鉄道車両 の構造部材、内装材で存在感を高める 3A Composites
FRP適用先として注目の集まる 鉄道車両 。
先月(2018年9月)も InnoTrans という鉄道関連の展示会が開催されていました。
以下でその概要を見ることができます。
日経新聞もこれに関しては2018年9月に記事を掲載しており、
鉄道車両が環境シフトになっていることが述べられています。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3564008021092018EA6000/
この記事によると近年の鉄道業界では、
蓄電池、水素燃料、FRPを中心とした車両の軽量化の取り組み、
といったことが行われていると述べられています。
今日のコラムでは鉄道業界で活躍するFRP関連企業の中から、 InnoTrans にも出店していた 3A Composites に焦点を当て、どのようなFRP関連技術が業界で求められているのか考えてみたいと思います。
3A Composites 社とは
この企業はスイスの Steinhausen に本拠地を構える企業で、
2009年から Schweiter Technologies AG の子会社となっているようです。
元々はアルミニウムを用いた複合材料(恐らくサンドイッチパネルなど)が主軸で、
関連企業を買収して拡大してきましたが、2009年から Schweiter Technologies AG の一員になったようです。
この辺りの概略は以下のページで見ることができます(ページはドイツ語)。
https://de.wikipedia.org/wiki/3A_Composites
Schweiter Technologies AG は近年、高分子材料を中心とした製品の拡大を進めており、
つい先月も Lucite International (Lucite Acrylic Sheet) と、
イギリスでの代理店企業 Perspex Distribution Ltd. (PDL) を買収したとリリースで述べています。
http://www.schweiter.ch/s1a254/news-2018/expansion-of-3a-composites-display-business.html
この買収は 3A Compsoites 社の事業を補填する役割が期待されているようです。
3A Composites 社は鉄道車両や大型バスの内装材や二次構造材を中心に展開しています。
各アプリケーション内容により名称が設定されており、
– 床材: COMFLOOR(R)
– 鉄道車両の先端部分モジュール: INNOCAB(R)
– エクステリア: XBODY(R)
– 内装材: INFIT(R)
の4製品が主な内容となります。
参照URL
https://3acompositesmobility.com/products/
それぞれの内容について概要をご紹介した後、
技術的ポイントについて私見を述べたいと思います。
薄肉化とヒーター内蔵が特徴の COMFLOOR(R)
概要については上記の動画、詳細については以下のURLをご覧いただくといいと思います。
https://3acompositesmobility.com/products/comfloor/
ポイントとしては30年の長期保証、
薄肉化による居住空間の拡大、
フォーム材とFRPのサンドイッチ構造による軽量化、
といったところがメインであると述べられています。
技術的なポイントでいうと、最も重要なのは
「電気回路の床材へのインテグレート」
でしょう。
いわゆる、スマートマテリアル化の取り組みです。
上記のページではヒーターとしての活用法のみ述べられていますが、
今の時代を考えればそれだけに電気回路の導入を使うというわけではない、
と考える方が自然です。
ページ中ほどにある System Powering と書いてありますが、
直流、交流はもちろん、120、230、400、680という、
汎用からかなりの高圧までの回路組み込みが可能です。
wi-fiといった情報通信はもちろん、
騒音防止のための逆位相振動による騒音低減、
各席への映像プログラムの提供、
といった電力を基本とする様々なアプローチが可能となります。
そして忘れてはいけないのは、当然ながら内装材なので「難燃性」は必須。
炭化水素でできているFRPをはじめとした高分子材料が最も苦手とする機能性の一つですが、
この機能性を実現するということが今後の新たな適用拡大の足掛かりになると思います。
外観性と複雑な形状成形がポイントととなるフロントエンド INNOCAB(R)
こちらについても概要は上記の動画、詳細は以下のURLをご覧いただくのが良いと思います。
http://3acompositesmobility.com/products/innocab/
概要としては、外観性がいい、色付けも容易、
補修や交換もやりやすく、薄肉化で運転席の居住空間の拡大を実現、
FRPを用いることで耐衝撃性が向上、
