はじめてのFRP オートクレーブ での成形方法の基礎
オートクレーブ ( Autoclave )による FRP の成形というと成形サイクルが長いといった漠然としたイメージを持っている方が多いかもしれません。
その一方でオートクレーブというのは長い目で見た時の成形品質も高く、
まとめて複数の部品を成形できれば成形サイクルでも見劣りせず、
さらに言うと大型のものになってしまうと金型サイズと重量の問題から、
オープンモールドでの成形は極めて困難になります。
そこで今日の はじめてのFRP では Airtech Advanced Materials Group がリリースした、
高耐熱対応のバギングシステムの紹介動画を参考に、プリプレグのオートクレーブによる成形方法について基本からおさらいしてみたいと思います。
オートクレーブ成形の概要
まずは以下の動画をご覧ください。
各工程の基本がきちんと述べられています。
工程としては以下のようなイメージです。
尚、本工程では高耐熱用の材料の成形(主に400℃近い温度での成形)に関する動画になっていますが、平板成形する場合の基本的な工程という意味では温度が低くとも共通です。
1. 基本となるベースプレートのシーリングする部分にマスキングをする
→この後塗布する離型剤がつかないようにするため。
2. 離型剤を塗布する
→成形した材料がベースプレートに貼り付かないようにするため。
3.成形するFRP材料(今回は繊維に樹脂が含侵されているプリプレグ)を積層する
→積層するごとに脱気を行うのがポイントです。今回の動画ではタック性(貼り付き)がみられることから熱硬化性のFRPであることがわかります。
→ここでの工程のやり方がいわゆるレイアップ(積層)であり、プリフォームの基本でもあります。
4. Peel Ply を材料の上にかぶせる
→この材料は Bleeder Lease(R) E Peel Ply と呼ばれるもので、以下のページで概要を見ることができます。
http://store.airtechintl.com/catalog/pr_cat/re_fa/02d_re_fa.pdf
素材としてはガラス繊維の織物で、表面にシリコーン系の離型剤が塗布されているものであることがわかります。
耐熱温度は427℃(800°F)です。
5. リリースフィルムを Peel Ply の上にかぶせる
→この材料は Thermalimide RCBS Release Film というもので、上にかぶせる Breather mat と Peel Ply の離型が目的です。
以下のページで材料の概要を見ることもできます。
https://www.airtechintl.com/en/Thermalimide-RCBS
一般的にはフッ素系のフィルムを使うのですが、今回は成形温度が400℃程度を想定していますので、
上述のようなポリイミドの離型フィルムを使っています。
6. ベースプレートのシーリング面を研磨する
→シーリング材がベースプレートにきちんと貼り付くことを目的としています。
研磨後に洗浄しているのがポイントです。
7. シーリング材を内側と外側に二重で適用
→高耐熱用の A-800-3G Sealant Tape (高耐熱)と GS-43MR Sealant Tape (耐熱)をそれぞれ内側、外側に貼り付けています。
真空引きするときに空気が入らないようにすることが目的です。
それぞれの材料の概要は以下のURLで見ることができます。
A-800-3G Sealant Tape
https://www.freemansupply.com/datasheets/Airtech/A8003G.pdf
GS-43MR Sealant Tape
https://www.freemansupply.com/datasheets/Airtech/GS-43MR.pdf
上記のうち A-800-3G Sealant Tape は400℃にも耐える高耐熱材料ですが、
GS-43MR Sealant Tape は一般的な耐熱シーラント材料です(230℃程度)。
何故二重にするのかは私はよくわかっていませんが、高耐熱のものは接着性が低いため、
それを一般的な耐熱シーラントで接着状態を補完する、という意図があるのかもしれません。
尚、これらのシーラント材料は寿命がありますので要注意です。
使わない場合は冷蔵庫に置いておいた方が無難である、
というのが私の見解です。
8. バックフィルムの寸法確認と脱気位置(ポート位置)の決定
→一度仮の形でフィルムをかぶせ、フィルム寸法がシーリングよりも一回り大きいことを確認し、
