FRP業界最新ニュース 新春特別号 2019
先週発行した メールマガジン である FRP業界最新ニュース 新春特別号 2019 の内容になります。 昨年も様々な動きがあり、今年も動きがあるでしょう。 浮き沈みがあるのはどの業界も一緒ですが、今年以降は 「異業種との協業」 ということがキーワードになっていくでしょう。
FRP材料だけ、自動車だけ、構造部材だけ、製造プロセスだけ、といった「だけ」という制限をつけず、 垣根を越えて協業できる製品やサービス、テーマがFRP業界をけん引していくと思います。
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3D printing を用いた工場ライン部品生産(Vol.085 2018/1/15)
stratasysが、PA12とチョップCFを組み合わせた FDM Nylon 12CF (TM) を用い、
オランダのチョコレート工場の生産ライン部品を作るというお話です。
CFと組み合わせることで、降伏引張強度63MPa、7GPaを超える弾性率を実現。
PA12単体と比較して引張強度の改善は50%程度、弾性率にいたっては10倍程度の改善がみられた、
ということを述べました。
ただこの部品は消耗品である上に複雑形状であり、
加工に時間がかかる上、できるサプライヤも少なかったとのこと。
この背景を踏まえ、
「設備部品の内製化によるリードタイムの減少」
ということを目的に今回の話は実現したようです。
複雑形状が得意という3D printingと、高強度・高剛性を実現するCF強化を組み合わせた、
非常に興味深い取り組みです。
海底油田、海底ガス田への熱可塑性複合材パイプの適用(Vol.086 2018/1/29)
耐腐食性が高いというFRP固有の機能性を十分に活用した、
近年欧州で注目されているテーマです。
m-pipe(R)と呼ばれる高圧パイプをMagmaが開発し、
DNVGL-RP-F119 という認証をDNV(デット・ノルスケ・ベリタス)から取得。
マトリックスにはスーパーエンプラであるVictrexのPEEKが使われており、
恐らく、部分的には既に実用化されているものと推測します。
エネルギー業界は変革期を迎えており、
大量に安く供給するというモデルは衰退し、
再生可能エネルギーを中心に、多様なエネルギー源を取り扱うという必要性があります。
その際、従来型エネルギー供給企業に求められるのは、
設備の長寿命化と保守費用削減。
耐腐食性に優れるFRPの活躍する領域になっていくと期待されます。
FRP業界における 東南アジアの雄 COBRA (Vol.087 2018/2/12)
あまり知られていないことかもしれませんが、
アジアの中でも東南アジアにはFRPで力を発揮し始めている企業が増加しています。
製造業全般で言えば東南アジアは重要な生産拠点ですが、
まだまだ発展途上。
そのような中で今回ご紹介するCOBRAは頭一つ抜きんでた勝ち組企業の一社といえるかもしれません。
B to C で培ったマーケットニーズの理解と、
当該ニーズの精度を高めるための情報発信を行うという、
ビジネスモデル的にも優れた企業という印象です。
FRPのように今すぐの大量生産が見込めない業界において、
非常に参考となる取り組みでしょう。
EVONIKがアクリル系コア材を発表(Vol.089 2018/3/12)
昨年のFRP業界トレンドど真ん中の一例です。
連続繊維のFRPをスキンに、フォーム材をコアにする、
というのは決して新しいものではないのですが、
コア材の選択肢が増えたことで再度見直されています。
このコア材の典型例が熱可塑性の発泡材です。
「ROHACRYL(TM)」という名称でEVONIKから発売されています。
コア材を用いると設計評価は難しくなりがちですが、
取り組みとしては不可避な領域のひとつといえます。
熱可塑性UD材料の新たな展開(Vol.091 2018/4/9)
FRPの古典的な材料の一つであるUD材料のマトリックスを熱可塑性樹脂にしたものを、
– Motor overwind
– Composite hybrid pipe
といったところに使おうというお話です。
前者はモーターの回転部品やケーシングに用い、
後者はガス、液体などの輸送パイプとしての適用を想定しています。
パイプについては上述の通り既に実用化されています。
モーターについてはFRP絶縁性というものを機能性としてとらえ、
新たな一歩を踏み出したいという取り組みです。
FRPの特性が最も顕著に表れるUD材料を使う新たなアプローチです。
ワイヤを組み込んだFRP材料の磁界応答を応用した応力状態評価 (Vol.096 2018/6/4)
「材料成形体に付与される応力を非接触で検知する」
という目的のもと、センシングシステムを構築しようというのが概要です。
10から60ミクロンという小型の非晶性のソフト磁性回路を用い、
応力がかかった状態になると、
外部磁場によるワイヤを介した応答が変化するという性質を応用しています。
センシングという機能化への取り組みは今の時代必須といえます。
上記のセンシングは媒体をシンプルにすることでそれを実現化しようとしています。
炭素繊維のケーブルへの適用(Vol.097 2018/6/18)