といったことが述べられています。
ここでの技術的ポイントは、
「外観性を改善させるため、ゲルコート層が最外層にある」
という材料構成です。
実は紐解いていくとここで用いられている材料の構成はFRPの中で最も古典的なものの一つです。
外観が重要なところをゲルコート層とし、
その下にガラスマットを積層し、熱可塑性の樹脂を含侵させています。
3A Composites 社ではインフュージョン成形で成形していますが、
積層は手作業(ハンドレイアップ)であり、もしバックを用いない手含侵であれば、
FRPの成形方法として最も古いハンドレイアップの典型的な手法となります。
ここで言いたいことはどれだけ積層技術や成形技術が進歩しても、
最も歴史あるハンドレイアップを基本とした積層・成形技術のニーズは常に高いという事実です。
ハンドレイアップでできる製品であれば、
ハンドレイアップによる工程の方が他の最新の積層成形プロセスよりも安定する。
そんなことを示唆していると考えて間違えではないでしょう。
大量生産を狙ってオートメーションに傾きすぎず、
昔から淘汰されずに残っている技術の重要性を改めて認識する事例だと考えます。
絶縁性と軽量化が肝となるエクステリア XBODY(R)
概要は上記の動画、詳細は以下のURLをご覧ください。
http://3acompositesmobility.com/products/xbody/
ポイントの概要としては、
大型パネルとして生産できるため組み立て時間の短縮が可能、
様々な形状への成形が可能で、サンドイッチ構造による薄肉化や騒音低減といったあたりが述べられています。
加えて耐腐食性というのもFRPの強みであり、外板部品では重要な性能です。
技術的なポイントとしては鉄道車両でもバスでもやはり軽量化でしょう。
鉄道も自動車も構造物の上部や前後(フロントエンド等)を軽くするほど走行性能が上がることはよく知られています。
外板部品は大きいものが多いため、
FRPのような軽量化材料のメリットが非常に強く意識される部位とも言えます。
実際、エクステリアでは軽量化による消費電力や消費燃料の減少が最大の強みといえます。
さらには鉄道車両の場合、FRP(特に強化繊維がガラス繊維の場合)の絶縁性能も電力ロスの減少に直結するため重宝されます。
一般的な四輪自動車の外板への適用は色々まだ課題はありますが、
鉄道やバスといった大型車両については軽量化効果も大きいため、
FRPを外板部品として使用する動機付けが比較的やりやすいと考えられます。
FRP化への適用が最も注目される内装材 INFIT(R)
概要は上記の動画を、詳細は以下のURLをご覧ください。
http://3acompositesmobility.com/products/infit/
概要として、形状の自由度、軽量化、モジュール化による組み立て時間短縮といったところです。
ただ内装材としての最重要の機能性はやはり「難燃性」ですね。
ここが無いと話が始まりません。
技術的なポイントについて私個人的には上記の難燃性以外だと、
「断熱性」
ではないかと思っています。
内装材の多くはそれほど強度剛性は必要ありません。
それよりも居住性を高めるため、
夏は涼しく、冬は暖かいという機能を最大化することが重要と考えます。
そういう意味ではガラス繊維やフォーム材は断熱効果を高めることが可能であり、
形状自由度と組み合わせて居住空間を確保または拡大しながら、
内部の断熱性能を高めるといったコンセプトが一案です。
内部の断熱性を高めれば温調器の負荷も下がり、
鉄道車両であれば同じ電力で走行できる距離が延びるといった、
環境的な観点でもメリットが出ます。
そしてこのような内装材に関する取り組みは、
FRPが活用される新たなフィールドになっていくことも認識していただくことが重要かもしれません。
いかがでしたでしょうか。
InnoTrans の出展企業から 3A Composites を選定し、
FRPの適用先として注目の集まる鉄道について海外の話を述べてみました。
日本は鉄道技術では世界トップレベルです。欧州で鉄道に乗ると日本の鉄道の乗り心地の良さと揺れの少なさには毎度ながら感心しています。
そして日本の企業にとって同じ国である以上、日本のマーケットは主力になると思います。
ただし、これから鉄道網が発達するのは新興国が中心。
そこへ進出する海外鉄道車両メーカーやTier 1と関係を持つことは、
ビジネスのリスクヘッジの一助になる可能性もあります。
1次構造部材やCFを中心としたアプリケーションにとらわれすぎず、
柔軟に昔ながらのハンドレイアップ(ハンドレー)やガラス繊維マットなどを見直すことで、
新たな事業が見えてくるのではないでしょうか。
環境性能の高まりが強く求められる鉄道業界。
そこはFRPがより活躍できるフィールドが多く残されていると考えます。
ご参考になれば幸いです。
※ご参考:内装材に関する過去のコラム・メールマガジン
ノンハロゲン難燃添加剤(メールマガジン Vol.077 2017/9/25)