です。
その一方で目付が300g/m2の場合で同量ほしいとして幅が1500mmだと2.2m程度です。
つまり1kgのFRPや基材を作製するための設備の稼働時間が全く違うのです。
よって本来FRPの基材や、樹脂が含侵してあるプリプレグは目付で見積りを取るのが鉄則とも言えます。
この鉄則も金属ベースの思考で凝り固まると対応が困難かもしれません。
それは技術部門だけでなく、購買部門がそうなのです。
材料メーカは目付を基本に議論している。
この当たり前のことに今一度、ユーザーが気が付き、
上記の背景を踏まえ歩み寄るということが重要といえるでしょう。
当然ですが材料規格では繊維目付は100%要求します。
上述の通りFRPの強化繊維の仕様基本になるためです。
そして繊維目付だけでなく、基材に樹脂を含侵したプリプレグの場合はプリプレグ目付を要求することも一般的です。
これは既定のVfを達成するために想定された繊維と樹脂がきちんと合わさっているのかということを確認するためです。
参考までに過去には以下のページで目付を実製品の対応範囲理解として述べています。
ブレイドファブリック を販売する A&P Technology
設計に関係するため比較的理解が深まっている「Vf」
川中、川下の業界の方で最も馴染みのあるのがVfといえます。
英語では Fiber Volume 、日本語では繊維体積含有率といいます。
Vfは目付やRCと比較し身近なのは、FRPを設計する際の初期段階でよく用いる複合側でVfが出てくるからではないでしょうか。
複合側についてはまた別のコラムで書いてみたいと思います。
こちらの単位は vol% です。
体積分率です。
材料全体のうち、体積の何%が繊維なのか、ということを示しています。
Vfについて私の設計的観点ですと概ね以下のような感覚的数値を持っています。
– 一次構造材:55%以上
– 二次構造材:40%以上
– 汎用:40%未満
もちろん業界によっても違いますし、詳細を言えば用途によっても違いますが、
概ね上記のようなイメージではないかというのが私の考えです。
Vfが高い方が機械特性、物理特性は向上する傾向にあります。
ただVfは高いほどいいかというとそういうわけではありません。
当然ながらVfが高いということは
「マトリックス樹脂の量が少ない」
ということですので、樹脂を含侵するという工程がまず大変です。
少ない樹脂を繊維に含侵するということは、
最も含侵性の安定しているといわれるフィルム形態であっても、
フィルムがそもそも非常に薄くなってしまいます。
このフィルムを作るというのがまず大変です。
Vfを上げようとすればするほど繊維目付を下げることが材料作製の際にはポイントになります。
そして設計的観点から言うと、Vfを高くしすぎると
– 外観不良が出やすい
– 成形物の靭性が下がる(可能性が高くなる)
前者についてはVfが高いと樹脂が少ないので、
樹脂そのものが不十分で表層に凹凸が出る、
ということが問題の原点になります。
成形物の靭性が下がることについては、
高分子が粘弾性材料であることを考慮すれば自然のことかもしれません。
マトリックス樹脂である高分子はガラス的な性質に加え、
ゴム的な性質を常に持ち合わせるという粘弾性という特性を示します。
樹脂量が少なくなれば当然ながら材料の有する粘弾性特性が低下します。
一般的に材料中の荷重伝達は Shear Lag Model に基づきせん断モードで行われますので、
樹脂層が薄くなれば粘弾性特性が低下するというイメージでもいいと思います。
いずれにしてもVfが決まるのは成形後に樹脂がどのくらい流れ、成型後の厚みがどのようになるのかによって決まる、結果論的な数値です。
ユーザーがVfを気にするのであれば、材料メーカ任せではなく、ご自身でも製品や平板を成形し、Vfの確認をすることが重要と考えます。
盲点となっている「RC」
最後がRCです。
英語では Resin Content といい、樹脂重量含有率とも言います。
重量ベースで樹脂がどのくらい材料に含まれているのかを示します。
こちらはVfと異なり wt% が単位です。
ここが良く混乱するところです。
Vfから1を引いたものがRCだ、というのが誤解の一例です。
さらに言うとRCは樹脂の密度の影響を受けることはご理解の通りです。
熱硬化のエポキシはおよそですが比重は1.2程度。
一方で最近マトリックス樹脂として再度注目の集まる PP ( ポリプロピレン )の密度は約0.9、ポリアミドは約1.12です。
マトリックス樹脂の密度を考えずにRCでプリプレグなどの仕様を決めてしまうと、
樹脂密度が小さいほどVfは低下することになります(同重量だと密度が小さい方が樹脂体積が大きくなるため)。
尚、このRCはプリプレグの材料管理において規定の樹脂がきちんと繊維につけられているか(含侵しているかまではわかりません)ということを管理する指標として良く用いられます。
よって、プリプレグの材料規格では必ずと言っていいほど本要件を要求します。
いかがでしたでしょうか。
今日のコラムでは FRP 材料仕様の基本について書いてみました。
お互いが当たりあえとして考えていることがそれぞれ異なるということはFRPに限らずよくあることです。
そのようなミスコミュニケーションを減らす最大のポイントは、
「共通言語を使う」
ということです。
今回ご紹介した目付、Vf、RCはFRPを扱う方々にとっては必須の知見といえます。
仮に金属で実績や慣習があったとしてもそれにとらわれず、
柔軟に対応するという姿勢こそが技術的にはもちろん、
事業的にも成功の秘訣となっているのかもしれません。