東京製綱が展開する炭素繊維に熱硬化性樹脂を含侵させた構造用ケーブルについてのお話です。
「耐腐食性」
という機能性を中心とした展開がポイントのようです。
緊張材や補強筋のように常に高荷重がかかり続けるもの、
外ケーブルやグラウンドアンカーのように、
水などの外的ストレスにさらされる環境での適用が一例です。
またそれ以外としては軽量、低線膨張という特徴から、
架空送電線に適用され、地上高、遠距離、増容量対策としても適用されているとのこと。
こちらもFRP適用な新たな展開先を示す例といえるでしょう。
Plataine が FRPの材料管理も想定した AI / IoT を用いた工程最適化ツールを展開(Vol.100 2018/7/30)
最近、マスメディアでよく目にするAIやIoTに関する技術を、
FRP業界ではどのように取り入れようとしているかのお話です。
ご存知の通りAIは学習させて初めてその実力を発揮するもの。
どのようなアプトプットを得ることを目的とし、
そのためにどのようなインプットをするのか、
というコンセプト設計が肝となります。
それについてPlataine CEOが言っているのは、
– AIシステムにインプットされる情報は、
・「ERP(Enterprise Resource Planning:経営における資源要素の有効分配計画)」
・「センサーを経由した設備稼働/空き状況」
・「人的配置/空き状況」
といった3要素が基本。
– アウトプットはAIの特定アルゴリズムによって最適化された解をもとに判断し、
時間軸とリソース配分方法の2つを基本としてタイムリーに提案を行う。
– データのやり取りにはクラウドを使うことでデータ保管の負荷を低減。
セキュリティーについては防衛関連企業の協力を得ることで対応している。
ということです。生産部門の高効率化への適用が主軸であることがわかります。
FRP業界で言えばまだまだ安定したものを作り続けるというアプリケーションは限定的です。
しかし、少しずつこのような技術を取り入れることで底上げしていく、
という取り組みは必要でしょう。
ニーズの高まる難燃性FRPである SAERTEX LEO(R) SYSTEM とは(Vol.104 2018/9/24)
これもFRP業界では見逃せないトレンドです。
内装材への適用拡大に向けた難燃性付与というテーマです。
SAERTEX LEO(R) という難燃性を有する材料製品について、
高速列車への適用を事例に様々な事が述べられています。
今回の Saertex の発表で驚くべきは難燃性のマトリックス樹脂が熱硬化であるということでしょう。
熱硬化の強みを活かしながら弱点である難燃性も付与する。
このような製品の拡大がきっかけとなり、FRPがさらに広範囲に適用されることを期待したいところです。
MultiMechanics が Simcenter との互換性実現に向けた取り組みを開始(Vol.105 2018/10/8)
MultiMechanicsが強みとする、
異方性を考慮したMicrostructureをベースモデルとするmultiscaleのシミュレーションソフトを旗に、
他のシミュレーションソフトとの互換性を目指そうという取り組みです。
MultiMechanics は既に Abaqus や ANSYS といった代表的なソフトで互換性を持っていますが、
さらにSimcenter との互換性を持たせようとしています。
Simcenter といえば Fibersim ですね。
Fibersim としては異方性を有するがゆえに破壊進展の予想が必要とされる、
FRP材料へのシミュレーションにも対応したいというのが、
異方性材料のプリプロセッサーで力のある MultiMechanics と組みたい、
という戦略の一部に関係している可能性があるでしょう。
このようなCAE関連の企業間の互換性が高まることは、
FRP業界の底上げには極めて重要と考えています。
東京工科大学における CMC(セラミックス複合材料)センター が本格稼働開始(Vol.111 2018/12/31)
FRPではありませんが、複合材料という意味では関係のあるCMCについての日本の取り組みのご紹介です。
東京工科大学では、
1. 先端素材・プロセス部門
2. 性能評価・解析部門
3. 計算機利用・信頼解析部門
4. 技術支援部門
5. 研究事務支援室
という複数の部門を設定し、CMCの応用研究を進めていこうというのがコンセプトです。
世界で初めて民間製品に適用されたCMCの強化繊維は日本カーボン株式会社の製品です。
ただその適用は海外企業が第一歩目を踏み出しています。
日本の技術が自国で日の目を見ないという苦境に陥っている事実を示しています。
今回のような大学を中心とした取り組みを通し、海外の二番煎じではなく
「日本が主導する新たな展開」
というものを世界に提案していくことを期待していきたいところです。
いかがでしたでしょうか。
2017年の時と比較し、2018年はより地に足がついたテーマが増えてきたという印象を持っています。
淘汰が進み、本格的にやろうとするテーマが成長を始めているのが背景の一部ではないでしょうか。
引き続き先の読みにくい状況が続いてはいますが、
こういう時だからこそチャンスを見出し攻めていく、
という企業が弊社の周りで多くなっている印象です。
引き続き楽しみな一年になりそうです。