吸気するポートを置く位置を決めます(動画中では穴をあけています)。
Thermalimide Bagging Film の概要についてはこちらのURLをご覧ください。
こちらも一般的にはナイロンバックを使います。
今回は高耐熱なのでポリイミドタイプのフィルムです。
9. Airweave(R) UHT 800 ( Breather Mat ) をシーリングの内側にかぶせる
→不織布です。空洞があるためポートから吸気するときにその空気の通り道になります。
→Airweave(R) UHT 800に関する概要は以下のURLで見ることができます。
https://www.airtechintl.com/en/Airweave_UHT_800
10. ポートの取り付け
→吸気する際の吸引口になる金具を取り付けます。
11. バックフィルムをシーリングで固定
→シーラントの離型紙を取り、バックを固定します。
12. 最外郭に pressure sensitive tape Airkap 1 を貼り付け
→吸引時にバックが引張られる際に真空が破れることを防ぐため、外側をテープで貼り付けます。
→Airkap 1 については以下のURLで概要を見ることができます。
https://catalogue.airtech.lu/product.php?product_id=1461&lang=EN
13. 真空引きして空気漏れが無いことを確認
→実際には吸引してしばらく時間がたっても真空度が変わらないことを圧力計で確認するのが一般的です。
14. オートクレーブへ投入
15. 成形開始
以上が概要となります。
ここで見るべきポイントについていくつか考えてみます。
バックフィルムは伸びが大切
上記の動画は高耐熱の材料を成形することを想定していたため、
バックの材料としてはポリイミドを用いていました。
Thermalimide Bagging Film に関するデータシートを見ていただくとわかりますが、
破断伸びも100%以下です( ASTM D822ベース )。
決して伸びが悪いわけではありませんが、
一般的に用いられる Nylon Bagging Film は400%程度は伸びるのが一般的です。
※Nylon Bagging Film の一例:HCS2101-04 – Nylon Bagging Film
https://www.heatcon.com/product/hcs2101-04-30t-nylon-bagging-film/
上記のような平板ベースでも真空引きすると、
バックされる部分の体積が減るためフィルムは引張られます。
そして何より成形が平板であることはあまり多くなく、
実際の現場では三次元形状への成形になります。
その場合、凹凸が大きい場合はバックがその形状に追従するため変形することが必須となり、その対応としてタックをつけるのが一般的です。
とはいえそのような技術で対応できるのには限界があるため、
フィルムそのものが変形するという柔軟性が重要なのです。
よって、バックフィルムは変形が肝であり、
今回のような高耐熱でも300%を超えるような変形が可能なフィルムというのが、
業界的に求められていることを理解することは重要といえます。
オートクレーブ成形には多くの 副資材 が必要
Sealant / Breather mat / Peel ply / Bagging film 等….。
成形といっても多くの副資材と呼ばれる上記の材料が必要であり、
そのほとんどが使い捨てであるのが実情です。
この消耗品の手配が現段階では海外製に頼る必要性があるのが実情であり、
入手性が良くないものもあります。
このような材料を手広く手配できるという事業を有する企業があると、
FRP業界的には非常に助けとなるでしょう。
また材料そのものでいうと今回のような高耐熱は別として、
一般的に流通している材料で代用できる場合もあります。
上記に転用できそうな材料を副資材に転換利用するという切り口も、
新たなビジネスにつながるかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
オートクレーブによる成形方法の概要解説と、
それを踏まえた技術的課題、事業的観点についても述べてみました。
最新動向を見ることも大切ですが、
FRPの今を支える基本技術をじっくりと見直すことも同じくらい大切です。
長年の歴史により蓄積されてきた知見から再度学べることはないのか。
そのような好奇心と探求心が技術や事業の基本ということを忘れてはいけないのだと思います。
ご参考になれば幸いです。