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腕時計 へのCFRPや複合材料の適用

2019-07-18

ここ最近、立て続けにCFRPや炭素ベースの複合材料を 腕時計 に適用するというリリースが出ています。

一つが G-SHOCK MUDMASTER GG-B100、
もう一つが TAG Heuer CARRERA Heuer-02T です。

どちらもなかなか興味深いので、それぞれ見ていきたいと思います。

 

筐体への積極的なCFRP適用を目指した G-SHOCK MUDMASTER GG-B100

この製品の概要は以下動画で概ね感じることができると思います。

また、製品のHPは以下にあります。

https://g-shock.jp/products/mog/mudmaster/gg-b100/

G-SHOCK MUDMASTER GG-B100 へのCFRP適用は主に筐体等の構造部材です。

目的は上記のHPにもあるように、耐衝撃・防塵・防泥性能 とのことで、
過酷な使用に耐えるようにするというのが第一目的です。

最も衝撃が加わりやすいインサートベゼルにはクロス材のCFRPを適用し、耐衝撃性を改善。
これは三層構造になっており、強靭な耐久性を目指しているものと考えます。

さらに筐体本体をCFRP化により高剛性化したことにより、
耐衝撃性と変形による埃や泥の内部侵入を防ぐため、
ボタンガードも不要になっているそうです。

腕に接触するパネルバックには、特に耐衝撃性の強いGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を適用しています。

インサートベゼルはあえてカーボン調が出るようにしている辺りが、
CASIOのこだわりを感じますね。

この製品はイルミネーションはもちろん、
方位、高度、気圧、温度、歩数といった各センシング機能が搭載。
最近不可避となりつつあるスマートフォンとの連携も可能のようです。

本製品のCFRP部分は日本の企業が成形加工しているようです。
小型のものを精密に成形加工するという日本企業の得意とする仕事がよく表現されていますね。

 

 

ヘアスプリングに炭素系複合材料を適用した TAG Heuer CARRERA Heuer-02T

製品の概要は以下のHPで見ることができます。

https://www.tagheuer.com/en-ch/news/tag-heuer-carrera-heuer-02t

こちらは構造部材というより、
精密部品へ炭素系の複合材料を適用しています。

具体的には時計の精度確保の肝といえる hairspring (ヘアスプリング)を複合材料にしています。

以下に概要の動画があります。

https://www.youtube.com/watch?v=xCCgR3Qn6_Y&feature=youtu.be

非常に興味深いつくり方ですね。

見てお分かりかもしれませんが、ヘアスプリングはスパッタリングで作っています。

スパッタリングとは、

低圧気体中の金属を加熱またはイオン衝撃するとき、
蒸発または衝突によって金属面から原子が気体中に飛散して、
付近の物体面に付着する現象。

※参照元

理化学辞典 第五版 (岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b256607.html

とのこと。

今回のヘアスプリングの場合、
水素とエチレンガスで充満させ、950℃程度にてスパッタリングしているようです。

電圧によりプラズマ化したエチレンは炭素原子に分割され、
それが水素による還元反応で、
予めパターンを鉄系インキでパターン描写されたシリコンウェハー上に析出していく、
というのが主な仕組みとのこと。

鉄原子の影響で炭素原子が引き寄せられているのがポイントになります。

尚、シリコンウェハーを台座に使うのはその優れた平面平滑性と清潔性とのことです。

一つのシリコンウェハーで330個のヘアスプリングが作れます。

このままだとバラバラになるので、
第二工程として化学処理することで複合材となる模様。
この化学処理の詳細は一切述べられていません。

出てくる材料の弾性率は25GPaとかなり柔らかめ。

イメージが若干しにくいかもしれませんが、一般的なゴムの弾性率の10倍程度です(同サイズのゴム製の成形物で同じ変形をさせるのに10倍の力が必要)。

さらに磁性体でなく、丈夫であり、また化学的性質も中性であることがポイントのようです。

スパッタリングが基本のため、
複雑形状である中心の取り付け部(Colletと呼ばれるようです)の成形も終わっており、
そのまま本体に取り付けられるなど作業性にも優れています。

raquette ( index adjuster )と呼ばれる調整器も使えるというメリットがあるとのこと。

ヘアスプリングの分子構造(原子配列)が六角形なので、
それをイメージした構造を全面に出すあたりが欧州の時計メーカーらしいデザインです。

こちらの時計もインサートベゼルにはCFRPが使われてそうですが、
上記の MUDMASTER GG-B100 と異なり、ランダム材のようです。
詳細が述べられていませんが、こちらは耐衝撃性というよりは、
軽さや意匠性というところを売りにしていると推測します。

この辺りは以下のJECのリリースにも概要が述べられています。

http://www.jeccomposites.com/knowledge/international-composites-news/watch-ahead-its-time

 

身近な製品へのCFRPや炭素系複合材料適用の流れ

今回ご紹介した2つの 腕時計 は、どちらもCFRPや炭素系複合材料の特徴を活用しようという姿勢が見て取れます。

高剛性による衝撃時の変形低減という MUDMASTER GG-B100 のコンセプトは非常に興味深いです。

また、CARRERA Heuer-02T ではスパッタリングにより炭素系複合材料で精密部品を成形し、
変形に対する柔軟性、磁性体が無いという点を上手く利用し、
時計の精度を高めようという試みがなされています。

このように身近な製品にも遂にCFRPを含む炭素系複合材料が出てきたことからも、
世界中でCFRPに対する理解と設計思想が浸透してきているものと考えます。

しかしその際に重要なのはやはり「何故その材料を使うのか」というコンセプト。

設計開発の原点ともいうべきこのコンセプトがずれないことこそ、
やはり最重要なのだということを再認識しました。

今後の新たな製品展開への参考になれば幸いです。

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